最先端IT企業がなぜ「人間力」を大切にするのか。辻愛沙子さんとリコーが考える多様性のある組織

「偏見」や「固定観念」は、いつも私たちの判断を狂わせる。それを取り除くために、どんな行動が必要なのか。クリエイティブ・アクティビズムを掲げ、社会課題に対するアプローチを続けるarca代表取締役CEOの辻愛沙子氏。女性の社会問題を扱い発信する「Ladyknows」プロジェクトの発足や、SNSによる発信力の高さなどでも注目を浴びている。

辻氏と対談したのは、リコーITソリューションズ(以下、RITS)の代表取締役 橋本泰成氏。先進のITを社会に実装する企業のトップとして、自ら客先や事業所といった現場に足を運び、従業員の能力を最大限に伸ばせる環境を目指している。そんな二人の対話で、眼差しの先にある「多様な社会」をつまびらかにしよう。

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データによる可視化と現場の声。両方を捉える必要がある

—— 橋本さんが、辻さんの手掛けたプロジェクトで特に興味深いと感じたものは何でしょうか?

橋本泰成氏(以下、橋本) 特に「Ladyknows」の取り組みですね。我々の会社でもD&I(Diversity & Inclusion)の取り組みを推進していますし、僕も国内リコーグループD&Iカウンシルのメンバーとして、社内でディスカッションを重ねています。

管理職比率などの数字を見ることも必要ですが、本筋はやはり女性が自分のやりたいことができる環境を作ること。それを実現するためのコミュニティを作っていることにすごく共感を覚えました。

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「Ladyknows」は「女性を知る。社会を知る。自分を知る。」をコンセプトに2019年4月10日に辻愛沙子氏が代表となり立ち上げたプロジェクト。

辻愛沙子氏(以下、辻) ありがとうございます。数字による現状の理解と、当事者の声を両方取り入れていくプロジェクトにしたい、と思ったところからスタートしました。主観を軸にすると「うちの企業にはジェンダーギャップがないから大丈夫」と考えていらっしゃる方は多い。でも、数字で見ると衝撃的なんですよね。女性役員の割合が少ないことはよく言われていますが、健康診断の未受診率を見ると女性の方が高いという事実もあります。それは、正規雇用と相関があるからなんです。

一方で、可視化だけでは当事者の声は見えません。例えば、出産後の復職率がアップしたとしても、「子育てとの両立によりポテンシャルを最大化できない悩み」などは把握しにくいんですよね。

橋本 データで可視化し、ボイスで伝える、というコンセプトは素晴らしいと思います。それから、イベントを通じて共創の場を作られているのにも感銘を受けました。

弊社はソフトウェアの会社で、人が財産です。育休からの復職率は100%で、男性の育休取得率は80%を超えています。

辻 素晴らしいですね。

橋本 数字だけを見るといいのですが、課題もあります。例えば30~35歳くらいは、 年齢的に最も経験を積める時期でもあります。復職後にこの5年で経験できたであろうことを会社としてどう補完していけるのか 。数字がよくても、個別のキャリアを見た時にはまだまだやるべきことがあります。

ステレオタイプの罪。これからは多様な人材がいる組織へ

—— 辻さんは、「社会課題を解決するクリエイティブ」を作ろうとしていると思います。その想いの原点を教えてください。

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辻愛沙子(つじ・あさこ)氏/arca CEO、クリエイティブ ・ディレクター。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組 news zero にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。

 同質性の高い環境に違和感を持ち、中高時代に海外へ留学したことがバックグラウンドとしてあります。多人種、多文化、多言語の中にいると、「普通」のような基準が存在しないため、全員違うという前提の上で、属性ではなく1人の人間として他者に向き合う習慣がつくんです。大学入学のタイミングで帰国してからも同じような感覚で生活していました。

ところが、キャリアをスタートすると「女性ならではの〜」というような、個ではなく属性を見て相手とコミュニケーションを取るシーンを目にする機会が増えたんです。

広告を作る以上、年齢や性別など、分かりやすいものを「ターゲット」としてくくることが多くなります。属性で区切ることによって見えなくなる「個」は少なからず存在すると思うんです。“男性らしさ”や“女性らしさ”もそのひとつだと思います。そういったステレオタイプなものの捉え方が積み重なって、生きづらさや偏見が生まれていくのではないかと思っています。

橋本 ステレオタイプなものの捉え方ではなく、一人ひとりを見ていくことは大切です。社内でも、女性エンジニアがチームの中心となり力を発揮している例は数多くあります。でもそれは女性だからというよりその人の特性が発揮できていたから。女性活躍だけでなく、開発チームに営業や企画を経験した方が混ざると多様性に富み、チームの強い武器にもなります。

さまざまな人がインクルージョンされ、それぞれの特性が活かされていくといいチームになりますね。「こうするのが正しい」ではなく、得意を伸ばせる環境作りをしていきたいんです。

 弊社は小さい会社なので同じように語るのは恐縮ですが、採用面談の際には得意や好きなことのほかに、苦手なことややりたくないことも聞いています。

そもそも代表である私が、スケジュール管理や事務作業、整理整頓が苦手。でも、企画を考えたり世界観を表現したりすることは得意なんです。代表自らが得手不得手の特性を身をもって感じているからこそ、誰しもが持っている得手不得手の要素、言い換えるならば“凹凸”を均していくのではなく、それぞれらしい凹凸を持ったまま補い貢献し合える組織を目指していきたいなと。それを1000人規模の会社で実践されている橋本さん、本当に尊敬します。

現場の声を聞きに行くと、見えなかったものが見えてくる

—— 橋本さんは、全国にある事業所を回ったり、お客様先へ訪問したりしていると伺いました。その行動には、どんな信念があるのでしょうか?

