撮影:Business Insider Japan
ソニー・ホンダモビリティの新型EVプロトタイプ「アフィーラ(AFEELA)」は、何を目指したEVなのか。
ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長は、筆者の質問に「本当は、プロトタイプとコンセプトモデルの中間くらいなのかもしれない」と話す。
「プロトタイプなので、あのまま製品として出てくるか、というとそれはまた別の話です。ただ、やろうとしていること、アーキテクチャの概念は詰め込んでいる。だから『プロトタイプ』なんです。量産まではまだたくさんやることが残っているのですが」(川西社長)
スマートフォンで起こった「変化」はEVでも再現されるか
アフィーラの運転席。ハンドルは飛行機の操縦桿のようなヨークハンドル形状になっている。
撮影:Business Insider Japan
現状の形状などは以前、ソニー独自に開発した「VISION-S」にかなり似ている。だが、ソニーだけで作ったものではない。ボディや内装を含め、2022年10月にソニーとホンダのチームが合流して作りあげ、CES2023に持ち込んだという。
「デザインはかなり悩んだ」と川西社長はいう。VISION-Sに比べて、装飾性が少なくシンプルな印象を受けるが、それは短時間でここまで仕上げたからではないらしい。
「VISION-Sは(初お披露目した)2020年の段階で通用する、スタイリッシュで格好いいものを、と考えて作った。今回、(CESで)出す上で、VISION-Sとどう違うのか? とは思われたくなかった」(川西社長)が故の、リセット的な部分を持つシンプルさでもある。
ただ、「リセット的なシンプルさ」を持つ形状を選択した裏には、ソニー・ホンダの強い「思想性」がある。
「自動車はどこも複雑な形状です。みなさん、複雑な法規をかいくぐるようにして作っている。そうするとどうしても『似てきてしまう』。モバイルからモビリティへの変化で何が求められているのかを考えた」
と川西社長は語る。
その変化が「シンプル化」だ。
「昔のフィーチャーフォン、いわゆるガラケーのデザインは、ボタンもたくさんあって造形が複雑でした。しかし、スマートフォンの登場でものすごくシンプルになった。
差異化がディスプレイの中で起きるようになったからです。同じことがモビリティでも起きるとしたら、エクステリアはシンプルでありながらも、ディスプレイで表現を変える。そこがどこまでできるのか、ということでもあります」(川西社長)
ボディーにディスプレイを融合させた「メディアバー」という挑戦
正面のグリル部分に内蔵されたディスプレイ。ソニー・モビリティでは「メディアバー」と呼んでいる。
撮影:Business Insider Japan
クルマのスマホ化、とは、別の言い方をすれば「ソフト次第で完成度が決定づけられるクルマ」であり、「カスタマイズできるクルマ」ということだ。
「運転用のコントロールパネルの完全なカスタマイズは、当然のように、ぜひやりたい」(川西社長)と言うが、もちろんやりたいことにはもっと先がある。
その一つの形が、フロントグリル部分と、リアトランクの中央に搭載したディスプレイ「メディアバー」だ。
メディアバーはこのようにリア側にもある。
撮影:Business Insider Japan
走行中の自動車のライトがアニメーションする、という点については、現状、安全法規上の課題がある。だが、ソニー・ホンダはそれを「超えていく」ことを目指す。
技術上のことだけでなく、法規上どういう課題があるか、という点も含めて、解決しようと考えているようだ。
「クルマにディスプレイをつけることは、すでにコンセプトモデルでは多数行われています。でも我々は本当に、製品でやりたい。既存の自動車メーカーではなかなか難しいかもしれないですが、我々はニューカマーですから、チャレンジする価値はあります」(川西社長)
デモでは、試合の結果を表示するような映像も見せていた。
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極端な話だが、メディアバーに広告を出すことも、川西社長は否定しない。外部のパートナーの知見を生かし、何が面白いものになるかを見極めて開発を続ける。
しかし、広告などのために使うわけではなく、「あくまでクルマが周囲の人とインタラクションするためのもの」と川西社長はいう。
その意味では、メディアバーの活用法としては「まずは安心・安全に関わるものが有用ではないか」と川西社長は予想している。
「乗り味」もソフトでカスタマイズできる時代になる?
