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2023年はクリエイターエコノミーにとって、不況の懸念や景気低迷による潜在的な悪影響に適応するための「調整」の年になりそうだ。
一部のインフルエンサーは、年が改まるかなり前から生き残り戦略を練り始めている。クリエイターやマネージャーたちは2022年11月の時点で、資金繰りに苦しむ広告主が出稿先を厳選するようになれば、事業が打撃を受ける可能性があるとInsiderに語っている。
タレントマネジメント事務所ソサエティ18(Society18)のCEOであるパメラ・ザパタ(Pamela Zapata)は、2023年にはインフルエンサーマネジメントだけでなく、ブランド企業との契約実現に向けた支援にも手を広げることを検討している、と話す。
とはいえ、景気後退が差し迫っているにもかかわらず、ソーシャルメディアの利用はまだ増加すると予想されている。Insider Intelligenceの予想では、Z世代が毎月TikTokを利用する割合は、2022年の64%から2023年には70%近くに増加するとしている。
Insiderは投資家、インフルエンサーマーケティング担当者、業界専門家を取材し、2023年のクリエイターエコノミーはどんな変化が起きそうかを予測してもらった。以降では5つのトレンド予測を紹介しよう。
1. 新規参入のクリエイターがさらに増加する
タレントマネジメント事務所ケンジントン・グレイ(Kensington Grey)の共同創業者であるシェイナ・イングルトン・スミス(Shannae Ingleton Smith)は、2023年にはTikTokがさらなる成長を見せ、X世代、ミレニアム世代のクリエイターがこのプラットフォームに参入するだろうと予測する。
「Z世代が主役として表舞台に立ち続けることは間違いないでしょう。しかし、InstagramやYouTubeでまだ名を挙げていない本当にビッグな新星たちが、TikTokを舞台にスターダムにのし上がってくるでしょう」(イングルトン・スミス)
イングルトン・スミスはその一例として、「年齢を重ねた美しさ」について語る女優のジュリア・フォックス(Julia Fox)がTikTokのトレンドに上がっていたことを挙げる。
特にYouTubeには、クリエイターの新しい波が訪れるかもしれない。
「2023年は、YouTubeに参入するクリエイターの数が過去最多になるでしょう」と語るのは、UCLAエクステンション(UCLA Extension)でマーケティングを専門にするリア・ハバーマン(Lia Haberman)非常勤教授だ。
「短編動画は、このエコシステムの一部となるとは思っていなかったクリエイターたちの参入障壁を下げました。さらに短編動画にアドセンス(AdSense)が追加されたことで、YouTubeはより魅力的なプラットフォームになりました。プロのクリエイターにとって、YouTubeは予測可能なコンテンツ配信によって持続的な収入が得られる、目下最良の手段なのです」(ハバーマン)
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タレントマネジメント事務所ワンデイ・エンターテインメント(One Day Entertainment)の創業者であるザック・ホナバール(Zack Honarvar)は、より大規模な制作チームや事業開発チームを雇うクリエイターが増えるだろうと予測する。また、Vlog(ビデオブログ)のような古いタイプのYouTube配信フォーマットへのノスタルジックな回帰や、海外市場での吹き替え動画など、コンテンツのグローバル化が進むとも考えている。
グッズ販売会社ファンジョイ(Fanjoy)のタレント担当副社長、ジョシュ・グロドベーザ(Josh Glodoveza)は、アメリカ以外のクリエイターも来年は人気が出る可能性があると言う。
「テクノロジーがさまざまな国で利用できるようになることで、今後何年間かでクリエイターはよりグローバルに活躍することになるでしょう」(グロドベーザ)
2. 写真や短編動画以外にもコンテンツが拡大
デジタル制作会社ブラット(Brat)の共同創業者であるダレン・ラクトマン(Darren Lachtman)は、クリエイターは複数のプラットフォームで視聴者を獲得しようと、ポッドキャストへも引き続き進出するだろうと予想する。
「オーディオのみの作品から、オーディオとビデオを融合させた『ボッドキャスト(Vodcast)』作品へと進化していくと考えています。このフォーマットなら、クリエイターは同じコンテンツを複数のプラットフォームに投稿できますから」(ラクトマン)
また、2023年は生配信に挑戦するクリエイターが増えるかもしれないと、スタートアップ企業クララ(Clara)の創業者であるクリステン・ニノ・デ・グズマン(Christen Nino De Guzman)は予測する。
「私がTikTokで働いていたとき、中国版TikTokではライブストリーミングが大人気でした。多くのトレンドがまず中国で生まれ、すぐにアメリカが後追いするという傾向がありました」(グスマン)
ハバーマンもライブストリーミングには注目している。プラットフォーム、小売業者、マーケティング担当者、クリエイターが視聴者とつながり、より多くの潜在顧客をファネルに取り込む手段として、ライブストリーミングに関する学習が進むだろうとハバーマンは考えている。
ライブストリーミングには「完璧な写真を撮影する技術や、20秒動画のストーリーボードを作るのとは違うスキルと才能が必要」(ハバーマン)だが、こうしたスキルを身につけられれば視聴者の関心を長く引きつけられるかもしれない。
インフルエンサーのタレントマネジメント会社タレンティッシュ(Talentiish)の創業者であるジュリアン・アンドリュー(Julian Andrew)は、次のように話す。
「何時間もライブストリーミングができるクリエイターは、本当に成功するようになるでしょうね。コンテンツはより長尺が求められています。ライブストリーミングでいかに視聴者の注目を集められるかが2023年のトレンドになるでしょう」
3. アメリカでライブショッピングがついに始動か
