中国のバッテリー大手CATLがバッテリーを供給するフレイトライナーのEVトレーラー「eカスケディア」。
Freightliner
バッテリー駆動の新型自動車が続々と登場し、乗用車の製造業が一変する中、次に電気商用車(商用EV)が登場するのは自然な流れだった。ガイドハウスインサイツ(Guidehouse Insights)の予測では、世界の商用EV市場は2030年までに年間売上高が3700億ドル(約49兆2000億円、1ドル=133円換算)を超えるとされる。
すでに世界最大手のリチウムイオン電池メーカー各社が、EVトラックが必要とするバッテリーの製造に乗り出している。中国のバッテリー大手、寧徳時代新能源科技(CATL)はフレイトライナー(Freightliner)の電気セミトレーラー「eカスケディア(eCascadia)」用に、日本のパナソニックは待望のテスラ(Tesla)「セミ(Semi)」用にバッテリーを製造している。また韓国のサムスンSDIは、リビアン(Rivian)がアマゾン向けに製造する配送車バンのバッテリーを製造している。
だがこれだけではない。今やさまざまな新興企業や中小企業、意外な企業が、さまざまな商用車向けにバッテリーその他の技術で貢献しており、独自のニッチを切り開いている。以降では、特に注目すべきバッテリーメーカー7社を紹介しよう。
マグニス・エナジー(Magnis Energy)
本社:オーストラリア/シドニー
ニューヨーク州エンディコットといえば、100年前にIBMが誕生した地だ。だが現在、ここはオーストラリアのマグニス・エナジーの子会社であるインペリウム3・ニューヨーク(iM3NY)が運営するリチウムイオン電池製造の「ギガファクトリー」の拠点となっており、マグニス・エナジーは本国オーストラリアでも別の工場を運営している。
このニューヨークの拠点では2022年に生産が開始され、2022年12月にはマグニスが現地展開を行うため資金調達に動き始めたと報じられている。
iM3NYは主にアメリカを拠点としたサプライチェーンを誇り、国内生産で業界の需要を満たせる唯一のリチウムイオン電池企業だと主張している。
同社は、採掘に問題があり、高コストで評判が悪いニッケルやコバルトを使用しない陰極用化学物質を開発した。この電池システムは大型商用車にも使用可能であり、マグニスは送電網用のエネルギー貯蔵ソリューション用に、より大型のものを製造する予定である。
フレイル・バッテリー(Freyr Battery)
本社:ノルウェー/モー・イ・ラーナ
ノルウェーを本拠とするフレイル・バッテリーは、電力網が再生可能エネルギー源を扱うのを支援する定置型蓄電システムなど、さまざまなサステナビリティ・プロジェクトに取り組んでいる。
EVだけでなく、電気バス、ボート、トラック用のバッテリーも製造しており、電気モビリティにも深く足を踏み入れている。
フレイルは、リチウムイオン電池内に存在する余分な物質の多くを取り除き、システムをより効率的にする24M「半固体」リチウムイオン電池の設計を売りにしている。
2022年12月、フレイルは、ジョージア州コウェタ郡の新ギガファクトリー計画など、ノルウェーとアメリカでの拡張計画の資金調達のため、1350万株の普通株を発行した。現在はシーメンス(Siemens)、マースク(Maersk)、ハネウェル(Honeywell)などと提携している。
ボルグワーナー(BorgWarner)
本社:アメリカ/ミシガン州オーバンヒルズ
ミシガン州に拠点を置くボルグワーナーは、モータースポーツイベント「インディアナポリス500」の優勝トロフィーにその名が冠されるほど、長きにわたって自動車産業と深く関わってきた。
現在、ボルグワーナーは社内改革と買収を通じて、電動化の未来、特に商用車分野での足場づくりに動いている。
例えば2021年には、ドイツのバッテリー開発会社アカソル(Akasol)を買収した。同社はダイムラーやボルボ・グループといった商用車大手と大規模なバッテリー製造契約を結んでいる。
また2022年9月には、中国のフーペイ・サーパス・サン・エレクトリック(SSE)を買収し、これらのトラックへの電力供給を行うDC高速充電技術の能力を強化している。
マイクロヴァスト(Microvast)
本社:アメリカ/テキサス州スタッフォード
2006年創業のマイクロヴァストは、リチウムイオン電池の垂直統合を目指している。2022年11月にはゼネラルモーターズ(GM)と提携し、新たに成立した超党派インフラ法における国産バッテリー製造重視の一環として、エネルギー省から2億ドル(約266億円)の助成を受けた。
マイクロヴァストはこの資金をもとに、バッテリーセパレーターを製造する新しい米国工場を支援する。同工場は、テネシー州にあるマイクロヴァストのバッテリー工場に部品を供給する予定だ。
マイクロヴァストは、ATV、路線バス、セミトレーラー、建設機械などの商用車をターゲットにバッテリーを製造している。
フレイ・ニューエナジー(Frey New Energy)
本社:中国/徐州市
2010年に中国で創業し、中国鉱業大学と提携して事業を行っているフレイ・ニューエナジーは、トラック、フォークリフト、ボート、鉱山機械などの大型用途のバッテリーを製造するための、特別なエンジニアリング上の課題に取り組んでいる。
例えば、これらの大型車両に必要になるのは、EVよりも高い割合でエネルギーを放電しながらも、その寿命や走行距離を低下させないバッテリーだ。
フレイは、同社の電池は「耐久性、信頼性、防爆性」に優れており、特に閉鎖空間や狭い場所での作業が必要な採掘トラックやその他の自動車では、この最後の要素が重要であるとしている。
ザルト・エナジー(XALT Energy)
本社:アメリカ/ミシガン州ミッドランド
ドイツの大手企業フロイデンベルクのブランドであるザルト・エナジーは、ミシガン州の工場で、商用トラック、ボート、特殊車両向けの高度なバッテリーの製造を行っている。
同社のバッテリーは、カナダの鉱山機械メーカー、マクリーン(MacLean)の電動鉱山機械、EV-シリーズや、アメリカ初の水素燃料電池フェリー、シーチェンジ(Sea Change)、ニュージーランドやイギリス海峡を走る電気フェリーボートなどに電力を供給している。
ノースボルト(Northvolt)
本社:スウェーデン/ヴェステロース
元テスラ執行役員で現CEOのピーター・カールソン(Peter Carlsson)が2015年に創業したノースボルトは、EVだけでなく商用車用のバッテリー製造でもシェアをとるべく、BMWやフォルクスワーゲンなどの自動車メーカーやゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)やフォルクシャム(Folksham)などの金融機関から資金を集めた。
これらの角型リチウムイオン電池の生産が始まるなか、同社は商用車や産業用のソリューションも売り込んでいる。これには、送電線への接続が困難な遠隔地の建設現場で商用車を充電するための大型バッテリーシステム、ボルトパック(Voltpack)などがある。