「CES Unveiled」の会場前にて。コロナ流行以前を思わせるほどの多数の報道関係者が集まっていた。
撮影:Business Insider Japan
1年のトレンドを占うイベントとして、年初の米ラスベガスに世界中から多くの報道陣が集まる世界有数のテクノロジーイベント「CES2023」。1月5日(現地時間)の正式開幕を控え、前夜祭イベント「CES Unveiled(CESアンベイル)」でCESが実質開幕した。
コロナ拡大の影響でグローバルイベントの規模縮小が相次ぐ。CESもこの規模での本格的な開催は2020年1月以来、実質3年ぶりだ。
世界中のメディアが集まるイベントで、異彩を放っていた日本のベンチャー4社を中心に取り上げる。
VRゲームに特化した触覚再現グローブ「コンタクトグローブ」(Diver-X)
海外のメディアの取材陣が「コンタクトグローブ」のデモを試しているところ。手の甲に飛び出たモジュール部分が特徴的。
撮影:Business Insider Japan
VRテックのスタートアップ・Diver-X(ダイバーエックス)は、ハプティクス(触覚再現)技術を取り入れ、VRゲームに特化した仕様で作った一般向けのグローブ型のコントローラー「コンタクトグローブ」を出展した。
Diver-Xは以前は「HalfDive(ハーフダイブ)」というVRゴーグルの開発をしていたが、2022年1月に開発中止を表明。その後、今回のグローブ開発にピボット(路線転換)していた。コンタクトグローブの開発は2022年3月ごろから着手し、半年後の9月ごろから展示会で公開し始めた。
今回のCESで展示しているコンタクトグローブ(Contact Glove)は一般向けを想定したもので、キックスターターでクラウドファンディングも実施している。キックスターターの支援価格は、ハプティクスなしのモデルをリターンとしたもので6万5000円前後。
デモの中では、VRゴーグルを装着して、手で物を掴んだり、ホワイトボードに仮想のペンを持って文字を書く体験をしていた。写真はゲームようなデモで、弓を掴んでいるところ。
撮影:Business Insider Japan
他のグローブ型コントローラーと異なるポイントは、一般的なVRゲームとの互換性を持たせるために、「ボタン」や「ジョイスティック」操作といったゲーム特有の操作をジェスチャーなどで再現していることだ。
これによって、大手のPCゲームプラットフォーム・SteamVRの「全てのゲームと互換性がある(操作ができる)」ことをうたっている。
指の「曲げ」認識は5本の指全部の精密な取得が可能だ。センシングに使われる「曲げ」センサーは産業技術総合研究所関係者のスタートアップが製造している。
グローブの指に沿って実装されているリボン状の曲げセンサーと基板部分。
撮影:Business Insider Japan
デモをしていたキックスターター向けのモデル。なお、法人向けのハプティクス対応版は、すでに複数の大手企業への納品実績があるという。
撮影:Business Insider Japan
Diver-Xの迫田大翔CEO。
撮影:Business Insider Japan
展示していた実機は、触覚再現機能を省き、5本指の精密なトラッキングとボタン操作を実現するモデルで、PCとの接続はワイヤレスで動作している。
キックスターターでの出荷は2023年7月に迫る。迫田大翔CEOは、「組み立ては日本、グローブの布と基板は既に中国で量産している」と、量産化に向けた自信を語っていた。
パナソニック系VRスタートアップは「無線モーショントラッカー」などを出展(Shiftall)
価格と仕様を発表した独自のVRゴーグル「MeganeX」と、CES2023で発表になったVRコントローラー、既に発表済みの音漏れしないマイク「mutalk(ミュートーク)」、無線版のモーションセンサー「HaritoraXワイヤレス」を装着。
撮影:Business Insider Japan
パナソニックの100%子会社Shiftallは、プレイヤーの体の動きをVR空間内で再現するモーショントラッカー「HaritoraX」の無線版と、新型のVRコントローラーなど複数を出展、その特異なビジュアルと合わせて注目を集めていた。
Shiftallは近年、VR向け製品の開発に舵を切っており、実質的な「VRテック企業」になっている。
無線化したモーションセンサー「HaritoraXワイヤレス」
