REUTERS/Kevin Lamarque
2022年12月13日、アメリカのバイデン大統領は、同性婚の権利を連邦レベルで擁護する「結婚尊重法案」(Respect for Marriage Act)に署名した。同法が成立したことで、全米すべての州で、同性婚および異人種間の結婚を合法と認めることが法律で義務付けられる。
アメリカでは州ごとに法律が異なるので、ある州で合法的に結婚した夫婦であっても、別の州でそれが認められないということは起きうる。そういう状態を防ぐには、連邦レベルでの保護が必要なのだ。また、この法は、海外で結婚した同性カップルにも適用される。
アメリカでは、1967年に連邦最高裁が異人種間の結婚を禁じる州法を違憲とする判決を下した。この判決が出るまで、当時のアメリカでは、南部を中心に16の州で異人種間の結婚が違法とされていた。2015年には、連邦最高裁が同性婚を認めない州法を違憲とする判断を下し、全米で同性婚が事実上合法となった。
いずれも既に連邦レベルで保護されている権利なのに、なぜこのタイミングでこのような法案が提出されたのか。それについては後述するが、この法案が下院、上院を通過し大統領の署名に至るまでのプロセスを見ていて、最近のアメリカ議会には珍しく、超党派での支持があったことがまず興味深かった。下院では39名、上院では12名の共和党議員が 民主党議員たちと共に法案に賛成票を投じた。
バイデン大統領は、法案に署名後、次のように述べた。
「結婚はシンプルな問題だ。誰を愛するか。その愛する人に忠実であろうとするか。それ以上複雑なことは何もない。この法は、誰であれ、政府に干渉されることなく自分自身でその問いに答えを出す権利を持つのだ、と認めるものである」
ハリス副大統領(右端)らが見守るなか、ホワイトハウスで「結婚尊重法案」に署名するバイデン大統領(2022年12月13日撮影)。
REUTERS/Kevin Lamarque
この法により、結婚を「男女間のもの」と定めたこれまでの連邦法(Defense of Marriage Act「結婚防衛法」、通称DOMA法)は、無効となる。DOMA法は、連邦議会が発議し、1996年9月にクリントン大統領が署名し成立したもので、「婚姻関係は1人の男性と1人の女性が結び付くことによって成立する」としている。この法によって、各州に同性間の結婚を却下する権限が与えられた。
なお、2013年、連邦最高裁判所は、DOMA法の一部を違憲と判断している。合衆国憲法修正第14条の「法の下の平等」と修正第5条の「デュープロセス(法の適正な手続き)」を踏んでいない、という判断に基づいてのことだった。
「結婚尊重法案」が署名された直後、ネット上で、そのことを讃える声を多く目にした。日本人で同性婚を支持する人々の中には、「うらやましい」という反応も少なくなかった。たしかに、このような法を成立させることができたということの意味は大きいと思うが、ここに至ったアメリカ社会の背景を考えると、手放しで喜んでいる場合ではないとも感じる。
前述のとおり、アメリカでは、異人種間の結婚も同性婚も、連邦最高裁の判決で既にその権利を認められている。なのに、なぜこのタイミングでわざわざ法制化する必要があったのか。その背景には、2022年6月に起きた「ロー判決ショック」がある。
「次の標的は同性婚」
米最高裁が中絶は違憲との判断を下すと、国内外で多くの市民が抗議の声を上げた(2022年7月、ワシントンDCにて撮影)。
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2022年6月24日、アメリカ連邦最高裁は、「胎児が子宮外でも生存可能になる(妊娠約24週目)までの中絶を禁じる法は違憲である」とした「ロー対ウェイド判決」(1973年)を覆した。ロー判決は、女性が人工中絶を選ぶ権利を保障する根拠になってきた歴史的に重要な判例だ。
しかしこの判例が覆されたことで(ドブズ対ジャクソン判決)、人工中絶を認めるか否かは、各州の権限に委ねられることとなった。
判決が出るや、多くの「赤い州(共和党支持が多い州)」で自動的に中絶が違法になったり、中絶ができる期間が極端に限定されたりするという状況が起きた。これまで例外とされていた近親相姦やレイプによる妊娠についても例外とせず、中絶手術を施した医師に禁錮を求めたり、市民が医師を提訴できる州法などもある。
