不動産投資家のトーマス・ハー(右)。
Thomas Harr
トーマス・ハー(28)は、オハイオ州コロンバスにある父親の会社で働く土地家屋調査士としてキャリアをスタートさせた。当時の給料は年間3万2000ドル(約432万円、1ドル=135円換算)ほどだったとInsiderに語った。
2017年、ハーの叔父がフィックス&フリップ(修繕して売却)の仕事でパートナーにならないかと持ちかけ、不動産投資のアイデアも伝えた。叔父が資金を提供し、ハーは物件を見つけて現場に住み、修繕の監督と手助けをするというものだった。
彼はこのプランに同意し、最初の物件としてオハイオ州コロンバスの高級住宅地区で6ベッドルーム、5バスルームの3975平方フィート(約370平方メートル)の一戸建て住宅を探し当てた。そして、叔父が42万7500ドル(約5770万円)でこの物件を購入したという。
その後10カ月間、予算オーバーの修理が延々と続くことになる。不動産市場でなかなか買い手がつかず、ようやく売却できのは約8カ月後のことだった。
目標は80万ドル(約1億円)で売ることだったが、結局71万ドル(約9600万円)でしか売れなかったという。叔父はこのプロジェクトで10万ドル(約1350万円)以上の損失を出したとハーは推測している。
ハーの最大の失敗は、近隣の住宅と比較して、この物件の修繕後の価値を高く見積りすぎたことだった。後で気づいたことだが、他の家は数ブロック離れた静かな通りに面していたのに、その家は交通量の多い大通りに面していたのだ。また、間取りもよくあるタイプではなかったので、それを好むユニークな買い手が必要だった。
「いつも誰かのために責任を負っているというか、誰かのお金に縛られていて、自分がその一部になっている。だから、うまくいかなくなると最悪な気分になるんだ。
だから、あれはよくなかった。私と叔父の関係は、最後には悪化してしまった。それ以来、彼とはまだ以前と同じようにはいかないけど、たくさんのことを学んだよ」(ハー)
しかし、最初の挑戦が失敗しても、彼はあきらめなかった。現在、ハーは42件の不動産を所有している。その多くは賃貸の集合住宅だ。ハーはそのうち38棟は50%の所有権、4棟については単独で所有権を持っている。
失敗をきっかけに、ハーは物件を購入するために住宅販売業者と契約する卸売業に手を出すようになった。所有権を持つのではなく、興味のある買い手を見つけ、その買い手に売ってわずかな利益を得るのだ。
もうひとつ、ハーが気づきを得たエピソードがある。2018年12月のことだ。このとき彼は、購入価格5万3000ドル(約715万円)の3ベッドルーム、1バスルームの家を売ろうとしていた。しかし、購入者を見つけることはできなかった。
ハーが困っていることを聞き及んだ母親の友人が、家を修繕して売却するためにお金を貸すと申し出た。その見返りは利益の50%を彼女に支払うというものだった。
彼女はまず、小規模な改修にかかる7000ドル(約94万5000円)を含め6万ドル(約810万円)の小切手を切り、その後予定外の改築費用としてさらに1万ドル(約135万円)を支払った。家が完成すると、彼らはこの物件を13万ドル(1755万円)で売り、それぞれ手取りで2万5000ドル(約337万5000円)の利益を得たという。
この時ハーは、派手なことをやるより、シンプルで手頃な価格の家にこだわった方がいいと気がついた。結局、お金は銀行口座に入れば同じだということがわかったのだ。
2019年5月、ある2世帯住宅に目を留めたハーは初めて物件を自分で購入した。片方のユニットにはすでに月800ドル(約10万8000円)の家賃を払っている借家人がいたのでそのままにし、ハーは空いている方のユニットに入居した。
頭金の一部(6000ドル〔約81万円〕)は両親から借り、住宅ローンは連邦住宅局(FHA)を利用した。FHAは政府系のローンで、審査が通りやすく、頭金も3%程度と少なくてすむ。住宅ローンの支払いは月1467ドル(約20万円)で、他のユニットから入ってくる家賃収入と自分のユニットの空きベッドルーム2室を貸すことで賄うことができた。
「いろんな人に言うんですよ。最初の10軒じゃ銀行口座には何の変化も現れないし、人生が大きく変わるわけでもない。変わるのは、自信がつくこと、そしてもっとリスクを取ろうという意欲だ」(ハー)
初心者のための6つのアドバイス
