ツイッターのイーロン・マスクCEO。
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ツイッター(Twitter)が政治広告の掲載禁止ルールを撤回する予定だと発表したのを受け、共和・民主両党の政治広告バイヤーたちはともに、ツイッターへの復帰を熱望している。
2019年、ツイッターの共同創業者であるジャック・ドーシー(Jack Dorsey)は、政治家候補、政党、選挙、その他の政治的コンテンツに言及する広告を禁止するという決定を下した。その決定を、ソーシャルメディアの巨人であるツイッターは覆そうとしているのだ。
ツイッターは今のところ、新しい方針の全容を明らかにしていない。ただ、プラットフォーム上の政治広告の量を「拡大」し、「政治的主張に基づく」広告の規制を緩和し、政治広告の規制を「テレビや他のメディア」の基準に合わせるつもりだと述べている。
ツイッターの具体的な方針の中身が不明であるにもかかわらず、2023年1月初旬にInsiderが取材した6人の政治広告専門家の大半が、ある程度慎重になりつつも、ツイッター上での広告掲載を是非再開したいと述べた。
ビル・クリントン元大統領、妻で元国務長官のヒラリー・クリントンの元顧問であり、現在はスタッグウェル・グループ(Stagwell Group)マーケティングネットワークのCEOであるマーク・ペン(Mark Penn)は、「ツイッター上で広告がどのように機能し、どのフォーマットでうまくいくのかを我々は必ずテストして確認するつもりです」と話す。
「一般的に見てこれは賢明な判断です。政治はツイッターの活力源です。これを今まで許可しなかったというのは考えられないことです」(ペン)
政治広告がツイッターにもたらす「少なくない」収益
政治広告が禁止される以前、選挙活動費の中でツイッター広告が占める割合は低く、オンライン広告費の大半は、はるかにユーザー数の多いフェイスブック(Facebook)とグーグル(Google)に支払われていた、と専門家は指摘する。ツイッターの元最高財務責任者によると、2018年のアメリカの中間選挙でツイッターが得た政治広告費は300万ドル(約3億3000万円、2018年当時1ドル=110円換算)以下だった。
ツイッターはイーロン・マスクによる買収後に数多くの広告主を失い、収入が激減している。そんな中にあって、短期的に成果の出る方法を探っているのだ。しかし、偽アカウントやヘイトスピーチの急増、大幅な人員削減が報じられていることから、ツイッターは広告の出稿先としては「ハイリスク」だと見る広告主や大手代理店も出てきている。
サンフランシスコにあるツイッター本社ビル。
Matt Rosoff
とはいえ、政治広告主たちはブランドの安全性についてフォーチュン500企業ほど心配していないようだと語るのは、共和党の選挙活動や委員会、支持団体に関わるフレックスポイント・メディア(FlexPoint Media)のCEO、ティム・キャメロン(Tim Cameron)だ。
「ブランド企業は経済や戦争に関する暗いニュースと一緒に広告を掲載されたくないかもしれませんが、政治広告主たちはウクライナ戦争に関する記事と一緒に掲載してほしいと考えるものです。そうした内容に興味を持つ読者を惹きつけたいわけですから」
ツイッターはグーグルやフェイスブックと違い、政治広告によって数億ドル以上を稼ぎ出すことはできないかもしれない。しかし、「たとえ2500万ドル(約33億2000万円、1ドル=133円換算)や5000万ドル(約66億5000万円)であったとしても、同社にとっては無視できない金額です」とキャメロンは言う。ツイッター全体では、2021年に51億ドル(約6783億円)の売上を計上しており、その90%が広告収入だ。
歴史的に見ると、ツイッターはグーグルやフェイスブックに比べ、効果的なパフォーマンスマーケティングの手段とは見なされてこなかった。しかし政治家、活動家、その他の政治力を持つ者にとって、その時々の重要課題を議論するうえでツイッターは社会との貴重な接点となる。
望まれる広告サポート体制強化
専門家の大半は、ツイッターの広告サポートに関して改善を望んでいる。
共和党の候補者や委員会を顧客とするデジタル・マーケティング代理店、IMGEのイーサン・エイロン(Ethan Eilon)社長は次のように話す。
「(ツイッターは)ターゲティングとプレースメントのツールを、政治的主張に基づく顧客のニーズに合わせてもっと整備する必要があります。こういう顧客は、より多くのファーストパーティデータ、より詳細な関心ベースのデータ、同心円状に広がるターゲティングのチャンスを求めていますから」
ツイッターの広告営業チームが大量解雇されたことで、専門家の中には、政治広告が再開された後、特に選挙期間以外の時期に、アカウント管理のサポートをツイッターからどの程度受けられるのか疑問視する声もある。
革新系の候補者や理念を代弁するミドル・シート・デジタル(Middle Seat Digital)の広告担当ディレクター、エリザベス・ベネット(Elizabeth Bennett)はこう語る。
「現在、フェイスブック上では選挙活動に対するサポートがあまり充実していないので、ツイッターが何を考えているのか、どのようにサポートインフラを構築していくのかが楽しみです」
政治広告の専門家の中には、ころころ変わるマスクのリーダーシップスタイルを考えると、ツイッターに広告を出稿するようクライアントにアドバイスすることに慎重な者もいるという。
アドテクノロジー企業であるベイシス・テクノロジーズ(Basis Technologies)のSNS広告担当副社長、カエラ・グリーン(Kaela Green)は、有料の「ツイッター・ブルー(Twitter Blue)」の認証システムを導入した初期の頃の混乱を指摘する。ユーザーが誰でもお金を払えば青いチェックマークのツイッター・ブルーの認証を購入できたことから、なりすましアカウントの急増につながったのだ(編注:その後、なりすましを取り締まるため、Twitter Blueの取得前に電話番号の登録が必要になり、ハンドルネーム、表示名、プロフィール写真を変更した場合は、再審査が完了するまでは一時的に認証バッジが非表示になるようになった)。
「入念な確認システムと、ファクトチェックや誤報・偽情報に対する透明性のあるアプローチが不可欠です」とグリーンは言う。
なお、ツイッターはマスクの就任直後にコミュニケーションチームを解体しており、コメントを求めたがすぐに返答は得られなかった。