判決に先立つ同年5月に判決文草案がリークされた(それ自体、異例の話である)ことから、この判決が近いうちに発表されるということは予想されていたが、この判決がアメリカ社会に与えた衝撃は甚大だった。アメリカ最高裁では、先例を尊重するのが原則だ。ミネソタ大学のデイビッド・シュルツ教授の研究によれば、1789年から2020年までの間で、最高裁が先例を覆した率は約0.5%であるという。人権を制限する方向に判例を覆すということは、輪をかけて珍しい。しかもロー判決は、約50年間にわたりアメリカ社会に定着してきたものだ。
多数派意見の中で、判決文のリード執筆者であるアリート判事は「この意見は、中絶に関係のない判例に疑問を投げかけるものと理解されてはならない」と述べているが、同じく保守のトーマス判事が多数意見で述べた言葉が、大変注目を集めることになった。
トーマス判事は、「ロー判決の法的な論拠が間違っていたならば、最高裁がこの数十年の間に認めた、憲法に明記されていない他の権利の論拠も間違っていたことになる」と述べ、「次はグリスウォルド、ローレンス、オーバーグフェルを含む判例を考慮し直すべき」としたのだ。
ここに挙げられた3つは、アメリカ人なら誰でも知っている重要な歴史的節目を作った判例だ。「グリズウォルド対コネチカット(1965年)」は避妊の権利に関する判例、「ローレンス対テキサス(2003年)」は同性愛行為を禁じる州法を違憲無効とした判例、「オーバーグフェル対ホッジス(2015年)」は同性婚を認めない州法を違憲とした判例だ。いずれも、ロー判決同様、プライバシーの権利、デュープロセス、法の下の平等が判決の根拠となっている。
中間選挙を間近に控えた民主党全国委員会で、有権者に中絶権の回復を訴えるバイデン大統領(2022年10月18日撮影)。
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このトーマス判事の発言により、「最高裁の次の標的は、同性婚、同性愛、避妊の権利だ」という強い危機感が広まった。ロー判決が覆されたことについて、「最高裁が右傾化していることは分かっていたはずなのに、こうなる前に、なぜロー判決を連邦レベルで法制化しておかなかったんだ」と民主党を批判する声も強く起きた。
バイデン大統領は、トーマス判事の発言を指して「最高裁は、極端で危険な道に我々を連れて行こうとしている」と批判し、「ロー判決」を法制化する連邦法が必要であり、それができるかどうかは11月の中間選挙にかかっていると有権者に呼びかけた。
昨年11月に行われた中間選挙で、歴史的パターンを裏切って与党・民主党が大敗しなかったのは、特に激戦州において、民主党支持者や無党派層の有権者たちが、州の中絶に対する方針を共和党に委ねることに危機感を持ち、民主党の席を守るべく投票所に向かったことが一因であるという分析が数多く出ている(一例として、ニューヨーク・タイムズの記事やガーディアンの記事を参照)。
共和党議員からも複数の賛成票
ただ、今回7月の下院、続いて11月の上院で、超党派の支持を受けて「結婚尊重法案」が通過したことを考えると、現在の最高裁の流れへの危機感は、民主党議員たちだけでなく、共和党の一部にも共有されているのかもしれない。
このたび同性婚の法制化に賛成票を投じた共和党議員たち(下院39名、上院12名)は、この法案に賛成票を投じることが、自らの代表する有権者たちの意思である(少なくとも、彼らの意思を裏切らない)と判断したからこそ、支持したはずだからだ。
最高裁ドブズ判決後のピュー・リサーチ・センターの世論調査では、「ドブズ判決を支持しない」と答えた人が57%、「支持する」と答えた41%を上回った。特に女性は、「支持しない」が6割を超えている(下図)。また、「中絶はすべての、あるいはほとんどのケースにおいて合法とされるべきである」と答えた人は62%、「すべての、あるいはほとんどのケースにおいて非合法とされるべき」と答えたのは36%だった。
(出所)"Majority of Public Disapproves of Supreme Court’s Decision To Overturn Roe v. Wade," Pew Research Center, July 6, 2022.をもとに編集部作成。
