米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)米国株・クオンツ・ESG戦略責任者のサビータ・スブラマニアン氏。
Bank of America
投資家が上場投資信託(ETF)を購入するのは、基本的に、個別銘柄を選んで購入する場合に比べてボラティリティ(価格変動性)とダウンサイド(下振れ)のリスクを軽減できるからだ。
そしてその性質こそが、投資対象商品としてのETFを最も人気を集める存在にしている。
米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の米国株・クオンツ・ESG戦略責任者を務めるサビータ・スブラマニアン氏によれば、S&P500種株価指数は、同指数との連動を目指す多様なインデックスファンドのおかげで、いま世界で最も人気のあるティッカー(銘柄)と言える。
ところが、そのようにS&P500種指数に人気が集中することにより、投資家がインデックスファンドの購入を通じて回避しようとしてきたリスクが、いまやファンドに内在する形になってしまった。
スブラマニアン氏はInsiderの取材に応じて、こう指摘した。
「典型的には小型株や米国株以外の市場で懸念されてきた流動性リスク(=取引量の減少により投資家の希望する価格水準での売買が成立しなくなる)が、米大型株の問題として現実味を帯び始めているように思います」
流動性が低下することで、小さな売買でも株価が大きく変動するようになり、投資家は自由な取引が難しくなる。
「S&P500種指数は最も流動性の高いベンチマークの一つ。世界で最も時価総額が大きく流動性が高い米大型株で構成されています。だからこそ、こうした動態変化が生じ始めているのはいかにも奇妙なことなのです」
スブラマニアン氏はこの現象について、ここ数十年の間にポートフォリオの運用戦略がアクティブ運用からパッシブ運用にシフトしたことが理由と説明する。
S&P500種指数との連動を目指すETFが初めて登場したのは1993年。それからおよそ20年が経ったいま、株式による運用資産残高の大半をパッシブ運用のインデックスファンドが占めるようになった。
また同時に資産運用各社は、未公開株(プライベートエクイティ)や不動産、ベンチャーキャピタルファンドのような流動性の比較的低い資産への配分も増やしてきた。
それらが運用資産残高に占める割合は2007年に6%だったが、現在は35%程度まで増えている。
ここ数カ月の間にそうした(流動性の低い)資産が打撃を受けたため、目標利回りを追求する必要のある資産運用各社は、ポートフォリオのより流動性の高い部分、すなわち株式ファンドの売却を迫られる可能性があるとスブラマニアン氏は指摘する。
「もし各社が一斉にS&P500種インデックスファンドの売りに殺到すれば、株式の流動性は一気に低下することになります。そしてそれは、ここ数年に発生したマクロ的なイベントのたびに私たちが目にしてきた典型的な動きでもあります。
S&P500種インデックスファンドへの集中あるいは偏りがあるからこそ、S&P500種指数はいま私たちの目前で、(小型株で構成される)ラッセル2000指数をはじめ歴史的に流動性の劣後するベンチマークより高い実現ボラティリティを示しているのです。
これは新しい現象であり、私たちは理論化を進めると同時に、実証データを通じた把握に努めています」
市場変動の影響を回避するには
ここまで説明してきたような市場のボラティリティを回避するため、S&P500イコールウェイト(均等加重)インデックスや、巨大テック銘柄を除いたS&P500種、今後想定される政策金利低下(利下げ)の恩恵を受ける市場分野に限定したS&P500種への連動を目指すインデックスファンドをスブラマニアン氏は推奨する。
そうした特定範囲のエクスポージャーを取る手段としては、「インベスコS&P500イコールウェイトETF」や「プロシェアーズS&P500エクステクノロジーETF」が挙げられる。S&P500種指数の年初来20%低下に対し、前者は13%、後者は16%の下落に踏みとどまっている。
「S&P500種指数に大きな資金を投じるべき時期ではありません。同指数の構成銘柄は、ハイテク株、グロース(高成長)株、長期投資向きの銘柄にきわめて、きわめて深く偏重しているからです」
スブラマニアン氏の予測によれば、米経済は2023年上半期に景気後退入りし、株式市場では不安定な時期が続く。しかし、その後は安定期を迎え、S&P500種指数は同年末までに4000程度まで回復するという。直近のS&P500種指数は3830前後で推移している(12月30日終値は3839)。
また、彼女が挙げる2023年の最有力セクターは、エネルギー、金融、生活必需品、公益事業となっている。