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サウナをこよなく愛する「サウナ―」や、サウナで得られる「ととのう」という感覚。そしてサウナ後に食べる「サウナ飯」など、ビジネスパーソンの間で、健康増進や仕事の効率アップなどへの期待と共に、空前のサウナブームが起きている。
しかし、高温の蒸気に包まれた直後に冷たい水風呂へと浸かるのは、体への負担も大きそう——。
『医者が教えるサウナの教科書』の著者であり、自身でサウナのアプリを開発するほどサウナ好きでもある日本サウナ学会代表理事・医師でもある加藤容崇先生に、科学的に分かっているサウナの効果や、サウナの安全な入り方について話を聞いた。
サウナで「ととのう」って結局どういうこと?
サウナが流行する中で、「ととのう」という言葉をよく耳にするようになった。
サウナブームの火付け役の一つとなった漫画「サ道」でも、極彩色の曼陀羅のような模様とともに、登場人物が「ととのった~」というシーンが度々登場する。
「ととのう」とは具体的にどういう状態なのだろうか。
「学術的に明確な定義はないのですが、サウナ後に得られる特殊な感覚のことを指します。私自身の経験でいうと、独特の浮遊感があり、体の輪郭があいまいになるような感覚です。体はリラックスしているのに眠いわけではなく、むしろ頭はすっきりとしています」(加藤さん)
この感覚は、サウナを体験したことのない人にとってはなかなか分からないものだが、サウナ愛好家の間では、ある程度「多くの人が共感できる感覚」として知られているという。
サウナでととのうためには、「サウナ→水風呂→外気浴(水風呂から出て椅子に座り、リラックスする)」のサイクルを3セット程度繰り返すと良いとされている。
「サウナ→水風呂の行程で、体は日常とは違う過酷な状況に適応するために交感神経が活発になり、アドレナリンをたくさん出します。ここで外気浴を行うと、体は危険な状態を脱したと判断して一気に副交感神経が優位になります。しかし、まだ交感神経が優位だったときに出ていたアドレナリンも血液中に残っています」(加藤さん)
サウナや水風呂に入る前後での自律神経の活動。
画像:加藤容崇
こういった特殊な状態によって、「ととのう」という奇妙な感覚がもたらされているのではないかと、加藤さんは指摘する。
サウナでととのうためのポイントは、急激な環境の変化(温度差)によって交感神経を活性化させてから、外気浴で副交感神経を優位にすることだ。加藤さんは、サウナでととのうためには、しっかりと体の芯まで温まってから(深部体温を上げてから)水風呂に入る必要があると話す。
なお、深部体温の上昇は息が切れずに会話できる程度の軽い運動と同じくらいの心拍数になったタイミングを目安に判断できる[参考文献1]。加藤さんによると、その程度の負荷にとどめておくのがサウナへの効果的な入り方なのだという。
サウナの後は、シャワーなどで体を慣らしてから水風呂に入って体を冷やす。その後、5〜10分の休憩をする。このとき、外でベンチなどに座って休憩できる場所、いわゆる「外気浴」ができる場所があればぜひ外気浴をしたい。これが1セットだ。
加藤さんによると、最後の1セットはサウナの後、水風呂を10秒程度にとどめておき、水シャワーを浴びて外気浴に向かうとととのいやすいのだという。
「ととのう」経験をしてみたいけれど、水風呂が苦手でなかなかチャレンジできないという人もいるだろう。水風呂を利用せずに、外気浴だけでととのうことはできないのだろうか。
「空気は水と比べて体を冷やしにくいです。外気浴で水風呂に入ったときと同じ状態にまで体を冷まそうとすると30分はかかります。これでは急激な自律神経のスイッチングにつながらないため、ととのいません。(苦手な人は)水風呂に入る前にじゅうぶんに体全体をしっかり温めれば、心地よく感じるはずです」(加藤さん)
これは、サウナに入っても深部体温が十分に上がる前に出てしまうような人でも同様だ。身体がしっかり温まっていないと、ととのう状態を感じることは難しい。
そういった人は、顔に乾いたタオルをかけて暑さを感じにくくしたり、サウナに入る前に1~2分湯船に入って事前に身体を温める「湯通し」をしたりすることがお勧めだと加藤さんは言う。
「ととのい」の求めすぎはかえって悪影響?