最高裁の方向性を有権者が支持しない場合、立法府たる議会が有権者の「ノー」という意思に従い、司法の流れに挑戦する……というのは、あるべき三権分立の姿ではないだろうか。それが現在の、分断ばかりが取り沙汰されるアメリカにおいて、少なくとも今回は機能した。
それは、このたび同性婚を守る法が成立したということ以上に、アメリカの民主主義にとって意義深いことだったのではないかという気がする。バイデン大統領も、署名直後のスピーチでこう述べている。
「最高裁の判断がどうということとは別に、連邦議会で、国民の代表たる議員たちが投票によって決めることには独自の意義がある。このたび連邦議会は、『愛は愛であり、権利は権利であり、正義は正義である』と大きな声ではっきり述べたのだ」
バイデンが10年前に記した第一歩
バイデン政権で運輸長官を務めるブティジェッジ氏は2018年に同性の恋人と結婚、2021年には双子を養子に迎えた。
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バイデン大統領は、アメリカ史上最多の性的マイノリティを政府関係者に任命した大統領だ。政権には、ゲイであることを公言した上で就任したアメリカ史上初めての閣僚、ブティジェッジ運輸長官もいる。バイデン政権によって任命された1500人の官僚のうち、14%がLGBTQを自認する人々だという報道もあった。
また、バイデンは就任初日に、職場におけるLGBTQ差別を禁止する大統領令に署名し、続いて、トランスジェンダーの米軍入隊を禁じたトランプ前大統領の措置を取り消す大統領令にも署名している。LGBTQの活動家たちからしばしば「最もLGBTQの人権に支持的な政権」と言われる所以だ。このたびの同性婚法制化は、そんなバイデンのレガシーをさらに固めることになるだろう。
でもバイデンは、長い政治家生命の中で、一貫して同性愛者の味方だったわけではない。今回の同性婚法制化のニュースが流れた時、アメリカでは、多くのメディアが10年前のある出来事を振り返り、バイデンの変遷について指摘していた。
2012年5月、NBCの週末の人気政治番組「Meet the Press」に、副大統領時代のバイデンが出演した時のことだ。バイデンは同性婚について聞かれ、こう答えた。
「私は、男性が男性と、あるいは女性が女性と結婚すること、同性婚した人々が異性愛の夫婦とまったく同じ権利、すべての市民権、自由権を認められることについて一切なんの抵抗も感じません」
このバイデンの発言は、大変な物議をかもすこととなった。10年経った今でも忘れられていないほどだ。なぜか。この発言が、バイデンのそれまでの立ち位置から劇的に乖離したものだったからだ。
まず一つに、上院議員時代のバイデンは、1996年のDOMA法に賛成票を投じている。つまり、「婚姻関係は1人の男性と1人の女性が結び付くことによって成立する」という定義を支持していた。
副大統領候補だった2008年大統領選当時のバイデン氏は同性婚に対して否定的な立場だった(2008年11月撮影)。
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2008年の選挙戦において、オバマ・バイデン・チームは、一貫して同性婚に反対の立場をとっていた。オバマは、「私は、結婚とは、一人の男性と一人の女性が結びつくことだと考える。キリスト教徒である私にとって、これは神聖な結びつきでもある」とし、同性の婚姻は支持できないと述べた。
バイデンは、副大統領候補のディベートの際、「オバマも私も、何をもって結婚とするかを民法的側面から定義し直すことは支持しない」としている。
ただ、オバマの参謀の一人だったデイビッド・アクセルロッドなどものちのち認めている通り、これは大統領選に勝つための(そのために必要だと当時考えられた)戦略の一部であったらしい。ひとつには、共和党に対抗して宗教保守の票を取るため。また当時、黒人教会において同性婚に対する反対がことのほか強かったのでそれを考慮した、という背景もあったと言われる。
いずれにせよ、バイデンの「Meet the Press」の直後、今度はオバマがABCニュースに出演し、同性婚への支持を表明した。