アメリカでもライブショッピングが花開くか。
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「2022年はソーシャルショッピングとライブショッピングの年になる」と業界関係者たちが宣言したのは、時期尚早だったかもしれない。
多くのソーシャルメディアプラットフォームが新しくショッピング機能を立ち上げる一方で、Meta(メタ)やTikTokなどはこの分野での戦略を見直している。2022年の市場の悪化により、ポップショップライブ(Popshop Live)のようなライブショッピングの新興企業も、費用削減を余儀なくされた。
しかし、2023年は違うかもしれない。
バイラルネーション(Viral Nation)の共同創業者であるジョー・ギャグリース(Joe Gagliese)は、中国ではライブショッピング市場が2021年時点で3000億ドル(約39兆円、1ドル=131円換算、Insider Intelligence調べ)規模に達していることを引き合いに出し、この市場は成長するとの考えを示している。
「ストリーミングはただのエンタメではなく利益も生み出すのだということを、視聴者もブランド企業も理解するようになりました」(ギャグリース)
しかし、アメリカ市場に関してはそれほど簡単にはいかないかもしれない。
Insider Intelligenceの調査によると、アメリカではライブショッピングをはじめとするソーシャルコマース手法はまだそれほど浸透していないようだ。Insider Intelligenceが2022年10月に行った調査によると、アメリカ成人の43%が「ライブストリームコマースを使ったことはないし、使うことにも興味がない」と回答している。
(注)14歳以上を対象とし、暦年中にプラットフォーム自体でのリンクや取引を含め、プラットフォーム経由で少なくとも1回の購入を行ったソーシャルネットワークユーザー(オンライン、モバイル、タブレットでの購入も含む)
eMarketer/Insider Intelligence
しかし、Facebook、Instagram、TikTokなどのプラットフォームを介して商品を購入するユーザーは増えており、その広範なソーシャルコマースも機が熟す可能性がある。
ショッピングアプリLTKの共同創業者兼社長であるアンバー・ベンズ・ボックス(Amber Venz Box)は、次のように話す。
「クリエイターが誘導するショッピング体験は、時間とお金を効率的に節約できるうえ、よりパーソナライズされているので、この手法が気に入る人も増えるでしょう」
4. クリエイターエコノミーのスタートアップ企業の間で淘汰が進む
この1年、パトレオン(Patreon)やジェリースマック(Jellysmack)といった企業が景気減速に対応して従業員を解雇したように、クリエイターエコノミーにおいても一時解雇が横行している。
クリエイターのマネタイズに特化したスタートアップ、ピコ(Pico)の共同創業者であるニック・チェン(Nick Chen)は、スタートアップへの悪影響は2023年も続くだけでなく、さらに悪化する可能性があると述べる。
「2023年は多くのクリエイター系スタートアップが終わりを迎えるでしょう。ベンチャーキャピタリストは、今はクリエイターエコノミーに賭ける時期ではないと考えているため、これからの9カ月は本当に厳しくなると思います」(チェン)
多くのスタートアップがパンデミックのピーク時にこの領域に参入してきたため、特に2022年は過去2年と比べてVCからの資金調達が困難であり、今後3~6カ月で資金が枯渇する企業も出てくるとチェンは考えている。そうなると、資金不足に陥ったスタートアップの中には、廃業を決断するところも出てくるかもしれない。
アメリカンインフルエンサーカウンシル(AIC)を創設したクイアナ・スミス・ブリュヌトー(Qianna Smith Bruneteau)は、一部のクリエイター向けスタートアップは生き残るのが難しいと考えている。
「その多くは、サービスが維持できないほどの非常識なバリュエーションを提示され、またユーザー基盤の獲得にも苦戦するため、失敗に終わるでしょう」(ブリュヌトー)
扉が閉ざされる可能性のある分野の1つとして複数の専門家が指摘するのが、リンクインバイオ(SNSやブログなど、複数のURLを1つにまとめられるサービス)の分野だ。ハッシュタグ・ペイ・ミー(Hashtag Pay Me)の創業者であるシンシア・ラフ(Cynthia Ruff)は、「リンクインバイオ企業が10社潰れても驚かない」と話す。
しかしチェンは、2023年第4四半期には景気が回復し、その時点でまだ生き残っているスタートアップは資金を調達できるかもしれないと予測する。
「スタートアップがそれまで持ち堪えれば、労働の日(9月の第1月曜日)までには回復すると考えています」(チェン)
5. M&Aが活発化する可能性も
厳しいマクロ経済環境、迫り来る景気後退、資金不足の結果、スタートアップ市場ではディールメイキングと合併の波が押し寄せる可能性がある。
コンサルティング会社ロックウォーター・インダストリーズ(RockWater Industries)のアソシエイトであるアレックス・ジリン(Alex Zirin)は、「バリュエーションと倍率の低下により、ほとんどの買収対象が事実上『掘り出し物』になっています。その結果、プライベート・エクイティ(PE)のような機関投資家が、中・大規模の新興企業をより有利な価格で買収するようになると考えています」と言う。
業界の専門家は2023年、リンクインバイオ企業やクリエイター向けフィンテックソリューションなど、クリエイターエコノミーの中でも飽和状態にあるニッチ分野に注目している。
アドバイザリー会社パートナー・ウィズ・クリエイターズ(Partner with Creators)の創業者であるアヴィ・ガンディー(Avi Gandhi)は次のように語る。
「クリエイターの側から見ると、選択肢が多すぎるんですよ。あなたにしろ他の誰かにしろ、サービスが選ばれる確率は、突如として指数関数的に低くなるわけです。時にユーザーは圧倒されて、サービスを選ばないこともあります」