日本サウナ学会代表理事・医師でもある加藤容崇先生。自身ももちろんサウナ好きだ。
撮影:三ツ村崇志
健康に良いとされるサウナだが、ある程度限定的な研究結果ではあるものの、実際に高血圧や脳卒中のリスクを下げるといった報告※がある[参考文献2]。
※日本人に対する研究ではないため、結果の解釈には注意が必要。
ただ、こういったサウナの効果は、なにも「ととのうことで得られるもの」ではない。
加藤さんはむしろ、ととのいを求めすぎてかえって健康を害するようなサウナへの入り方をしているケースもあると懸念を示す。
「サウナは心身が適度に疲れている方が、自律神経の切り替えの落差が大きくなるのでととのいやすいんです。しかし、毎日のようにサウナに入る愛好家レベルになると、体が慣れて自律神経の落差が小さくなり、ととのいにくくなります。ここでととのいを追究しようとして、極端に体に負担をかけるような入り方(超高温のサウナや、超低温の水風呂など)をするようになってしまうと、かえって健康によくありません」(加藤先生)
また、サウナには確かにメリットもある一方で、身体に負担をかけていることに変わりはない。
加藤さんは、
「『なんだかいつもと違う」という感覚が出た場合は、たとえいつもと比べて短時間しか入れていなかったとしても、すぐに出たほうがよい。サウナに入る際には決して無理をしてはいけない」
と指摘する。また疾患がある人などは、かかりつけ医などに相談してから楽しむようにしてほしいとも。
サウナに注意が必要な人
- 心臓血管系・神経系の疾患がある人
- 透析中の人
- 10歳以下の子ども
- 妊婦(特に初期と後期)
- 感染症を持っている人
- 泥酔している人、もしくは二日酔いの人
- アレルギーのある人(サウナの中でアロマが焚かれている場合があるため)
- 貧血など転倒するリスクのある人
適度なサウナは人それぞれ。「サウナハラスメント」に要注意
「サウナは苦しいのを我慢して入るものではありません。
サウナって運動とよく似ていると思うんです。運動は負荷をかけてその分恩恵を得るものですが、耐えられないほどの負荷をかけるとかえって体には悪い影響を及ぼします。サウナも同じです。でも、運動と違ってサウナは我慢すれば長時間続けられてしまうので、自分の意志で自分に合った負荷を調整しないといけません」(加藤さん)
そういった意味で、「生粋のサウナー」と「サウナ初心者」が同じペースで入ることもお勧めできない。
サウナ施設の中には、過激なサウナ室や水風呂の温度設定が極端に低いような施設もあるため、自分に合った施設を探すこともサウナを楽しむ上では重要だ。
加藤さんは、それぞれに合ったサウナを見つけてもらうために、サウナの情報をまとめた無料アプリ「サの国」を開発している。地図上にサウナ施設の情報が掲載されており、フラッと立ち寄りたいときに探しやすい。お気に入りの施設を登録することもできるという。
撮影:三ツ村崇志
サウナへの適切な入り方を考える上では、個人差はもちろん、男女の体の違いも重要だ。
「男性と女性の最も大きな違いとして、女性は生理周期の影響で低温期から高温期へと体温が変化する時期があります。高温期のときには男性と同様の方法で入ってもよいのですが、低温期や排卵期にはサウナに行く頻度や負荷(温度や長さ)を普段よりも控えめにしたほうがよいでしょう。というのも、卵巣は自律神経の影響を強く受けることが知られています。サウナで体に負荷をかけすぎると女性ホルモンの分泌が抑制されて生理不順になることもあります」
実際、1回1時間ずつ×朝晩の1日2回×週5日サウナに入っている女性の7人中5人は生理不順になったという報告もある[参考文献3]。
「サウナDX」でサウナを科学する
医師でもある加藤さんは、サウナの効果を定量的に議論するために計測デバイスなどの開発も進めているという。
撮影:三ツ村崇志
加藤さんによると、ととのうための手順や、適切なサウナへの入り方はある程度経験的に分かってきている。
一方で、より確実かつ安全にサウナを楽しむために、加藤さんはもう少し科学的(定量的)な側面からサウナにアプローチしようと、サウナに入っている間に自律神経の状態を計測する装置などの開発を進めている。
言ってみれば「サウナのDX化」を目論んでいるのだ。
「ととのう」を科学で解き明かしたり、サウナを楽しむ上で安全なラインを見極めたりするためには、体内のデータ計測が不可欠だ。しかし、既存のデバイスでは、高温多湿のサウナの中ではうまく機能しない。
こういった計測デバイスを整備し、サウナを楽しんでいる最中の状態をより細かく計測することができれば、具体的な予防効果をさらに解き明かしたり、予防医療としてサウナを取り入れていったりすることもできるのではないかと、加藤さんは意気込む。
[参考文献2]:Cardiovascular and Other Health Benefits of Sauna Bathing: A Review of the Evidence
[参考文献3] :Endocrine effects of repeated sauna bathing
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