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中国はなぜゼロコロナ政策を「大転換」したのか。習近平政権を揺るがす「Z世代の反乱」その実態

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11月28日、北京市内で「白紙」を掲げてゼロコロナ政策に抗議する若者たち。2020年に大きなうねりとなった香港の抗議デモでも同様の光景が見られた。

REUTERS/Thomas Peter

中国政府が厳格なゼロコロナ政策を大転換した。移動禁止など厳格な規制に反発する若者たちの抗議デモが、反体制運動に発展するのを警戒した政策転換だった。

「安定と安全」を強調する習近平政権にとって、最大の脅威はアメリカや台湾ではない。中国の将来を担う18歳から29歳までの「Z世代」の反乱だ。

3期目をスタートした政権に重くのしかかる課題になる。

いきなり飛び出した「共産党打倒」

それが起きたのは11月27日の夜。習近平氏の母校でもある北京の清華大学や上海の街頭で、言論抑圧への抗議の意思を表す「白紙」を掲げた若者たちの間から、「共産党下台(打倒)」「習近平下台」を叫ぶスローガンが飛び出したのだ。

商店や飲食店への出入り、地下鉄に乗るにもPCR検査の陰性証明提示を義務付けられる厳しい規制がほぼ3年にも及び、窒息感を募らせた若者たちが政策転換を求めた理由は納得できる。

だが、批判の矛先がただちに共産党と習氏に向けられたのには、いかにも唐突感があった。

中国では高度成長に伴い、地方政府による土地収用や環境破壊をもたらす企業誘致に反対する抗議運動が、年間10万件にも上るとされてきた。しかし、その標的は地方政府や企業に向き、共産党による統治に向けられることはなかった。

これまでの抗議運動はある意味、民衆の不満の「ガス抜き」でもあった。

それが突如として、共産党に矛先が向けられる形になったのは、軍が学生らデモ隊を武力弾圧して死者を出した天安門事件(1989年)などを経験していないZ世代にとって、要求すべきレベルの「値ごろ感」が掴めなかったからではないか。

公然と掲げられた横断幕

「共産党打倒」が飛び出す前には「伏線」もあった。

中国共産党第20回党大会(10月16〜22日)開始の3日前、首都・北京の高架橋に「習独裁体制」やコロナ政策を批判する横断幕が公然と掲げられた。その様子をとらえた映像はすぐに削除されたが、ソーシャルメディアを通じ中国全土に拡散した。

党大会で「習独裁」が強化されることに、党内の一部から批判が出ていることはメディアでも報道されていた。だが、白昼の、北京の公衆の面前で習批判の横断幕が掲げられたのは、政権にとってショックだったに違いない。

習氏は党大会でゼロコロナ政策の正しさを再確認したばかりだ。だから、抗議デモが起きたからといって、ただちに当局がゼロコロナ政策を見直す可能性は低いと筆者は見ていた。

今回の「白紙」抗議は、2020年夏に香港で起きた抗議デモの際に生まれたスタイルの「模倣」でもあった。それだけに、中国の政府当局はこのデモが香港の民主派や対中人権批判を強める欧米と連携する展開を警戒したはずだ。

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11月29日、在ニューヨーク中国総領事館周辺でゼロコロナ政策に抗議する人々。中には「習近平下台(打倒)」のカードを掲げる姿も。

REUTERS/David 'Dee' Delgado

体制批判を封じる「分断策」

白紙デモ翌日の11月28日、警察・司法を管轄する共産党中央政法委員会は「敵対勢力の浸透、破壊活動や社会秩序を乱す違法な犯罪行為を、法に基づき断固取り締まる」との方針を示した。抗議活動が体制批判に発展しないよう芽を摘む姿勢を示した

その一方、コロナ対策責任者の孫春蘭副首相は11月30日、オミクロン株の弱毒性やワクチン接種の進捗を挙げ、「感染対策は新情勢を迎えている」と発言、規制の見直しを示唆した。

ゼロコロナ政策を大幅に見直して一般大衆の反発を抑えつつ、白紙デモのような反体制的な批判は徹底して取り締まる「分断策」への方針転換だ。

これを習氏の発言が裏書きした。

習氏は12月1日、欧州連合(EU)のミシェル大統領(欧州理事会議長)と会談した際、「3年間のコロナ禍で主に学生のいらだちが募っている」と述べ、Z世代の不満を認識していたことを示した。

また、習氏は感染拡大が広がるオミクロン株について「致死率が低い」とも述べ、EU高官はこれらの発言から中国が規制緩和に動く感触を得たという。

「伸縮自在」の習ガバナンス

日本を含めて西側諸国では、習氏に独裁者のイメージがつきまとう。

しかし、その統治スタイルについて、朱建栄・東洋学園大教授は次のような分析を筆者に示す。

「(習氏は)逆らえない流れに直面すると、弾力的に政策大転換を図るガバナンス・スタイルが身についている。文化大革命で父親が迫害され、自身も農村に下放させられた経験からだろう」

