中間選挙では善戦した民主党。だが3年目を迎えるバイデン政権は課題山積だ。
REUTERS/Leah Millis, STILLFX/Shutterstock
バイデン政権が発足してから1月20日で2年となる。2022年11月の中間選挙では予想以上に民主党が善戦し、バイデン政権には追い風も吹いているように見える。
しかし、アメリカ国内の分断は一向に収まらないうえ、ウクライナ情勢のほか、台湾海峡の緊迫もあり、国際的な舵取りは依然容易ではない状況が続いている。では、2023年のアメリカは今後どうなるのか。展望してみたい。
下院での「攻守交替」で停滞する国内政治
まず、アメリカの国内政治の2023年の状況は、はっきりいえば「停滞」の一言だろう。
それは議会の構成を見ると明らかだ。
中間選挙の結果、下院では共和党側が多数派を奪還し、上下院の「ねじれ」が生まれた。これをアメリカでは「分割政府(divided government)」という。大統領の政党と上下両院のいずれかの多数派を別の政党が占めた場合、「ねじれる」ため、分割政府はアメリカの歴史で頻繁に起こる。
しかし、過去と異なるのは、政治的分極化で民主党と共和党の立ち位置が離れるとともに勢力も拮抗しているため、議会内での党派を超える妥協が難しい点だ。そのため、分割政府になると、議会での審議がいつも止まってしまう。
次の議会選挙までの今後2年間、議会は常に膠着し、バイデン政権が推進していきたい所得再分配や気候変動関連などの政策は止まってしまうだろう。
特に、共和党が多数派を奪還した下院では民主党との「攻守交替」の局面が多く出てくるはずだ。
2021年1月6日の議会議事堂襲撃事件に対して、これまで下院では民主党が主導し、厳しい追及を進めてきた。下院議会襲撃特別委員会は2022年12月19日に最終会合を開き、トランプ前大統領が暴動の主要な扇動者であるとして反乱の扇動など4つの容疑で刑事訴追すべきだと勧告した。
しかし、2023年からは流れが一気に変わる。下院で多数派となった共和党側はすでにバイデン大統領の弾劾の準備を進めている。バイデン大統領の息子のハンター氏のウクライナや中国でのビジネスをめぐる大統領の利益相反や、「非合法移民を多数入国させた」という移民問題、さらには拙速な2021年夏のアフガニスタン撤退など、弾劾の理由がすでに具体的に議論されている。
20年にわたってアフガニスタンに駐留した米軍は2021年8月に撤退したが、バイデン大統領の性急な決断がアフガン国内の混乱を招き、首都カブールはタリバンの手に落ちた(写真は米軍機で避難するアフガン市民)。
U.S. Air Force//Handout via REUTERS
大統領弾劾は下院で過半数があれば、上院に訴追できる仕組みだ。数的には共和党側だけが固まれば、それは可能である。しかし、弾劾裁判を行う上院の方では100%阻止される。それは上院でのハードルが高く、最終的に3分の2の賛成が必要であり、僅差の上院で弾劾が通るのはあり得ないためだ。それが分かっていて、それでも共和党支持者向けのPRとしてバイデン弾劾の動きを進めようというのが下院共和党指導部の狙いである。
上院の方はもともと民主党と共和党とが50議席ずつで並んでいたが、中間選挙を経て民主党側が1議席を増やした。賛否が50対50の同数となった場合には上院議長を兼ねるハリス副大統領が1票を投じるために常に待機する必要があったが、民主党側が51議席となり、その義務も減ると見られていた。
しかし、ジョージア州の決選投票で民主党候補が勝利した数日後の2022年12月9日、形勢を左右する事態が起きた。アリゾナ州選出のシネマ議員が無党派となることを宣言したのだ。シネマは今のところ共和党側と統一会派は取らないため、上院は民主党50、共和党49、無党派1となる。
民主党からの離脱を決めたシネマ議員(2022年8月撮影)。
REUTERS/Jonathan Ernst
民主党内の保守であるシネマにとって、アリゾナ州内で強烈なシネマ下ろしがあるため、再選を目指す2024年は民主党の予備選を勝ち抜けない懸念があった。無党派となったことで、共和党候補、民主党候補と三つ巴となれば勝機があると考えたのだろう。
過去2年はこのシネマとマンシンという民主党内保守の議員をいかに説得するかが民主党側の議会運営の鍵だった。日本と異なり、議会内では党議拘束はないものの、分極化の中、共和党側からの支援がまったく期待できないためだ。
民主党が多数派とはなったが、これまでと同じく薄氷を踏むような議会運営となる。ハリス副大統領がワシントンを離れることができない状態が続く。
