ツイッターを買収したイーロン・マスク(左)と、広告付きプランを始めたネットフリックスのリード・ヘイスティングス。
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2022年は広告業界にとって不安定な年だった。2023年まで続くと予想される消費不況に業界全体が備える一方、大手広告代理店など、実際には予想以上に業績が好調な企業もあった。小売業者やネットフリックス(Netflix)といった広告業界以外の企業も、経済状況の不安定さを要因として、新たな広告事業の立ち上げを急いだ。
Insiderは広告業界の専門家を取材し、2022年に同業界に大きなショックを与えた出来事と、それが2023年にどのような意味を持つかを聞いた。
広告業界は急減速し、おそらく2023年も回復は困難
アーデン・パートナーズ(Arden Partners)のリサーチディレクターであるアレックス・ディグルート(Alex DeGroote)は、広告費の急激な減速は、ロシア・ウクライナ戦争により世界の経済成長の足枷となっていることを色濃く反映するものだと語る。2021年に6%だった経済成長率は、2022年には3.2%まで下がり、さらに2023年には2.7%へと落ち込むと予測されているという。
また、かつては広告業界にとって明るい話題だった暗号資産(仮想通貨)関連の広告予算に急ブレーキがかかってしまったことも、広告費減少の原因となっている。
ディグルートは、大手広告バイヤーであるグループエム(GroupM)は2023年の広告市場を5.9%成長と予測、マグナ(Magna)は5%成長して8220億ドル(約109兆円、1ドル=133円換算)になるとの予測を出しているが、ディグルートはこうした観測は楽観的すぎると考えている。
「超インフレ時代においては、主流の広告よりも、商品価格戦略(値引き)の方が有効なマーケティング戦略になる企業があるかもしれません」(ディグルート)
MetaとYouTubeは広告減少の影響を受けたが、その親会社には影響はない…今のところは
エンダース・アナリシス(Enders Analysis)が2022年11月に行った調査の結果によれば、厳しい経済環境によってグーグル(Google)とメタ(Meta)が変調を来している可能性がある。
同調査は、ドル高などグーグルやメタに有利な要因があるにもかかわらず、グーグルの親会社であるアルファベット(Alphabet)の成長率は過去最低水準であり、メタの成長率は過去最低であると指摘している。
「これら2大企業は、前年比成長率は短期的には最低値に達し、苦しい時期は相対的に長引く」と同調査には記されている。
ユーチューブ(YouTube)はグーグルにとって最大の成長ドライバーのひとつだが、2022年10月には初めて前年比マイナスを記録した。広告主の支出削減により、グーグルの広告収入は2022年第2四半期から第3四半期にかけて20億ドル(約2600億円)も減少した。
メタの広告収入も減少している。同社はメタバースの構築に向けてこれまでに40億ドル(約5300億円)を投じたが、いまだに収益を上げるには至っていない。メタは広告収入を回復させるため、短尺動画作成機能「リール(Reels)」に大きく賭けているが、現在のところライバルであるティックトック(TikTok)に影響を与えるには至っていない。
また、アップル(Apple)が2021年に行ったプライバシー設定の変更の影響は今も続いている。これにより、グーグルやメタなど広告事業者は何十億もの損失を出しているのだ。
だがテック系プラットフォームが空転する一方、大手広告代理店は大きすぎるともいえる業績を上げている。前出のエンダースの調査によると、広告代理店は、新型コロナウイルス流行期にテック大手が成し遂げた異常なまでの成長を享受していなかったため、現在の経済環境の変化による影響をそれほど受けていないのだという。
ただし同調査は、広告代理店の好調は2023年に終了すると警告している。「広告全体についていえば、成長は客観的に落ち着きつつあり、現在は広告代理店でさえ、2021年後の回復期以降の成長は概ね鈍化している」
ストリーミング各社が広告に参入。だが広告主には役立たない?