「ある時点で、私はこういう結論に至ったのです。私個人として、こう認めることが重要だと。私は、同性同士のパートナーも結婚できるべきだと考えます」
これは、オバマという政治家にとって大きなシフトを意味する発言だった。また、これによって彼は、同性婚支持を表明した初のアメリカ大統領となった。
バイデンにとっても、「Meet the Press」での発言は重要な転換点だった。彼の発言は民主党内で全面的に賞賛され、特にそれまでバイデンに対して懐疑的だったLGBTコミュニティからの信頼を得ることとなった。今になって振り返ってみると、このたびの同性婚法制化につながる第一歩が10年前のこの時だったのだと思える。
オバマ、バイデンが同性婚について2012年のタイミングで意見を変えた背景には、2008年から2012年の間に世論がシフトし、その変化についていかないと民衆の心がつかめないという政治家としての計算もあったと思われる(世論の変化については後述する)。
2015年6月、最高裁判決により同性婚が全米で事実上合法となった際、オバマ大統領はこう述べている。
「この判決は、何百万人ものアメリカ人が既に信じていることを今一度認めるものです。あらゆるアメリカ人が平等に扱われるとき、我々みんながもっと自由になれるのだということを」
反発の動きも
全体的に見るとアメリカ社会はLGBTQに対して寛容になってきていると言えるだろうが、それに対する反動も起きている。
例えば、バイデン大統領は先の「結婚尊重法案」に署名した後、「LGBTQの子どもたちや家族をサポートする病院や図書館、コミュニティセンターが脅迫を受けるようなことがあれば、我々は声を上げなくてはなりません。憎悪と暴力を止めなくては」と述べている。
この言葉の背景には、明らかに、昨年11月にコロラドで起きたLGBTQナイトクラブにおける銃乱射事件がある。この事件では、5人が死亡、25人が負傷した。性的マイノリティに対する憎悪が根底にあると見られており、容疑者の起訴内容にもヘイト・クライムが含まれている。
また、トランプ政権時代から始まっていたことではあるが、性的マイノリティの権利を制限しようとする動きもあちこちで出てきている。
フロリダ州の通称「ゲイと言ってはいけない」法案に抗議するディズニー社の社員たち。同州デサンティス知事はディズニー社に制裁を課すなど厳しい姿勢を見せた。
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例えば、2021年には、性別移行後の女子・女性を公立学校での女子スポーツ活動に参加させないという州法(Fairness in Women’s Sports Act)がフロリダ州で成立した。同州のデサンティス知事は、「フロリダ州では、女子は女子のスポーツを、男子は男子のスポーツをする。我々は、生物学的な性別に基づいて男女のスポーツを区別する。イデオロギーに基づいて判断するのではなく」と発言し、あえて「プライド月間」 (性的マイノリティの権利について啓発する活動が世界中で行われる月) である6月にこの法に署名した。
同じくフロリダ州では、2022年3月、性的指向や性自認に関する教室での議論などを厳しく制限する通称「ゲイと言ってはいけない」法案に同じくデサンティス知事が署名し、法制化している。
それまで差別されていたグループが平等な扱いを受けるようになり、権利を勝ち取り、発言力を増していけば、それを目障りだと感じ、黙らせ、抑えつけたがる人々は必ず出てくる。
だからこそ、今回の同性婚の法制化も、やれる時にやっておいて正解なのだろう。ロー判決の例が示すように、何らかのきっかけで覆る可能性がある以上、今最高裁が認めている権利でも、安心してはいられない。
日本でもようやく動き始めた議論
同性婚をめぐる東京地裁の判決を受けてプラカードを掲げる原告団(2022年11月30日撮影)。
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アメリカで「結婚尊重法」が成立した少し前、日本でも、同性婚をめぐる動きがあった。
11月30日、東京地方裁判所が「同性パートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人々が人間らしく暮らしていくうえで重大な脅威、障害であり、憲法24条2項に違反する状態だ」とする判決を下した。憲法24条2項は婚姻や相続など家族に関する法律について「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」と定めている。
