世界が注目するソニー・ホンダの新型EV「アフィーラ(AFEELA)」をめぐる3つの考察

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米ラスベガスで開催中のCES2023で、ソニーが発表した直後の「AFEELA」。多くの報道陣や動画メディアが一斉に集まり、写真をとるのも大変な混乱ぶりだった。

撮影: Business Insider Japan

ソニーが、米ラスベガスで開催中のCES2023のカンファレンスのなかで、ソニー・ホンダモビリティの試作車を世界初公開した。

車名は「AFEELA(アフィーラ)」。現地で見るカンファレンスのムードは、映画制作からゲーム分野まで、さまざまなソニーグループ事業の発表が相次ぐなかでの締めくくりだったこともあり、異様な熱気に満ちていた。

改めて、「ソニーとホンダが本当に電気自動車をつくるのだ」と世界中の報道陣に感じさせる出来事だったはずだ。

AFEELAの発表はCES2023の大きなトピックの1つになった一方、プロトタイプだけにどこまでが実現され、何を狙って公開した車両なのかは判断しづらい部分も多い。

現地の発表の様子と、カンファレンス時点で判明している情報から、現時点の気になる点を掘り下げてみよう。

1. 2020年に披露した「VISION-S 01」との差異

水野泰秀・ソニー・ホンダモビリティ会長兼CEO

AFEELAのコンセプトを説明する、水野泰秀・ソニー・ホンダモビリティ会長兼CEO。車両はスタッフが運転してステージ上に登場した。

撮影: Business Insider Japan

ソニー・ホンダモビリティ(以下、ソニー・ホンダ)がプロトタイプとはいえ実車をCES2023で発表したことには、大きなインパクトがあった。

とはいえ、2022年10月の設立発表会見の時から、これはある程度、想定されたロードマップだったはずだ。そうでなければ、3カ月と経たない期間で実走する車両はつくれるはずもない。

外観は、実際に販売する最終版とはかなり差があるだろう印象で、イメージを示すための「コンセプトモデル」に近いデザインに思える。

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後部がわかる角度。全体的にボディーの凹凸がなく、バンパーを思わせる構造もない。意図的にデザイン性を省いているような印象がある。

撮影: Business Insider Japan

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ホイールが大きく感じるが、実はVISION-S 01とまったく同じサイズだ。

撮影: Business Insider Japan

例えば、ソニーが2020年に同じくCESで発表して、本社ロビーに展示したこともある「VISION-S 01」と比べると、今にも公道を走り出しそうな雰囲気は、むしろVISION-Sのほうがあるほどだ。

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ソニー本社1階に展示していた「VISION-S 01」。ボディーの微妙な曲面の使い方などに「実車らしさ」が感じられる。

撮影: Business Insider Japan

両者の外観上の違いを踏まえると、見た目をプロトタイプっぽく、あえて荒削りで出してきたのは意図的だと考えるべきだ。

一方、「違い」が外観の作り込みだとして、逆にほぼ一緒なのは、ボディーのサイズだ。

全長・全幅は完全に共通、全高はAFEELAが10mm増(1460mm)、室内空間に影響する全後輪の軸間距離(ホイールベース)は同30mm減(3000mm)。なお、細かい話だが乗車人数は1名増えて5名乗車になっている。

車両のサイズがほぼ同じ、というのは後述するように今回の公開の意図を探るポイントの1つではないか、と考えている。

2. 「45個のセンサー」の秘密…室内カメラが異例に多い?

AFEELAのカメラ

ステージ上の車両を撮影できたのみだったが、距離があるなかでも前席と後席を隔てる「Bピラー」にカメラがあることは目視で確認できた。テスラも同様にこの部分にカメラを搭載している。

撮影: Business Insider Japan

AFEELAの詳細情報として、車両本体には「車内外に45個のカメラやセンサー」「最大800TOPSの演算性能を持つECU。半導体大手・クアルコムのSnapdragonを搭載」することが初めて明かされた。

「45個のセンサー」と聞いても多いのか少ないのかピンと来ないが、カンファレンスで見せたスライドを再確認すると、異様な部分があることに気づいた。以下の画像がそれだ。

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カンファレンスで公開した45個のセンサーの内訳。カメラと名が付くものと、レーザーレーダー(LiDAR)に下線を引いた。

出典:ソニーCES2023カンファレンス映像より

45個のセンサーのうち、「カメラ」と名のつくものは23個。実に半数以上が、カメラだった。

その内訳を見ると、特に「車外」よりも「車内」をセンシングするためと思われるカメラの多さにも気がつく。

イメージセンサーだけではなく、立体的に物体を捉えることもできる「TOFカメラ」は、前席のみならず後席にも付いている。

車内の状況をつぶさに捉えようという仕様には、AFEELAを通してソニー・ホンダが考える、コンセプトが浮かび上がる。

車内環境の「ユーザー体験(UX)」について、既存の自動車とまったく違う考え方を持っているということだ。

さらに、その車内環境のセンシングを新たな乗車体験の演出のための、トリガーとして積極的に使おうとしていそうなことも見えてくる。

ソニーグループ・吉田憲一郎会長兼社長(左)とがっちりと握手をするQualcommのクリスチアーノ・アモンCEO。

ソニーグループ・吉田憲一郎会長兼社長(左)とがっちりと握手をするクアルコムのクリスティアーノ・アモンCEO。

撮影: Business Insider Japan

ただし、これだけの映像処理には、それなりのマシンパワーが欠かせない。半導体大手・クアルコムのチップを採用する背景には、高性能な半導体で大量のカメラ映像のAI処理が必要なためでもありそうだ。

3. ソニーが見せたかったのは、2つのポイントか

AFEELAとVISION-S 01の「サイズがほぼ同じ」という事実からは、ソニー・ホンダがこのタイミングで見せたかったのは、おそらく「2つの車両に共通する特徴」と「AFEELAにしかない特徴」なのではないか、ということが考察できる。

前者の「共通する特徴」は、おそらくは室内空間だ。広さはかなり近いサイズのはずで、VISION-Sで温めてきたUXのコンセプトをAFEELAにも継承させたのではないか。

実際、現地ラスベガスではメディア向けに室内の体験デモが用意されているし、車内をセンシングするカメラが多いことも先に指摘したとおりだ。

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カンファレンスにはEpic Gamesのキム・リブレリCTOも登壇した。

撮影: Business Insider Japan

カンファレンスの中で、水野泰秀・ソニー・ホンダモビリティ会長兼CEOが発表したEpic Gamesとの協業検討も、主には新しい車内エンタメのあり方の模索という意味あいが強い。

ソニー・ホンダが考える室内のUXに展示の反響を集中させるには、外観は極力シンプルにして、善し悪しを論じられないほうが好都合だ。その点でも、コンセプトカー風につくった外観はメリットがある。

もう1点の「AFEELAにしかない特徴」は、前部にある。AFEELAには「メディアバー」と呼ばれる、前部のフロントグリル部分と一体化したディスプレイを搭載している。

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AFEELAという文字がある横長のエリア自体がディスプレイになっている。

撮影: Business Insider Japan

ボディーと一体化したディスプレイは、既存の自動車では見たことがない。まったく新しいコンセプチュアルな機能だ。

電気自動車のたたずまいに大きく影響する「顔」にあたる位置に、配色やデザインを動的に変えられるディスプレイを置くというのは、自動車メーカーにはなかなかない発想だろう。

既存のVISION-Sとは距離をおきつつも、この新しい装備が来場者からどう判断されるのか反響を問いたい —— ソニー・ホンダはそう考えたのではないだろうか。

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