「憧れの職業に就いたにもかかわらず満たされていなかった」というステイシー・ティスデイル。何が転機になったのだろうか?
Stacey Tisdale
ステイシー・ティスデイル(Stacey Tisdale)は、夢の職業だった金融ジャーナリストとして働いていた。取引先はウォール・ストリート・ジャーナル、CBS、CNNなど業界最大手の報道機関だ。しかしこの成功にもかかわらず、彼女は満たされていなかった。大きなストレスを感じており、自分のお金に関して最善の決定ができていなかったのだ。
ティスデイルはInsiderに対し、「安全地帯にいましたが、行き詰まっていました」と語る。
「ストレスがひどかったし、次のステップについて迷っていました。金融ジャーナリズムの世界で働き、お金の上手な管理を助ける仕事は続けたかったのですが、やり方を変えなければならないと思っていました」
最終的に気づいたのは、自分が恐れているということだった。彼女は常に、自分に期待されていることをしてきたのだ。
「自分がいる場所や持っているものだけで十分だし、そこから抜け出そうとするのは馬鹿げたことだと思い込んでいたんです」
彼女は自分の人生の変革に取り組み始めた。ある日、CNNでレポートしていた時、ふと自問した。お金について正しく理解することが、こうも難しいのはなぜだろうと。日々のお金の管理だけでなく、経済的成功への備えという点でもだ。
この疑問に加え、自分自身がお金と正しく付き合って、従来の障壁を打破したいと願っていたこともあり、彼女は6年間かけて金融行動について勉強した。従来のモデルから脱却して自分の情熱に投資するために、経済的自立の実現を妨げる原因について研究したのだ。
彼女の探究はある金融行動、すなわち「マネースクリプト(money script:お金についての台本)」の研究として結実した。「マネースクリプト」とは『Conscious Finance: Uncover Your Hidden Money Beliefs and Transform the Role of Money in Your Life』の著者であるリック・ケーラー(Rick Kahler)が作った用語で、お金とその仕組みについて、生まれた瞬間から始まる条件付けの結果、獲得した思い込みのことを指す。
ティスデイルによると、マネースクリプトには主に3つあるという。
子ども時代のスクリプト:人間が初めてお金についての教育を受けるのは、最初の養育者からだ。養育者のお金の使い方、お金に対する考えや態度を見て学ぶ。お金にまつわる第一印象はこの時期に作られることが多い。両親がお金についてストレスを抱える様子や、ギリギリの暮らしをする姿を見ていた人は、自分自身もお金についてストレスを抱え、ギリギリの暮らしをする可能性が高い。
社会的スクリプト:人間は持つべきものややるべきことについて、社会からのメッセージやメディアに大きく影響を受け、自分の人生や実績を他人と比べることに多くの時間を費やしてしまう。こうした社会的スクリプトは、自分に対する感じ方にも影響を与える。
「私を悩ませていたのはこのマネースクリプトでした。自分の頭の中で、私は世間の人が欲しがるものを持っているのだから、それを捨てるのは無意味だと思っていました。自分自身を他人や社会が言う成功の理想像と比べていました。それに囚われていたせいで、その時していたことをやめるのが怖かったのです」(ティスデイル)
頭の中で流れる曲:お金をもらい始めた瞬間から、人間は先入観を持つようになると彼女は言う。心の中で後ろ向きな考えや疑いを抱くことは、経済的成功への最大の障壁になりかねない。「お金の管理はとても難しい」といった考えを信じたり、「投資のやり方なんてわかるわけがない」と自分に言い聞かせたりすることが、頭の中で流れる「曲」の典型だ。
自分のマネースクリプトを理解すれば、そこから脱却できるし、それに翻弄されてよくない金銭的な決定を下すこともなくなる。
「私の頭の中で流れていた、『自分は今のままで大丈夫だ』という社会的スクリプトから抜け出す必要がありました。だって実際には大丈夫じゃなかったのですから。私は恐怖に突き動かされていたし、お金を最大限に活用していませんでした。このスクリプトを手放して初めて前進でき、投資の仕方も変わったのです」
彼女は自分がいずれは「アメリカという会社」から去らなければならないとわかっていた。これには悩んだとティスデイルは認める。彼女はニューヨーク証券取引所からレポートした最初の女性の1人であり、初のアフリカ系米国人でもあったが、だからといって幸福ではなかったし、経済的自立も果たせていなかった。
「私が情熱を感じられるのは、お金のこと、お金を上手に管理する方法を人に教えることだというのはわかっていたのに、他のことをしていました。抜け出すのには時間がかかりました。社会や仲間が言うには、私はいるべき場所にいたからです」
と、ティスデイルは自身の経験について語る。
またこの時期には自分自身のよくない金融行動にも苦労していたという。
「気がつけば、お金を使いすぎてカードローンを抱えていました。これは一晩で解決できるものではなかったので、やりたいことがうまくいくかどうかを試してみる必要がありました」
自分のアイデアが実行可能かどうかを知るために彼女が作り上げたのは、学生がお金にまつわる健全な行動を習得できる行動ベースの金融リテラシープログラム「ウィニング・プレイ$(Winning Play$)」だ。
「お金についての報道を長年続けたことで、私は人間とお金について独自の見方を身につけていました。よくない金融行動にはすぐに気づいたし、若い頃に始まったそうした行動は、一生続く場合が多いこともわかりました」と彼女は言う。そして、自分も時間をかけて負債から抜け出して経済状況を改善しながら、ビジネスのアイデアを試していった。
ティスデイルは「ウィニング・プレイ$」の制作を通じて、ようやく自分の情熱に気づき、身につけたお金の知識を自分の好きなことに活かせると思ったという。
「それを完成させることは、長年の思い込みから最終的に抜け出すために必要なショックでした。それから私は、お金や金融リテラシーに関するビジネスの立ち上げに本腰を入れ始めたんです」
重要なのは、我々は皆、意識しているか否かを問わず、何らかのマネースクリプトに基づいて動いていることだと彼女は言う。
「金銭的な問題があるとすぐ数字を見て、もっとお金を稼ぐことが唯一の解決方法だと考えてしまいます。もっとお金を稼いでも数カ月後には同じ状況に逆戻り。そんなときは、『なぜこのような状況になったのか』『なぜ私のサイクルはこうなのか』と自問してみるといいでしょう」
ティスデイルはその後、フィナンシャル・ウェルネスに力を入れたマルチメディア・イベントコンテンツ提供事業「マインド・マネー・メディア(Mind Money Media)」を立ち上げた。自分のやり方から抜け出すことで、初めて自分のキャリアや経済的成功を見出すことができたとティスデイルは言う。彼女の会社は多くの組織や企業と提携して、従業員によい金融行動や、お金との健全な関係を教えている。この研究のおかげで、彼女は行動金融学と金融心理学についての草分け的なジャーナリストの1人になった。
「皆、自分の金銭的な意思決定が学習した金融行動に基づいていること、またその行動のせいで情熱の追求や経済的な目標の達成が妨げられている場合が多いことを認識しなければなりません。私は、頭の中のスクリプトを捨て、本当にやりたいことに投資して初めて、経済的成功を収めることができたのです」