現在、同性婚に関する集団訴訟は全国5カ所で起こされている。11月の東京地裁の判決は、2021年3月の札幌地裁(同性婚を認めない現行法は違憲。ただし賠償請求は棄却)、2022年6月の大阪地裁(同性婚を認めない規定は合憲)の判決に続いて3つ目だった。現在、名古屋、福岡が判決待ちとなっている。
東京地裁の判決は、一口に「原告側の勝利」とは言いにくい、今一つ歯切れの悪いものではあったが、「違憲状態」を認める判決は、婚姻の平等実現のための大きな一歩であるとして、弁護団側は肯定的に捉えている。
オランダは2001年4月1日に世界で初めて同性婚を承認、その後20年間で1万8000組の同性婚カップルが誕生した。
Reuters
最近、いろいろなトピックに関して「先進国の中で○○していないのは日本だけ」「G7の中で日本が最下位」という表現が頻繁に出てくるが、同性婚についても、G7の中で認めていないのは今や日本だけだ。
世界で初めて同性婚を合法化したのはオランダ(2001年)で、2022年11月現在、33の国・地域(一部の州において同性婚ができ、それらの州で成立した同性婚がすべての州で認められているメキシコ含む)で同性婚が可能になっている。 アジアでは、2019年に台湾で法制化されたのが第一号だ。
日本でも、2015年に同性カップルを「結婚に相当する関係」とみなすパートナーシップ制度が東京都渋谷区と世田谷区で導入されて以来、全国的に広がっている。同性婚の実現に取り組む団体「Marriage for All Japan」によると、昨年11月1日現在で、全国の240を超える自治体で導入されているという。
同性パートナーシップ制度の下では、同性カップルが共同で不動産を借りたり、入院時に病院で面会できるなど、さまざまな権利が認められる。しかし、結婚との違いも歴然とある。証明書に法的拘束力はなく、財産相続や、パートナーの子どもに対する親権の面などでは、同性パートナーには権利を認められない。
若年層の8割以上が「認めるべき」
2022年6月のギャラップによるアメリカの世論調査では、「同性婚を支持する」と答えた人が71%となり、これまでの記録を更新した。このレポートによると、ギャラップが同性婚について最初に行った世論調査は1996年(クリントン政権下でDOMA法が成立した年)で、その際に「同性婚を支持する」と答えた人はわずか27%だった。「支持する」と答える人が過半数に達したのは、その15年後の2011年だった。
日本ではどうだろう。
NHKが2021年3月に行った世論調査では、同性婚を認めることに「どちらかといえば賛成」を合わせた「賛成」は全体の約6割、「どちらかといえば反対」を合わせた「反対」は約4割だ。
朝日新聞による2021年3月の調査でも、同性婚を法律で「認めるべきだ」が65%に上り、「認めるべきではない」22%を大きく上回った。「認めるべきだ」は若年層ほど高く、18~29歳は86%、30代は80%。60代も66%が「認めるべきだ」と答えた。
2019年12月の「Marriage for All Japan」の「同性婚に関する意識調査」でも、7割強が同性婚に「賛成」していた。この報告書の中で面白いと思ったのは、「賛成」者の半数以上は以前から賛成していたわけではなく、「社会の流れ」「風潮」等を理由として賛成に転じていたということだ。また、支持政党別に見ると、自民党支持者の「反対」割合が最も高いが、それでも41.5%と過半数には達していない。
上記すべての世論調査で、同性婚に対して肯定的な割合が6~7割となっており、否定的な割合を上回っている。この世論は、司法はもちろんのこと、立法府にもきちんと吸い上げられ、法制度に反映されるべきものではないだろうか。
若い世代ほど同性婚に対してポジティブな見方をしている。
REUTERS/Octavio Jones
東京地裁の判決では、「婚姻が伝統的に男女が子を産み育て、次の世代につなぐという役割を果たしてきたことは否定できない。憲法制定当時からの社会の変化を踏まえても現段階で解釈を変える状態になっているとは言えない」とされている。