分極化の構図は変わらず
アメリカの国内政治をめぐって、さらに複雑なのは今後、景気後退期に入る可能性が高いことだ。
共和党側は高いインフレなどの経済政策に焦点を当て、バイデン政権の「無能ぶり」に絞る戦略をすでに打ち出している。また、全国の民主党の首長の犯罪政策の甘さも厳しく指摘し続け、固定支持層を固める動きに出る。
どこかで聞いたことがある話だ。
まるで、昨年の中間選挙戦の共和党の戦略である。選挙戦略の延長のような攻め方で共和党は民主党に対抗していく。
その中間選挙については、共和党側の「2020年選挙否定派」の多くが惨敗したことが大きな話題になった。「2020年選挙否定派」とは文字通り2020年の選挙結果を否定する候補者たちであり、「民主党が不正をして選挙を盗んだ」と声高に主張した。
対立を煽るトランプ氏の手法は今後も続きそうだ。
REUTERS/Jonathan Ernst
トランプ再出馬の可能性が中間選挙直前に出たために「トランプや2020年選挙否定派の台頭は許さない」とする民主党側の危機感が高まったのが、昨年の選挙のクライマックスでの大きな変化だった。
そして選挙後、否定派候補者たちが負けたことで選挙否定の主張そのものは勢いがなくなっている。ただ、そもそも選挙否定派の候補者たちは選挙直前まで優勢に戦っていたことを考えると、次第に復活してくる可能性がある。
分極化が終わったわけではまったくなく、「選挙は民主党が不正をやって盗んだ」という言説が広がった昨年の中間選挙の延長のような構造は、そう簡単には変わらない。
米中対立が激化、日米協力はより緊密に
一方、外交の方は大統領の専有案件であるため、議会の制約は比較的、受けにくい。分割政府になることで内政は動かないとすると、バイデン政権は大統領権限の強い安全保障や外交により注力していくだろう。対中国、対ロシアなどこれまでの外交は現状をさらに深化させていくことがポイントとなる。
米中対立は基本的にはこのまま激化していくだろう。貿易、安全保障、人権などさまざまな対立点が明確であり、対中国政策では民主党も共和党も超党派的に厳しい路線を貫く傾向にある。
ペロシ下院議長(当時)の台湾訪問に中国は強く反発。人民解放軍が台湾周辺の海空域で軍事演習を行うなど一気に緊張が高まった。
REUTERS/Ann Wang
特に台湾問題は議会の方が政権よりも前のめりだ。台湾支援の法案もすでに動いており、まずは下院での多数派交替で下院議長になることが確実とされているマッカーシー(これまでは院内総務)の台湾訪問がいつになるかということが争点になるだろう。さらに後述する2024年大統領選挙の立候補者も競うように台湾を訪問するようなこともあるかもしれない。
2022年8月のペロシ訪台の時のような過剰な中国側の反応も想定されるが、外交の実務の権限はバイデン大統領にある。中国が一線を越えない限り、衝突を回避しながら競争していく戦略は続くだろう。
そして日米関係は大きくは動かない。すでに日本はアメリカにとって対中戦略における重要なパートナーであるためだ。より緊密な日米の協力体制が求められ、これに豪州や欧州など他のアメリカの同盟国との関係づくりも進む。QUAD(日米豪印首脳会合)やIPEF(インド太平洋経済枠組み)といったインド太平洋地域で進めてきた政策もこのまま順調に展開されていくだろう。
「ウクライナは重要だが、白紙委任状でもいけない」
12月21日にアメリカを電撃訪問したウクライナのゼレンスキー大統領は上下両院合同会議で演説をし、アメリカに対して引き続きの協力を求めた。
REUTERS/Evelyn Hockstein
外交政策は議会の制約を受けにくいとは言ったが、予算の権限を決めるのは議会であるため、多額の支援などが伴う外交政策は議会頼みとなる。「財布の力(Power of Purse)」という政治用語がある。さまざまな予算を握っているという議会の権限をわかりやすく示した言葉だ。
ロシアのウクライナ侵攻以来、アメリカはすでに600億ドル(約7兆9000億円、1ドル=133円換算)以上の経済・軍事支援を行い、その資金は両院で圧倒的な超党派の多数派を獲得している。「ウクライナ疲れ」は現段階ではまだそれほど深刻ではない。
ただ、圧倒的と言っても反対者は一定程度いて、共和党の中の一部20%ぐらいがウクライナ支援に対して否定的である。ゼレンスキー大統領は昨年12月22日にアメリカを電撃訪問し、連邦議会で演説をした。だが、演説に出席した下院議員は共和党に限れば4割だった。予算編成で忙しかったこともあるが、出席議員の数はやはり少ない。この「アメリカファースト」的な共和党側の声が選挙後はどれだけ大きくなるのか、大いに注目される。
