Shutterstock
スマートフォンが高価格になっていくのに合わせて、「修理」「中古利用」が注目されるようになってきた。
特にヨーロッパを中心に「修理する権利」の主張も活発になっている。
スマホが壊れても、パーツを買ってきて自分で直せるならもっと長く使えるのではないか。そう考える人もいるだろう。
だが、日本では「個人がスマホを修理する」のは難しい。だから街中には、スマホのガラスが割れたまま使っている人があふれている。
問題の本質はどこにあるのだろうか? 日本が目指すべき方向を考えてみよう。
アップルが「純正部品」を売る理由
2022年、アップルが取った「修理する権利」への対応が、欧米で注目されている。
アップルはアメリカ・ヨーロッパ向けに、iPhoneなどの自社製品に関する「純正パーツ」を売るオンラインストアをつくり、さらにそこから「修理マニュアル」もダウンロードできるようになっている。
アメリカ・ヨーロッパ向けにつくられた「Self Service Repair Store for Apple Products」。iPhoneのパーツも1つずつ純正品を購入できる。
サイトの画面をキャプチャ
アップルは過去、ユーザー側での「勝手修理」については厳しい体制で臨んできた。アップル自身での修理を基本に据え、それ以外だと、アップルと契約して所定のトレーニングを積んだ一部の「認定パートナー」が修理を担当していた。修理パーツについても、そうしたパートナー以外には純正品は供給されなかった。
2022年から始まったiPhoneの「Self Service Repair」は、そんな方針を転換するような施策でもある。iPhoneやMacなどの修理部品を個人にも提供するプログラムで、いわゆる「修理する権利」に対応するための施策だ。
修理マニュアルへのリンク先も用意されている。
サイトの画面をキャプチャ
「修理する権利」拡大で進むパーツ供給
「修理する権利」とは、購入した製品については、持ち主である個人が修理して使い続けられるようにすべきだ、という考え方だ。特にEUでは動きが早く、2021年3月から修理する権利(Right to repair)に関する規則が履行された。
メーカーや輸入事業者は、製品がEUに納入された後も、一定期間は修理事業者や個人がパーツを入手できるようにせねばならず、メンテナンスに関する情報も公開せねばならない。
アメリカでも2021年7月、FTC(連邦取引委員会)はメーカーや販売者に対して「修理方法に制限を課すことがないように」とのステートメントを発表している。
アップルがSelf Service Repairをスタートしたのも、そうした変化を受けてのことである。また、グーグルやサムスンなども、修理情報を公開するサービスである「iFixit」を通じ、修理関連情報と純正パーツを供給するようになった。
iFixitのパーツ販売ページ。Pixel 6向けのパーツに「Genuine(正規品)」の表記があるところに注目。
サイトの画面をキャプチャ
ただ、アップルの場合、正当に修理できたことを確認するため、パーツ購入時にはiPhoneなどのシリアル番号を入力したり、修理後にアップルのサポートにコンタクトしたりする必要があるなど、他のスマホに比べて手間がかかる。
日本への拡大を阻む「技適」の壁
では、日本でもSelf Service Repairはスタートするのだろうか?
実は、これがなかなか難しい。
アップル広報は「Self Service Repairについては現状、日本に向けたアナウンスはない」としている。ただし情報を収集すると、日本での展開を進めたい意思はあるようだ。Self Service Repairの導入国拡大は検討が続いており、その中に日本も含まれているとみられる。
とは言うものの、日本では法制度の問題もあり、現実問題として、すぐに導入は難しい。日本の場合、そもそも個人がスマホを修理するために分解し、その後に利用するのは適法ではないからだ。
スマートフォンのような通信機器は「技術基準適合証明(通称:技適)」制度のもとに使うことになっていて、適切な資格を持たない人間が分解などをした後に通信すると、電波法違反に問われる可能性がある。
このルールがあるため、仮に日本でSelf Service Repairのようなプログラムにより正規パーツが手に入ったとしても、分解・修理すると電波法違反に問われる可能性がある。
だから、日本ではこの問題が解決しない限りSelf Service Repairはスタートしない、と考えていい。
日本でも修理ニーズの拡大とビジネス円滑化を目的に、2015年に「登録修理業者」制度がスタートしている。携帯電話の修理を適法に担う事業者は総務省に「登録修理業者」として登録し、電波法上の問題が起きない形での業務が求められている。
ただ、登録すること自体がひとつのハードルではある。また、それらの事業者は各スマホメーカーから修理などの研修を受け、パートナーとして契約を結び、公式にパーツの供給を受けて修理するのが基本だ。
スマホの修理代はまだ高い。携帯電話事業者は、修理などの費用を補助する「修理補償プログラム」を有料で提供しているが、有料であるが故に、契約していない人も数多い。
本質的に必要なのは「修理」「買い替え」の負担を減らすこと
Ugis Riba/Shutterstock.com
筆者は「修理する権利さえ守られればいい」とは思っていない。同時に「保証なしの修理を進めるべき」とも思ってはない。
現実問題として、素人がパーツを買ってきてスマホを自分で修理するのはお勧めしないし、それで良しとするのもかなり無理がある。
重要なのは、「修理したいけれど高いからそのまま」である人を減らすことではないか。そのためには、日本での修理コストをさらに下げていくことが必要だし、もっとスマホを買い替えやすくしていく必要もある。
「修理する権利」の拡大は、世界的にスマホのアフターパーツマーケットの拡大につながる。そこで「ちゃんと純正品を使って修理する」流れができていけば、スマホの寿命は長くなるだろう。本質的な変化はそこにある。
また、スマホのリサイクルを進め、そこから安価に新しいスマホへ乗り換えるための補助も考えていいのではないか。
現在も携帯電話事業者は「一定期間での交換」型の販売モデルに熱心だが、故障時の買い替えや交換について、携帯電話事業者が補助することを推進してもいいのではないか。
またそこでは、新品だけでなく中古スマホの利用拡大も重要だし、メーカーで中古品を再整備して出荷する「リファービッシュ(整備品)」の活用も進めるべきだろう。
技適問題の解決も重要だが、それは「修理業者拡大」の視点で行われるべきものであり、さらには、メーカーからのパーツ供給やノウハウ移管などとセットで進めるべきかと思う。
そうした部分のバランスを取り直していくことが、スマホの市場を維持し、再資源化の加速にもつながっていくはずだ。