2020年、2022年と「上位1%の運用実績」を記録したジェームズ・アバーテ氏。
Centre Asset Management
ポートフォリオマネージャーのジェームズ・アバーテ氏は2020年9月にブルームバーグ・ラジオに出演した際、投資家向けのアドバイスとして、アップル(Apple)のポジション(持ち高)を減らしてエクソンモービル(Exxon Mobil)を買うべしと推奨した。
当時、その発言は馬鹿げたものと受けとめられた。それも当然、エクソンモービルはテクノロジー業界の巨人セールスフォース(Salesforce)に追いやられ、ダウ工業株30種平均指数の構成銘柄から外れたばかりだったからだ。
ところがその2年後、アバーテ氏のコントラリアン(逆張り)手法は大当たりだったことが明らかになった。投資カテゴリー別のポートフォリオマネージャーランキングでは上位1%入りを果たした。この3年間で2度目の快挙だ。
アバーテ氏が運用を担当する「センター・アメリカン・セレクト株式ファンド」は、年初来のパフォーマンスがマイナス2.5%と、同じ投資カテゴリーに属する競合ファンドの99%(平均マイナス16.9%)を上回り、2020年以来2年ぶりにパフォーマンス上位1%に入った。
米投資信託評価機関モーニングスター(Morningstar)のデータによれば、同ファンドは直近1年、3年、5年の期間リターンで見ても、最上位パーセンタイルに属する。
ただ、景気後退の脅威が差し迫ったいま、逆張り手法でホームランを打てる時代はすでに終わったというのがアバーテの考えだ。
これからは、低成長と粘着性のインフレに悩まされる「軽度のスタグフレーション」に突入し、その向こうに株式市場の底打ちが見えてくるという。
S&P500種は9カ月以内に「30%下落」
アバーテ氏は、現在の歴史的なマクロ経済環境が、2000年から2001年にかけてドットコムバブルが崩壊した後の時期に酷似していると見る。
当時、1997年の(タイを震源とする)アジア通貨危機やロシアの債務不履行などに対応して、米連邦準備制度理事会(FRB)など各国中央銀行は大幅な金融緩和(利下げ)を実施。あふれた資金が株式市場に大量流入して株高を誘発し、バブルの発端となった。
「(コロナ対策としての)超緩和的な金融政策の導入により(マネーが流入して)株式市場が過熱する流れは、ドットコムバブルの焼き直しのようです。残念ながら、マクロ経済環境はまだ下落基調に偏っているように私には見えます。
ドットコムバブルの時と同じように、超緩和策による株高が(引き締め政策で)すべて帳消しになるのだとしたら、足元の弱気相場は底打ちまでさらに30%下げ、S&P500種指数で言えば2700前後になるはずです」
アバーテ氏の予測によれば、最悪シナリオで進んだ場合、市場の底打ちには最大9カ月かかる。ただし、FRBが正真正銘のソフトランディングを成功させ、米経済が景気後退入りを完全に回避できた場合は、3カ月以内にも底打ちに至る可能性があるという。
とは言え、FRBはまだ積極的な(ペースはともかく)利上げスタンスを崩しておらず、それゆえにインフレ問題は意図せず長びく可能性があるとアバーテ氏は見ており、後者のソフトランディングシナリオには懐疑的だ。
アバーテ氏の底打ち予想は、現時点での市場コンセンサスとは相反する。それでも彼は自説に歴史の裏付けがあると確信している。
2001年の景気後退は理論的には2001年3月に始まり、9月に終わったものの、弱気相場はその後も16〜17カ月続いた。言うまでもなく、弱気相場が長期化したのは同年9月11日に起きた米同時多発テロ事件の影響だが、それにしても底打ちまでに2年という月日が必要だったことをアバーテ氏は強調する。
「S&P500種指数は、1990年代後半のように(テック企業への)偏りが生じ、時価総額の大きい企業の影響力が過大になっています。そのため、実態経済の回復状態と(テック大手に引きずられる)株式市場の動向との間に大きな断絶が生じる可能性があるのです」
リスク軽減に役立つ11銘柄
アバーテ氏によれば、2023年に投資家が直面する大きな問題の一つは、企業の利益率の伸びしろが狭まって、マイナスの営業レバレッジ(売上高の変動に対する営業利益の変動率、弾力性)が働き、業績低下につながる展開だ。
「ここまでは労働力(固定費としての労務費)が安価だったので、例外的に利益率を伸ばせる時期が続きました。間違いなく、企業の経営状態は以前より改善され、収益性を重視した経営にシフトしています。
ところが、景気後退や売上減の影響がひとたび出始めると、困ったことに、この売上高の減少ほど利益率の上昇を徹底的に阻害するものはないのです」
アバーテ氏は今後について、均等型(組み入れ比率が等しい)ポートフォリオが投資家にとって正しい選択となると指摘する。時価総額加重平均型のS&P500種指数をアウトパフォームする銘柄が広い分野にわたって出てくるというのがその理由だ。
ディフェンシブ銘柄、とりわけ公益事業、生活必需品、ヘルスケアの3セクターに属する銘柄がその(アウトパフォーム期待の)筆頭候補に挙げられる。
とは言え、投資家がリターンを確保するために自力でできる最善の取り組みは、他にないアイデアを持つ企業を探し当てることだ。圧倒的に魅力的なビジネスモデル、力強い収益成長性、高い価格決定力を兼ね備え、統制の取れた設備投資戦略を展開する企業、それ以上に望ましい投資先はない。
「ベンチマークに連動したインデックス(指数)投資では思うようにリターンが得られない市場においては、他にない独特のアイデアを持つ企業を見つけるのが何より大切です。
そうしたアイデアを有する企業にもすでに景気低迷の影響は及んでいますが、これから景気後退入りしたとしても、受注残に支えられて景気後退期を乗り切ることができるでしょう」
アバーテ氏は際立った特有のアイデアを持つ企業の実例として、バイオテクノロジー銘柄からバイオジェン(Biogen)とギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences)を、医療機器銘柄からはポストパンデミック期の医療需要回復の恩恵を受けるであろうジンマー・バイオメット(Zimmer Biomet)とメドトロニック(Medtronic)を挙げた。
コモディティ市場では供給制約が長期化しており、チタンなど高級特殊金属メーカーのアレゲニー・テクノロジーズ(ATI)、窒素系肥料メーカーのCFインダストリーズ(CF Industries)、種子・農薬技術で大きなシェアを持つコルテバ・アグリサイエンス(Corteva Agriscience)にアバーテ氏は注目する。
パンデミック下で2021年に陥った苦境をようやく乗り切った(サミュエルアダムスの製造元)ボストンビール(Boston Beer)も注目株だ。
また、航空機業界のサプライチェーン制約に解消の糸口が見えてきたことから、最大手ボーイング(Boeing)などのサプライヤーである複合材料メーカーのヘクセル(Hexcel)がその恩恵にあずかるとアバーテ氏は指摘する。
さらに、アバーテ氏が最近買い推奨に加えた銘柄に、資本財セクターの中堅企業カービー(Kirby)がある。
「同社の主力ビジネスは(石油・石油化学製品輸送用のタンク船を曳押航する)タグボートのオペレーションで、それ自体はきわめて地味なものですが、サプライチェーン問題の今後などの観点から手堅い需要の伸びが期待されるのです」
同じ文脈でアバーテ氏が推奨する銘柄が、アメリカ国内のエネルギーセクター向けにポンプやバルブなど流量制御システムおよびサービスを提供するフローサーブ(Flowserve)だ。大きな受注残を抱え、非常に魅力的と言える。