出典:ソニー・ホンダモビリティ
カスタマイズの幅は「走り味・乗り味」にも向かう。アフィーラがソフトウェアによる制御の比重が高い乗り物を志向するなら、乗る人・ドライブする人に合わせてソフトウェアで走行の感覚を変えることもできる。
「サーキットに来たらならそこに合わせて(乗り味を変える)……ということはできるでしょうし、『もっとエコな走り方を』というニーズもあるかと思います。細かく自分で設定を変えられるようにしてもいい」(川西社長)
その上で、アフィーラのユーザー層の一つの形として、「なるべく、モビリティに積極的に関与したい人に乗っていただきたい」とも話す。
スマホではカスタマイズが当たり前だ。使うソフトもサービスも異なる。そこを自分の利便性に合わせて「マイスマホ」にしていく。
それなら、自動車も「マイモビリティ」として自分の好みに変えていっていいのではないか……というのが、ソニー・ホンダの主張だ。
ただもちろんそこで「安全性を担保しながら」(川西社長)という点が重要。そのためにどこまで自動車として作り込むのかが一つの課題になってくる。
「10年先を読んだ性能」
出典:ソニー・ホンダモビリティ
スマホが購入後にもアップデートなどで価値を変えていくように、アフィーラも購入後に変わっていく、あるいは「ドライバーが自分で変えていけるクルマ」を目指す。
そのために重要な点を「どれだけ未知のこと、わからないことに対する可能性を残していけるかだ」と川西社長はいう。
これは、スマホでは当たり前でも、自動車業界からすれば、大きく異なる発想だ。
自動車ではまず「走る」ことが最優先。自動車内のエンターテインメントは「付加価値」だ。この優先度ありきで考えると、車内エンタメにかけるコストには必然的に限界が出てくる。進歩させる余裕も持たせづらい。
「(車内で見る)映画や音楽は当然ですが、新しいエンタメの可能性を考えていく必要がある。それはすなわち『運転しなくてもいい時代が来た時にどういう価値を提供できるのか』を考えること」
川西社長は自信をにじませながらそう話す。
車内体験におけるEpic Gamesとの協業を同時発表した背景には、このまったく新しい価値作りへの本気度の現れとも言える。だから、自動車内でも最新のゲームエンジンを使って、PCやゲーム機に負けない性能は必須になる。
今やゲームを中心とするエンタメの最前線が「状況に合わせて、リアルタイムに映像を生成するものになっている」(川西社長)からだ。
高性能なプロセッサーを積むのはいいが、問題はその性能レベルをどこに設定するのかだ。家電ならどんどん高性能なものを提供していけば済むが、5年乗るのは当たり前、場合によっては10年買い替えない自動車では、そうもいかない。
川西社長は「そこ(ライフサイクルの考え方)はプレイステーションと同じ」と説明する。
出典:ソニー・ホンダモビリティ
ゲーム機は5年から10年中身が大きく変わることなく売られる。だから最初の段階で「数年後にどこまで性能が使われるか」を想定してプラットフォームを作ることが重要になってくる。
ただ、数年先を見越した設計は、何よりソニーが得意とするところだ。これまでもそうやって、世界トップクラスのゲーミングプラットフォームを創ってきたからだ。
最初の段階ではリッチな性能を用意して、数年先に備える。
自動車でも同じように、演算性能だけでなく、メモリー容量なども含めて「先を読んだ」構成を目指す。
ただそれでも、もちろん限度はある。それほどに自動車の製品寿命は長い。
「そうします、と断言すると語弊があるのですが」と言い添えた上で、川西社長は次のように方針を説明する。
「サーバーラックのように、車内のプロセッサー部を入れ替えたり追加したりできるようにすればいい。極論、その作業はユーザーがやってもいいわけですし」(川西社長)
単に走るだけでなく、「自分のEV」として進化していくものを作る。それが、今時点のアフィーラの狙いであるようだ。