2022年夏以降、日本は水際対策を緩和し、外国人旅行者が戻ってきている。
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中国政府がゼロコロナ政策を事実上終了し、3年続けてきた入国者隔離も取りやめる。各国のエコノミストや専門家は、指導部が新体制に移行する2023年3月の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)を終えてから水際対策緩和を含む経済の本格再開に舵を切ると見ていたが、大きく前倒しされた。
ただ、中国では感染が急拡大しており、中国人の人気旅行先である日本では、期待と警戒が交錯している。
市民も想定外、極端から極端へ……
中国政府は2022年12月26日、2023年1月8日に新型コロナウイルスの感染症管理を「乙類甲管」から「乙類乙管」に引き下げると発表した。名称も「新型コロナウイルス肺炎」から「新型コロナウイルス感染症」に変更した。現在の流行がオミクロン株によるもので、肺炎を引き起こすことは少ない=重症化リスクが低いとの判断が背景にある。
2020年1月20日に新型コロナを重症急性呼吸器症候群(SARS)同等の「乙類甲管」に指定して以来、最大の方向転換になる。
引き下げによって、主に以下の変更がある。
- 陽性者の隔離措置を取りやめ
- 濃厚接触者を追跡しない
- エリア別のリスク判定を取りやめ
- 医療保障政策の見直し
- 検査は希望制に
- 感染者情報の発表内容や頻度の見直し
- 入国者や海外からの貨物に対し、特別な感染防止対策の取りやめ
日本でも「2類」から「5類」への引き下げ論議が大詰めを迎えている。現在の感染拡大局面でも政府は旅行や会食自粛を求めることはなく、年末年始の人出もコロナ前の水準に近づいている。
一方、中国は2022年11月まで、1人でも感染者が出たら建物ごと封鎖し全員検査を実施するゼロコロナ政策を貫いていた。エリアで感染が広がると、公共施設や交通機関を使う際にも行動追跡アプリや陰性証明の提示が求められた。12月以降の政策転換は、市民のマインドが追いつかないほど急激であり、感染を恐れて繁華街などの人流はむしろ少なくなっている。
3年帰国できない在日中国人
12月29日、イタリアの空港でメディアの取材に応じる中国人旅行者。前日の28日には、イタリア・ミラノの保健当局が、中国からの航空便2便の乗客のほぼ半数がコロナ検査で陽性だったと明らかにした。
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中国・武漢で新型コロナウイルスの存在が確認されてから、ちょうど3年が経った。原因不明の肺炎患者が武漢市内の病院に運び込まれたのは2019年12月末。年明けには日本でも小さく報道された。その後、世界で初めて感染爆発を引き起こした中国は、他国に先駆けて感染防止措置を導入し、その一部は他国にも広がった。
各国が水際対策として取り入れた入国時の隔離も、日本や韓国からの感染逆流を防ぐために中国が地方単位で始めた政策だ。
韓国との往来が活発な山東省の威海市が2020年2月25日、日本と韓国からの入国者について、市が手配したホテルで14日隔離すると発表した。日系企業が2000社以上立地する大連市もこれに続き、翌26日、海外からの入国者の体調を空港で検査し、市内の滞在先まで専用車両で送り、14日の隔離を求めると決めた。間もなく北京市も、入国者全員を指定施設に移送し、自費隔離を義務付けた。
ワクチン接種が進み、2022年夏ごろから多くの国が水際対策を大幅緩和した後も、ゼロコロナ政策を維持していた中国は「入国者の7日間の指定ホテル隔離+3日間の自宅隔離」を続けた。11月に「5日のホテル隔離+3日間の自宅隔離」に短縮されてから、筆者の周囲でも一次帰国や出張の動きが活発になってきたが、入国後1週間以上を隔離に費やす状況に変わりはなく、日本で暮らす中国人のほとんどが「3年間帰国できていない」状態に置かれている(その副産物として、ユーキャンの新語・流行語大賞にノミネートされるほど、「ガチ中華」ブームが盛り上がっているわけだが)。
感染急拡大でも緩和継続
中国政府が12月初旬にゼロコロナ政策を大きく転換した後も、水際対策の緩和はもう少し先になると見られていた。大規模PCR検査や陽性者の隔離をやめると感染急拡大は必至で、春節休暇(1月21日~)や政治の重要イベントである全人代が終わるまで過度の混乱を避けたいのではと見る人が多かったからだ。
案の定、12月下旬から中国全土で想定以上のスピードで感染が広がった。人口6500万人の浙江省は25日、新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者が100万人を超えたと発表した。日系物流企業関係者は、「中国法人のスタッフの6割が感染して、業務がストップしている」と話す。
にもかかわらず中国の出入国管理当局は28日、感染症レベルの引き下げに合わせて入国者のPCR検査と隔離を2023年1月8日以降行わないと発表した。入国前48時間以内のPCR検査で陰性であれば入国できるようになり、各航空会社に課していた国際線の便数制限も解除する。新規パスポートの申請も2023年1月8日から再開し、中国人の観光目的の海外旅行も徐々に開放するという。
都内で訪日中国人向けイベント準備も
水際対策の緩和や全国旅行支援で、日本の観光地も賑わいを取り戻している。
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3年にわたって日中の行き来を制限されていたビジネスパーソンと留学生にとっては、「待ちわびた」転換ではある。
日本の東北地方で部品メーカーを経営する男性は、「中国の工場に3年行けておらず、2023年夏ごろに入れればと思っていた。逆に現地で指揮を執る日本人幹部は、3年間帰国できていない。生産拠点の分散も検討しているが、まずは良かった」と安堵する。
全国旅行支援や水際対策の緩和で回復基調にあるインバウンドも、中国人旅行者が戻ればさらに活気づく。中国では国際チケットや海外ホテルの検索が急増しており、オンライン旅行サイト「去哪児網」によると、特にタイ、日本、韓国の旅行先が検索されているという。春節商戦を狙って、都内で中国人向けイベントを企画する動きも出ている。
一方で、既に「感染爆発」に近い状況になっている中国では今後も感染が拡大し、当局は1月中下旬にピークを迎えると見込んでいる。日本政府は12月29日、中国からの入国者に感染検査を義務づけ、陽性で症状がある場合は7日間の隔離措置をとると発表した。
新型コロナウイルスの拡大から丸3年。ゼロコロナ政策の修正と経済の正常化は日中経済関係者の総意に近いが、一連の政策転換は不意打ちに近い。準備不足の中で期待と不安が入り混じった年明けになりそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。