かつてネットフリックスは、公然と広告に反対していた。だが同社は2022年、マイクロソフト(Microsoft)が買収したアドテク部門のザンダー(Xandr)と提携。これによっていち早く広告事業を立ち上げて業界に衝撃を与えた。
こうしてネットフリックスは、NBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock)、ディズニープラス(Disney+)、HBOマックス(HBO Max)などがストリーミング広告予算を奪い合う競争の只中に参入した。各社とも、加入料金が安価な広告付きプランを用意している。
しかしそうなると、消費者が選択肢の多さに圧倒されてしまう可能性もある。
TVアドテク企業イノビッド(Innovid)のチーフ・コマーシャル・オフィサーであるデビッド・ヘルムライヒ(David Helmreich)は、「消費者は、プラットフォームや契約内容、価格の多様さに圧倒されています」と語る。
ヘルムライヒによれば、2023年はコンテンツ所有者が加入者を獲得しようとさまざまな抱き合わせ商品を提供してくるため、消費者は好みのコンテンツを見つけにくくなり、さらに断片化が進むという。また、こうした断片化が生じることによって、広告主は複数のプラットフォームをまたぐ広告効果を測定するうえでも問題が増えそうだ。
ディグルートは、このようにしてストリーミング広告が氾濫すれば、広告主が最も訴求したい若年層の消費者を引き付けられなくなると予測している。「30歳未満の消費者は、ネットフリックスの長編シリーズよりも短編動画を好む」(ディグルート)ため、このことはティックトックにとっては2023年の成長を占ううえで吉兆となる。
Best Buyなどの新たな広告販売会社に注目。だが価値を証明する必要も
ウーバー(Uber)やベストバイ(BestBuy)のように、これまで広告販売業者とみなされてこなかった企業が、2022年には一斉に広告事業を立ち上げた。
アクシオム(Acxiom)のグローバルCEOであるチャド・エンゲルガウ(Chad Engelgau)は、次のように語る。
「すべてのものは広告ネットワークであり、あるいは広告ネットワークとして用いることができ、しかも宛先を利用できます。アップルのデバイスのように、アクセスするためにメールアドレスを必要とするものにはすべて広告を提供することができますし、そうなるでしょう」
現在新たに広告事業を立ち上げている企業のほとんどは小売業者であり、「リテールメディア(Retail Media)」と呼ばれる利益率の高いカテゴリーを作り上げた。グループエムは、2027年までに同市場は1600億ドル規模になると予測している。
クリテオ(Criteo)のようなアドテク企業は、リテールメディアを中心として事業の将来を見据えており、トレード・デスク(The Trade Desk)などもリテールメディアの広告予算獲得に向けて積極的に同業界への参入を試みている。
アップルのプライバシーポリシーやサードパーティーCookieの廃止によって、広告主は消費者を見つけるのに苦労している。こうした広告主の予算を獲得するのがリテールメディア事業者の狙いだ。
しかし、選択肢が広がり、また経済状況が厳しい今の状況下でリテールメディア事業者が2023年に広告費を獲得するには、その真価を証明する必要がある。クローガー(Kroger)のように、従来はテレビに割り当てていた予算の活用を考えている企業も少なくない。
イーロン・マスクによるツイッターの買収
2022年、イーロン・マスク(Elon Musk)によるツイッター(Twitter)の買収劇と、それに続く従業員解雇(そこには同社の収益源である広告事業の人員も含まれていた)は、広告業界を震撼させた。
ツイッター買収後、マスクは同社の古株ロビン・ウィーラー(Robin Wheeler)を広告責任者に任命したものの、まもなく彼女を解雇した。その後2022年11月下旬にはクリス・リーディ(Chris Riedy)が後任に決まり、離れゆく広告主の説得にあたっている。
広告業界団体IABのCEOであるデイビッド・コーエン(David Cohen)は次のように語る。
「2023年には新たな経営陣が、コンテンツモデレーション、安全性、透明性の健全なバランスを見出し、ツイッターが消費者、マーケティング担当者、社会に資する存在になることを期待します」