アルファベットのサンダー・ピチャイCEO。
Brandon Wade/Reuters
- AIチャットボット「ChatGPT」が公開されたことを受け、グーグルは「コードレッド(緊急事態)」を発動したとニューヨーク・タイムズが報じている。
- 同社のサンダー・ピチャイCEOは、いくつかのチームに対してAI製品の開発に集中するよう指示したという。
- このような動きは、ChatGPTがいずれグーグルの検索エンジンに取って代わるかもしれないという懸念がきっかけとなって始まった。
Yコンビネーター(Y Combinator)の元社長、サム・アルトマン(Sam Altman)がCEOを務めるAI(人工知能)研究組織、OpenAIが開発したAIチャットボット「ChatGPT」が公開され、話題になっている。そんな中、グーグル(Google)の幹部は、自社の検索エンジンの先行きが怪しくなったとして「コードレッド(緊急事態)」を発動したとニューヨーク・タイムズ(NYT)が報じている。
NYTが確認した内部メモと音声記録によると、グーグルの親会社アルファベット(Alphabet)のサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOは、AI戦略を巡るいくつかの会議に参加し、ChatGPTが検索エンジン事業にもたらす脅威への対応に集中して力を入れるよう、社内のさまざまなチームに指示したという。
とりわけ、研究部門や信頼・安全部門などのチームは、新たなAI製品のプロトタイプの開発や商品化を支援するために頭を切り替えるよう指示された。OpenAIが開発し、多くのユーザーを引き付けている「DALL-E(ダリ)」のように、アートやグラフィックを生成するAI製品を開発するよう命じられた従業員もいるという。
Insiderはグーグルの広報担当者にコメントを要請したが、回答は得られていない。
グーグルの従業員や専門家はChatGPTが検索エンジンに取って代わり、ひいてはグーグルの広告収入ビジネスモデルに打撃を与えるのではないかと議論をしていた。AI製品を開発しようという動きは、そこから生まれてきたものだった。
2013年から2018年にかけてグーグルの広告チームを率いたスリダール・ラマスワミ(Sridhar Ramaswamy)は、ChatGPTによってグーグルの広告リンクをユーザーがクリックしなくなるかもしれないとInsiderに語っている。だが、その広告がアルファベットの主な収入源なのだ。2021年には全収益の81%にあたる2080億ドルが広告からのものだった。
公開から5日で100万人以上のユーザーを集めたChatGPTは、何百万ものウェブサイトからの情報をまとめて1つに合成した回答を、人との会話のような形式で伝えることができる。ユーザーは、ChatGPTを使って大学の課題のエッセイを書いたり、コーディングのヒントを得たり、さらにはセラピーの役割までさせているとInsiderが以前報じている。
だが、ChatGPTはエラーだらけであることに気づいた人も多い。このボットは生成した回答の事実確認ができず、検証済みの事実と間違った情報の区別がつかないと、AI専門家がInsiderに説明している。また、AI研究者が「妄想」と呼ぶ現象で回答を作り上げることもできる。さらに、人種差別的、性差別的、攻撃的な回答を生成する可能性もあるとブルームバーグが報じている。
グーグルが自社で開発したチャットボットLaMDA(ラムダ:Language Model for Dialogue Applications)の一般公開を躊躇しているのは、ChatGPTと同様に、LaMDAも間違った情報や悪意のあるバイアスのかかった情報を生成してしまう可能性があるからだとNYTが報じている。またCNBCによると、グーグル幹部は「レピュテーションリスク」への懸念から、現状のままでLaMDAを広く公開することに消極的だという。
AIチャットボットは「日常的に信頼して使えるようなものではない」と、グーグルのAI研究所グーグル・ブレインを率いるズービン・ガハラマニ(Zoubin Ghahramani)は、ChatGPTが公開される前にNYTに語っていた。
グーグルは新たなAI製品の開発に全力を注いでいると言われている。2023年5月に開催される予定のグーグルの年次開発者会議「I/O」では、その姿をいち早く目にすることができるかもしれない。