2016年4月16日、ギリシャのレスボス島のミティリーネ空港に到着し、アテネと全ギリシャの大司教イエロニモス2世(左)に出迎えられるローマ教皇フランシスコ(右)。
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- ローマ教皇庁は、パルテノン神殿の彫刻の断片3点をギリシャ正教会に「寄贈」という形で返還する。
- バチカン美術館は1803年以来、ギリシャが「盗まれた」と主張するこれらの断片を収蔵してきた。
- ギリシャは長年にわたって、バチカンや大英博物館に収蔵されているこれらの彫刻を取り戻そうとしている。
200年以上の時を経て、ローマ教皇庁は、ギリシャのパルテノン神殿から盗まれた彫像の破片「エルギン・マーブル」をギリシャ正教会に返還することに同意した。
この返還について、バチカンは「寄贈」としているものの、これはバチカン美術館やイギリスの大英博物館から彫刻を取り戻そうしてきたギリシャにとって、大きな勝利だといえる。
当初、フランシスコ教皇は彫像をギリシャへ長期貸し出しすることを検討していたが、「そのまま寄贈することにした」とバチカン美術館の考古学部門長であるジャンドメニコ・スピノラ(Giandomenico Spinola)がニューヨーク・タイムズに述べている。さらに、大英博物館に収蔵されている彫像も返還されるべきだということに関して、議論するまでもないことだと付け加えた。
ロンドンの大英博物館では、古代ギリシャのパルテノン神殿を飾っていた彫刻群「エルギン・マーブル」が展示されている。これらはバチカンによってギリシアに返還されたものとは異なる。
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2022年12月16日、バチカンは以下のような短い声明文を発表した。
「聖父フランシスコは、真理の証しをするためのエキュメニカル(教派を超えて結束を目指すこと)な旅を続けたいという誠実な願いの具体的なしるしとして、数世紀にわたって教皇庁とバチカン博物館に大切に保管され、世界中からの何百万人もの訪問者が鑑賞してきたパルテノン神殿の彫刻の断片3点を、アテネと全ギリシアの大司教イエロニモス2世に寄贈することを決定した」
ギリシャの文化スポーツ省は声明で、教皇の決定を「寛大」だとし、この断片の返還に促される形で、大英博物館も同じように返還してくれることを望むと述べた。
Insiderはバチカンとギリシャ正教会にコメントを求めたが、回答は得られていない。
ギリシャは長年、パルテノン神殿から持ち出された遺跡の返還を求めてきた。パルテノン神殿とは女神アテナを祀るためにアテネのアクロポリスに建てられた神殿で、世界で最も有名な古代遺跡の一つだ。
19世紀、オスマン帝国駐在のイギリス大使だったエルギン伯爵がこの神殿から彫像の断片を持ち出し、1803年にはバチカン博物館に、そして1816年には大英博物館に売却した。
ギリシャのキリアコス・ミツォタキス(Kyriakos Mitsotakis)首相は「我々の立場は非常に明確だ」とガーディアンに述べている。
「彫像は19世紀に盗まれた。アクロポリス博物館に帰属するものだ。この問題を真剣に議論する必要がある」
大英博物館が収蔵するのは、メトープ浮彫15体、ペディメンタル彫刻17体、そして全長160メートルのフリーズ(帯状装飾)から切り取った75メートルの断片だ。フリーズに関しては、バチカンも同じ構造体から取った断片を収蔵している。
バチカンや大英博物館のほか、パリ、コペンハーゲン、ミュンヘン、ウィーン、パレルモ、ヴュルツブルクでも断片が収蔵されているが、現存するオリジナルの彫刻の約半分は大英博物館に収蔵されている。
大英博物館の関係者は、断片はパルテノン神殿の「瓦礫から取り出されたもの」であり、神殿の表面からはがされたわけではないため、合法的に入手したものだと主張しているとガーディアンが報じている。
ギリシャのリナ・メンドーニ(Lina Mendoni)文化相はガーディアンに向けた声明で「長年にわたり、ギリシャ当局と国際科学界は、パルテノン神殿の彫刻の撤去をめぐる真実を、揺るぎない論拠をもって明らかにしてきた」と述べている。
「エルギン伯爵は、不法かつ不公正な手段で、法的な許可を得ずにパルテノン神殿の彫刻を押収、輸出するという明らかな連続窃盗行為を行った」
Insiderは大英博物館にコメントを求めたが、回答は得られていない。