シンプルな物件から始める
多くの買い手を引きつけるためには、奇抜な要素やユニークな特徴のない、標準的な家を選ぶこと。こうすれば、同じ地域の類似物件と比較しやすくなる。その結果、修繕後の価値をより正確に判断することができるのだ。
初めて家を買う人が支払える価格帯にこだわる
家の修繕後の価格は、合理的で手頃なものであるべきだ。これは地域や予算によっても変わってくるが、ハーはオハイオ州コロンバスの場合、20万ドル(約2700万円)以下にとどめている。
また、最初のうちは多くの失敗を経験するので、小さく始めることが重要だ。そうすれば、大金を失うこともないだろう。
投資初心者の多くは、最初の取引が完璧なホームランになることを望むものだ。しかし、それは期待しない方がいいし、規模を拡大したいのであれば、利益をビジネスに再投資する準備ができていなければならない。そうすれば、さらに不動産を購入したり、従業員の雇用を増やしたり、プロセスの自動化を導入したりすることができ、事業拡大につながる。
着実な成長には、小さな勝利を積み重ねることが必要だ。そして、経験と自信を積み重ねれば、より大きな取引に挑戦できるようになる。
物件には複数の出口戦略があることを確認する
その不動産が投資に対してリターンをもたらす方法が複数あることも大切だ。ハーは、各物件に3つの出口戦略があることを好む。つまり、卸売、修繕して売却、賃貸の3つだ。
これは、状況の変化に対応するために重要なことだ。例えば、高金利になった場合はすぐに住宅を売却することが難しくなるかもしれない。そのため、月々の経費を上回る金額で賃貸に出せることが必要だ。もし、所有することが必要で、住宅ローンを組むのであれば、元金、利息、税金、保険料が、その地域の家賃相場より低く抑えられていることを確認しておこう。
市場価格より安く、あるいは割引価格で住宅を購入する
上記の3つを成功させるためには、住宅を市場価格より安く、あるいは割引価格で購入する必要がある。そのような物件は、一般市場で見つけるのは難しいことが多い。ハーは車であちこちを回りながら、苦境の兆しのある物件を探し、市場外での取引を試みる。住所をもとに登記で所有者を調べて手紙を送り、売却を検討してもらえないかどうかを聞いてみるのだ。
ハーいわく、所有者が相続した人だったり、借家人が家を傷つけたりしていて、物件を手放したいが方法がわからないということはよくあるという。
物件に付加価値をつける
少し傷んだ家を見つけるのもよいだろう。価格を上げるためには、物件に付加価値をつける必要があるからだ。徹底的に掃除し、新しいカーペットに交換するといったことも有効だ。しかし、物件が金食い虫になるような事態は避けたい。
「ほとんどの人は、売却しようとするとデザイナーになりたがる。何にでも不満を感じ始め、時には必要のない高価なものを家に投じてしまうんだ」(ハー)
なにも一からやり直す必要はない。目標は大金をかけずに競争力をつけることなので、その地域の比較対象に基づいて改装すればいい。
ハーは不動産情報サイトのZillowで写真をスクロールして、近隣の家の内装のレベルを知ることを勧めている。例えば、床はカーペット敷きか、それとも堅木張りか。キッチンのカウンタートップはラミネートか、天然石か。いずれにしても、手頃な価格のものを選ぼう。
専門家の経験を活用する
最後に、たとえ費用がかかっても、専門家の経験を活用する必要があるとハーは言う。そうすることで、長い目で見れば何千ドルもの改修費用を節約できるかもしれない。例えば、構造的に大きな問題がないかどうかを検査官に調べてもらう、修理にかかる費用の見当をつけたければ建築業者に依頼する、などだ。
ハーは起業した当時、不動産教育プラットフォーム「Bigger Pockets」のポッドキャストを延々と聴き続けたという。しかし結局、投資家としての専門知識を得ることも、家の改修に伴うすべてを理解することもできなかった。自分で失敗して、苦労して学んでいくしかなかったのだ。
結局のところ、理論はあくまで理論。感情的な知性については教えてくれない。
業者を管理し、お金を管理し、家を買ってそれを転売することができるようにならなければならない。ポッドキャストで聴くと、とてもいい話に思えるし、簡単そうに聞こえる。でもそれが、多くの人がこの不動産投資というゲームを少し誤解しているところだ。達人たちは、これが難しいことだとは教えてくれない」(ハー)