でも、日本国憲法が制定されたのは1946年、今から76年も前だ。ざっくり言って、孫と祖父母の年齢差くらいの時間が経っている。その間の価値観やライフスタイルの変化には劇的なものがあるはずだ。
また「男女が子を産み育て、次の世代につなぐことが婚姻の役割だ」というのは、正論のように聞こえるが、本当にそうだろうか。
結婚していても子どもを持たない男女、つくりたくてもつくれない男女は少なからずいる。その人たちの婚姻関係と、同性同士のそれとは、「再生産しない」という点においては事実上何も変わらない。男女であれば子どもを 持つ・持たないに関わりなく結婚できるのに、同性の場合にのみ「子どもがつくれない君たちは、結婚してはダメ」とするのは不公平ではないだろうか。
さらに、同性カップルであっても、「産み育て」たいと望むなら、いまどき実現する道はいろいろある。実際アメリカでは、同性カップルが精子バンクや代理母などの契約関係を結ぶことで子どもをもうけ、育てているケースが珍しくない。また、家庭に恵まれなかったり、生まれてすぐ養子に出される子どもたちもいるのだから、そういう子どもと養子縁組によって家族になるという手段だってある。
と、東京地裁の判決は、ツッコミどころがいろいろある。が、同性婚の実現に取り組み、一連の同性婚訴訟に関わってきた団体「Marriage for All Japan」の弁護士の先生方がSNSに投稿していたコメントは基本的にポジティブなものが多かった。そのメンバーの一人、南川麻由子弁護士のコメントをご本人の了承を得て紹介する。
「今回の判決は、そのゴールまでの道のり(たぶん長距離マラソン)の途中にある1つのマイルストーンで、いわば給水所のようなもので。(中略)これで喉を潤し、さらにこの先の道のりを走っていかなきゃいけないですね。
私たちが求めているのは、異性カップルだろうと同性カップルだろうと、家族になりたいと2人が決めたら、法的にも家族となれ、その関係性が社会に承認されること。婚姻をするしないを選ぶ自由を、平等に保障してくださいということです」
この最後のポイントについて考えると、11月の東京地裁の判決が、「パートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛の人たちが人間らしく暮らしていくうえで重大な脅威、障害だ」と指摘したことには意義があるだろう。
これは、バイデン大統領の「結婚はシンプルな問題だ。誰を愛するか」「誰であれ、政府に干渉されることなく自分自身でその問いに答えを出す権利を持つ」という言葉にも通底するものがある。
6月の大阪地裁の判決と、11月の東京地裁の判決を並べて読んでみると、一つの共通点に気づく。大阪地裁は、「議論が尽くされていない今の段階では直ちに憲法違反とはいえない」、東京地裁は、「どのような法制度にするかは、国の伝統や国民感情を含めた社会状況を踏まえつつ、十分に議論、検討されるべきで、国会の裁量に委ねられている」という言葉で、いずれも立法府での踏み込んだ議論の必要性を指摘している。
日本において、同性婚について国会で議論されるようになったのは2015年と、ごく最近だ。また、同性婚に関する制度がないことの合憲性についての司法判断が示されたのは2021年の札幌地裁の判決が初めてだったという。確かに、議論が尽くされているとは言い難いだろう。
問題は、政治に、この問題に取り組む意思があるかないかだ。
編集部より:本文で触れている各判決の内容について、正確性を期すため一部表現を改めました。2023年1月4日 15:00
渡邊裕子:ニューヨーク在住。ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修了。ニューヨークのジャパン・ソサエティーで各種シンポジウム、人物交流などを企画運営。地政学リスク分析の米コンサルティング会社ユーラシア・グループで日本担当ディレクターを務める。2017年7月退社、11月までアドバイザー。約1年間の自主休業(サバティカル)を経て、2019年、中東北アフリカ諸国の政治情勢がビジネスに与える影響の分析を専門とするコンサルティング会社、HSWジャパンを設立。複数の企業の日本戦略アドバイザー、執筆活動も行う。株式会社サイボウズ社外取締役。Twitterは YukoWatanabe @ywny