体に巻き付けているのがモーションセンサーの「HaritoraXワイヤレス」。写真はワシントンポストからインタビューを受けるShiftallの岩佐琢磨代表。
撮影:Business Insider Japan
手ごろな価格のモーションセンサーとして、VRのSNS「VR Chat」ユーザーなどの間で知られる製品のワイヤレス版。価格は3万9999円(税込)。単体で20時間の動作ができる。2023年2月に予約開始、同6月に発売予定。
PC版のVRゲームとの接続のほか、スマートフォン経由でMeta Quest2のVR Chatにも対応する予定。
VRゲームのペインを解消するコントローラー「FlipVR」
コントローラー(ボタンやスティック)部分を外側に倒して指をフリーにできる。握らなくてもセンサーを手に装着できるようにバンドで固定している。最初の写真と比べると、コントローラー部分がどう可動するかわかりやすい。
撮影:Business Insider Japan
VRゲームでは両手の動きを捉えるためのコントローラーがほぼ必須だが、コントローラーを手で持つと他の操作が困難になるという問題があった。
「FlipVR」では、握らずに持てること、ボタン操作が不要な際は変形させて指を他の動作に使えることの2点を両立させた。VRChatなどVR SNSのヘビーユーザーを中心とした「ニッチだが強いニーズ」から生まれた製品といえる。
2023年内の発売を予定。価格は現時点は未定。
VRゴーグル「MeganeX」を正式発表
MeganeXは1年前のプロトタイプから形状が変わっている。眼鏡の上部分に、Lighthouse方式対応のセンサーが追加された。
撮影:Business Insider Japan
1年前のCES2022で参考展示していた独自開発のVRゴーグル「MeganeX」の正式版仕様を発表。価格は24万9900円(税込)、デザインがプロトタイプから変更され、新たに室内に設置するセンサー(Valve Lighthouse方式)にも対応する。
一方、視度調整付きのレンズはプロ向けの「Business Edition」のみになった。
一般向け版では、眼鏡ユーザーは、眼鏡店などで目に合ったレンズを作って装着することになるが、他のVRゴーグルと同様の仕組みになったとも言える。
無線給電とセンサーでオフィスの電気料金を減らす「AirPlug」(エイターリンク)
エイターリンクの無線給電式の環境センサー「AirPlug」。右端の白と黒のバー状のものが天井のダクトレールに取り付けられるパワートランスミッター。下のプレートのようなものがセンサー。
撮影:Business Insider Japan
コンシューマー(一般消費者)向けの製品や参考出展が多い中で、B2B(法人向け)中心のソリューションとして異彩を放っていたのがエイターリンク(Aeterlink)だ。同社はスタンフォード大学で研究していたワイヤレス給電技術をコア技術としている。
展示した「AirPlug」は、オフィス内に設置した複数のセンサー(室温、CO2、モーションセンサー)に無線給電し、センサーから得た情報を基にビルシステムを統合制御することで、空調コストを削減しつつオフィスワーカーのストレスを下げるソリューション。
同システムはCES Unveiled当日から一般向けの受注受付を開始したという。
天井に設置する給電装置(パワートランスミッター)。写真のようなダクトレールに取り付けられるもののほか、埋め込み型の製品もある。
撮影:Business Insider Japan
AirPlugに使う無線給電技術では、屋内では17メートル程度という、無線給電としては長距離でのワイヤレス給電を実用化している。独自のアンテナ設計と、距離によらず給電力を一定に保つ技術で差別化しているという。
エイターリンクのバイオメディカル分野の製品として開発中の、ペースメーカーのプロトタイプ。米粒ほどの大きさで、1台300万円ほどするそう。
撮影:Business Insider Japan
エイターリンクの共同代表を務める岩佐凌氏。
撮影:Business Insider Japan
エイターリンクはすでに複数の大手企業で導入実証や共同開発などの実績があることもユニークだ。2022年4月に、竹中工務店と共同で三菱地所のビル内の一部にAirPlugを設置して稼働させたほか、警備会社大手ALSOKとも、防犯センサーの無線給電化の開発に取り組んでいる。
防犯センサーは設置にあたって配線が必要なケースや、設置後も電池の交換保守に人的資源が必要になるなどの課題がある。エイターリンクの無線給電技術が評価された背景には、こうした事業上の課題解決への期待がある。