具体的な事例として、朱教授は武漢市で最初にコロナ発生を「内部告発」した李文亮医師への対応を挙げる。

李氏が虚偽情報を流したとして処分を受けると、その名誉回復を求める声が全国に広がり、それを受けて習氏は、李氏を市民にとって最高の栄誉と位置づけられる「烈士」に認定した。

朱教授はこの習氏のやり方を「収放自如(伸縮自在)」のガバナンスと呼び、機動的な政権運営を展開できるスタイルと分析する。今回の政策転換もまさにその好例かもしれない。

Z世代の「5人に1人」が失業

さて、ここでZ世代の反乱の背景を経済の側面から考えてみたい。

コロナ禍が収まらない中、中国では生産や物流に大きな悪影響が及び、主要31都市の7月の失業率は6.0%。このうち16~24歳の若年層の失業率は19.9%と過去最高を記録した(日本総研アジア・マンスリー、9月29日付)。およそ5人に1人が失業者ということになる。

また、香港拠点のエコノミストは、中国の成長率(国内総生産[GDP]の前年比伸び率)について、2022年は従来の2.9%から2.8%に、2023年は4.3%から4.0%に下方修正している(日本経済新聞、11月27日付)。

コロナによるロックダウン(都市封鎖)で落ち込む生産、経済停滞の打撃を最も受けたのが、Z世代だった。

Z世代は世界的に見ても、政治や選挙の流れを左右するパワーを持っている。例えば、2022年11月のアメリカ中間選挙では、苦戦が予想された民主党が健闘した。AP通信の出口調査によると、民主党への投票者はZ世代(18〜29歳)で53%と、共和党より13ポイント多かった(日本経済新聞、11月9日付)。

近現代史の中国を見ても、政治潮流を左右してきた原動力は大学生中心の世代だった。1919年に北京で発生した抗日・反帝国主義の学生運動「五四運動」がそうだし、天安門事件もそうだった。今回の白紙デモを見て、天安門事件の再来を想起した人もいたはずだ。

起き上がった「寝そべり族」?

中国で2021年に大ヒットした歌がある。

「寝そべりは王道」と題するこの歌は、激しい競争社会の中、Z世代が「家や車を買わず、恋愛・結婚もせず、子どもも作らない」ライフスタイルを貫く自分たちを「寝そべり族」と自虐的に呼ぶ内容だった。

寝そべり族は「経済的物質主義より心の健康を優先させる」「資本家に搾取される奴隷になるのを拒否する」と主張することから、新たな「サボタージュ」「抵抗運動」とみる向きもある。

1960年代後半、高度経済成長の最中の日本に登場した既成価値観や性規範に反抗するカウンターカルチャー、いわゆる「ヒッピー」とも共通点がある。彼らはやがてベトナム反戦運動に参加し、一部は過激化していった。筆者を含む「団塊の世代」だ。

崩れた「微妙なバランス」

1人当たりのGDPが1万ドルを超え(2019年)、中産階級が育ち始めた中国で、人工知能(AI)技術などを駆使した監視社会や統制強化に反対する声が爆発しないのはなぜか。

多くの中国人がそれを受け入れてきた理由として、梶谷懐・神戸大学教授は共著『幸福な監視国家・中国』の中で、「豊かさと利便性」と「監視」のバーター取引がある、という仮説を提示する。

この仮説を援用するなら、ゼロコロナ政策は民衆を窒息寸前に追い込み、取引の微妙なバランス(均衡)を破壊、それがデモにつながったという説明が成立する。

さて、今回の抗議活動は、一党独裁打倒を目指す運動に発展する契機になるのだろうか。筆者はただちにそうはならないと考える。理由は大まかに三つ挙げられる。

第一に、先鋭化する米中対立の中で「民主」の旗を掲げるのは、欧米側を利することになることを多くの民衆は知っており、「民主」の旗は挙げにくい

第二に、経済成長によって豊かになった生活と社会は、「失うものはない」貧しかった30年前とは異なる。豊かさを実現した共産党の支配を全面的に否定するのは難しい

第三に、習体制や共産党に挑戦する勢力が党内外に存在しないことだ。

習氏は前述の第20回党大会で、建国100年にあたる2049年に中国を「世界一流の社会主義強国」に発展させ、「中華民族の偉大な復興」を実現する夢を描く。そのためには経済成長を維持し、「高まる人々の新たな生活の質の改善」という要求に応えねばならない。

ゼロコロナ政策を大転換した途端、北京をはじめ中国各地では感染が爆発的に広がったと伝えられており、頼みの経済回復への道のりは遠いように見える。長期政権をスタートさせた習政権にとっては厳しい試練が続くことになる。

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