またウクライナ支援継続をめぐっては、中間選挙の段階から話題になっていたマッカーシー院内総務(当時)の発言が波紋を呼んでいる。新興オンラインメディアのパンチボールニュースに、マッカーシーは「人々は不況にあえぎ、ウクライナに白紙委任状を出すことはないだろう」「ウクライナは重要だが、同時にそれだけではいけないし、白紙委任状でもいけない」と指摘した。今後のウクライナ支援の方向性を考えると、共和党下院トップの発言としては非常に重い。
ペロシ氏に代わり下院議長に就任確実の共和党のマッカーシー氏。
REUTERS/Evelyn Hockstein
一方、2022年10月の段階で民主党の中の「革新議連(プログレッシブ・コーカス:Progressive Caucus)」は、「ウクライナは軍事支援も重要だが、外交交渉を進め、停戦・和解に和解を意識し、何らかの形で最終ゴールを見て動かないといけない」という内容の書簡をバイデン政権に送った。
ただ、この書簡に対しては民主党の中でも大きな反発があり、ペロシ前議長から「何を言っているんだ。ロシアを勝たせようとするのか」という強い批判があったとされる。それもあって書簡はすぐに撤回された。
いずれにしろ、景況感が悪化する中での巨額支援に慎重な意見があるため、共和党側からも民主党側からも景気減速が進めば政争の具となっていく可能性がある。
2024年大統領選はすでに始まっている
中間選挙が終わったばかりだが、前大統領のトランプが昨年11月15日にフライング気味で再出馬を表明したため、なし崩しのように既に2024年の大統領選に突入している。また、民主党でもバイデン大統領は再選に意欲を持っており、1月頭にもバイデンが再出馬を表明するという憶測が出ている。
そうなると2020年と同じ「バイデン対トランプ」の戦いとなるが、中間選挙の責任論でトランプに逆風が吹いている。「トランプ」という言葉は、民主党内の怒りを引き出すため、味方だけでなく敵の結束も固める象徴だった。
また、トランプに対して司法省の刑事訴追もあるかもしれない。このあたりも不安定要素である。
再選を果たしたフロリダ州のデサンティス知事。保守層の支持を急速に集めており、2024年の大統領選に出馬すればトランプ氏にとって手強い相手になると見られている。
REUTERS/Marco Bello
そしてアメリカは常に変化を求める国だ。もし、フロリダ州のデサンティス州知事が共和党の大統領選挙の出馬に動けば状況は一変する。デサンティスが出れば他の共和党候補も決断するであろう。
例えば、ペンス前副大統領やポンペオ前国務長官、ヘイリー前国連大使などのトランプ政権組や、ノーム(サウスダコタ州)、アボット(テキサス州)、スヌヌ(ニューハンプシャー州)、ヤンキン(バージニア州)、ホーガン(メリーランド州、前職)らの知事経験者たちも出馬を決めるかもしれない。議会襲撃追及を共和党側で主導したリズ・チェイニー前下院議員も続く可能性がある。
「トランプはオワコン」という見方があるが、ただ、もし今年夏ごろから本格化する世論調査上の「影の予備選」でトランプが共和党内で振るわない場合、「無党派に転出する」と脅してくることも想定される。もし、トランプが無党派候補となった場合、本選挙では保守票が大きく割れるため、共和党にとっては絶対に避けたい展開である。このように2024年選挙は当面はまだトランプ中心で回っていく。
デサンティスが出た場合、民主党側も「80歳を超えたバイデンでいいのか」という声も大きくなるはずだ。バランスの観点から候補選びは流動的になるだろう。若返りを求める声の中、ハリス副大統領、ブティジェッジ運輸長官、カリフォルニア州知事のニューサム、ミシガン州知事のウィットマーらの出馬も予想される。
フライング気味でスタートした2024年選挙は既に序盤の動きが本格化しつつある。この2024年選挙の動向を見ながら、2023年のアメリカ政治ではさまざまな駆け引きが進んでいく。
前嶋和弘(まえしま・かずひろ):上智大学総合グローバル学部教授(アメリカ現代政治外交)。上智大学外国語学部卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士過程、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了。主要著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』『アメリカ政治とメディア』『危機のアメリカ「選挙デモクラシー』『現代アメリカ政治とメディア』など。