エイターリンクは2021年に慶應義塾大学のベンチャーキャピタルである慶應イノベーション・イニシアティブと、伊藤忠テクノロジーベンチャーズから2億円の資金調達を公表している。
グローバル出荷を始める、木製インターフェイス「muiボード」(mui Lab)
撮影:Business Insider Japan
mui Labは、操作できる木製ディスプレイ「muiボード」の最新モデルを展示した。
同社は過去5年にわたってCESに出展し続けてきた。今回のmuiボードは、新たにスマートホームデバイスの世界標準規格Matter(マター)に対応。見た目は従来型から変わりがないが、内部は一新しているという。
Business Insider Japan
muiボードは一種のディスプレイでもあり、タッチ操作できるユーザーインターフェースでもある。触れると、このように表示が変わったり、指先でホワイトボードのように文字を書くこともできる。
撮影:Business Insider Japan
2023年11月に日本、北米とヨーロッパを中心としたグローバル発売を予定しており、価格は599ドル(約7万9000円)を想定している。
大手企業のイノベーションへの投資が見える
スタートアップや小規模企業の展示が多いCES Unveiledにあって、いくつかの大手企業が自社のイノベーションへの投資を感じさせる展示をしていた。2社を紹介する。
ライドシェア専用ドライブレコーダー「RideCare」(ボッシュ)
撮影:Business Insider Japan
ドイツの自動車メガサプライヤー大手のボッシュは、UberやLyftといったライドシェア向けのスマートドライブレコーダー「RideCare」を発表、実機展示をしていた。2023年の発売を予定。
大手自動車メーカーを支えるメガサプライヤーのボッシュが、ライドシェア向けのセキュリティー製品を発表していることは、同社がライドシェア業界にも目配りしていることを示す象徴的な事例と言える。
パッケージも展示していた。
撮影:Business Insider Japan
ドライブレコーダーには、車内外を撮影するカメラ、そして「車外」からカメラが動作中であることを確認できるインジケーターを装備している。ライドシェアのニーズを取り入れた製品だ。
ドライブレコーダーはオンラインでボッシュのコールセンターともつながっており、ドライバーは車内にあるワイヤレスのボタンを押せば、24時間いつでもコールセンターに緊急通報できる。
ボッシュの担当者は価格は非公開としながらも、サブスクリプションプランで提供する可能性があると発表している。
大手が挑むトイレに設置する家庭用尿検査センサー「U-Scan」(Withings)
トイレに設置するセンサーは会場でも目を引き、常時人だかりが絶えなかった。
撮影:Business Insider Japan
スマートウォッチなどのフィットネスや、睡眠センサーなどヘルスケア製品で知られるWithingsは、トイレの便器内に設置する家庭用の尿検査センサー「U-Scan」を発表、展示した。
U-Scanは手のひら大の本体と、交換式のカートリッジからできている。トイレの利用ごとに自動で尿検査をする。水を流す際には本体も一緒に洗浄されるという。
Business Insider Japan
本体のカバーを開け、円周上の溝の部分に左手のカートリッジがはめ込んで使う。一度設置するとバッテリーは3カ月動作する。バッテリーが減ると、便器から取り外して洗浄し、充電して再度使う。
撮影:Business Insider Japan
カートリッジ内部の構造。公式サイトの動画を見る限り、電動の可動部があるように見える。
撮影:Business Insider Japan
カートリッジは2種類。一つ目は「サイクルシンク」カートリッジで、世界初の女性向けのホルモンベースの周期データ追跡のデバイスをうたう。月経周期情報などを提供する。
2つ目は「ニュートリバランス」カートリッジ。尿検査を通じて、水分補給と、栄養に関するバイオマーカーをチェックできるという。Withingsでは、水分の比重、尿のpH、エネルギー代謝のケトンの数値、ビタミンCの数値をチェックできるとしている。
2023年後半に欧州を中心に出荷開始し、本体の価格は499.95ドル、交換カートリッジはそれぞれ月額29.95ドル。
なお、同社はU-Scanを「医療機器ではない」と説明している。