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橋本泰成(はしもと・やすなり)氏/リコーITソリューションズ 代表取締役 社長執行役員。大学卒業後、1991年にリコーに入社。主力商品である複合機のコントローラソフトウェア開発を担当し、2015年から開発戦略の統括役を担う。その後、2017年より本社直轄組織にて、リコー初のデジタルサービス事業の立上げに従事し、それまでのものづくりとは違うアジャイル開発による事業立ち上げを推進した。2020年からはRICOH Smart Integrationプラットフォーム開発センターの所長を、2021年からはリコーデジタルサービスビジネスユニットのAdvanced Value開発センター所長を歴任。2021年8月より現職。

橋本氏 僕自身はもともと、あまり現場へ出向くタイプではありませんでした。ある救急災害医療のソリューションを作る際、メンバーから「訓練の時に我々のサービスを使ってくれるというので、見に行きましょう」と誘われても、「もともと関係性のある君たちが行けばいい」と言ったほど。そうしたら、「橋本さんも現場での使われ方を見るべきだ」と部下に怒られたんですよ。

その言葉をきっかけに現場を訪れてみたら、想像していたものとまったく違いました。

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RICOH eWhiteboard(大型電子ペーパー)。ペンで書き込むことができるうえに、視野角が広く防塵防滴でさまざまなシーンで活用できる。

提供:リコー

橋本氏 救急災害医療の現場では、壁一面にライティングシートを貼り、患者さんの症状や重症度などをどんどん書いていきます。私たちは電子ペーパーを使ってDXするソリューションを提案していましたが、現場を見ると驚くほど足りない部分がある。書き味や手書き変換の速度など、現場で使うにはまだまだ改善の余地がありました。気づきがたくさんあって、開発にも力が入りました。それからは、お客様のところへ積極的に行くようになりましたね。

辻氏 私も現場に行くことや当事者の声を聞くことに重きを置いています。SNSで情報収集をしたり記事やデータや書籍を読んだりして学びを得ることも多いですが、それだけではリアルな当事者の目線や痛みに気付けないこともあるのではと。路上生活者支援の団体の現場で炊き出しに参加したり、女性支援のシェルターに物資支援や寄付を行ったり、当事者にプロジェクトチームに参加してもらったりなど、足を動かすことを忘れないように活動しています。

あと、自戒の念を込めてでもありますが、「分かった気にならない」よう意識をしています。経験を重ねたり学んだりするほど分かった気になってしまうので、簡単に結論付けないことが大事ですよね。

橋本 その通りですね。我々は技術者集団ですが、お客様にとって価値あるサービスを提供するためには、お客様の困りごとを理解しなくてはなりません。実のところ、プログラミングや技術が得意なエンジニアの中には、直接お客様先に出向いて話を聞くことが苦手な人もいます。

ただ、逆に言うと技術力の高いエンジニアがお客様の困りごとを直接理解できたら、とても強い武器になる。ソリューションを使いにくそうにしている現場を見て、ちょっと改修するだけですごく使いやすくなった、ということがあります。

よりよい社会や組織を目指して、やりたいことや自分らしさを軸に

—— 辻さんは社会に、橋本さんは社会や組織に向き合っているかと思います。これからの未来、よい社会、よい組織を作るために必要なものは何でしょうか?

橋本 実を言うと、僕自身は技術があまり得意ではないんです。過去に「アジャイル開発をやりなさい」と言われたものの経験がなく困り果てていた時に、リコーではまだ実践がなかったアジャイル開発のスキルを磨いているRITSのエンジニアに助けてもらったことがありました。

それ以来、なんでも自分が引っ張るという意識から、できないことを素直に認め、メンバーの強みを活かせるよう徹底的に支援していく意識が強くなりました。

 新卒の時の会社の師匠は、サーバント(支援型)リーダーシップの方。それは簡単なようでいて、実は難しい。メンバー信じて託すことや、得意な人に任せて自分はフォローに徹することなど、完璧で強いリーダーよりも自身の苦手な部分やできないことを開示して、託せるリーダーが令和的だなと思います。人は誰しも得手不得手がありますから。マネジメントにも社会にも、「弱さの開示」がもっと必要なんだと思います。

橋本 10年以上前、チームを任された時、「モチベートされた組織は通常の3倍ものパフォーマンスが出る」と実感したことがありました。その後も何度か同じ経験をしました。そういうチームをたくさん作るために、やはりメンバーがやりたいことを仕事にどう繋げていくかを第一に考えるようにしています。

開発だけでなく、僕自身がハブになり販売や企画と一体となった、小さなイケてるチームをたくさん作りたいと考えています。

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 最先端の会社が人間らしさを重んじているのが衝撃的ですよね。私も、これからの社会にはルネッサンス —— つまり「人間らしさの回帰」が必要だと思っています。

社会課題は、物語のように勧善懲悪の構造でできているわけではない。二項対立ではない複雑さの中で見えていないものもたくさんあると思います。

仕事や会社、テクノロジーは、人間がより豊かになるためのものだったはずなのに、大事なものが逆転して働く人たちがおざなりになっている。短期的に、人を機械として扱うようなマネジメントにより、痛みやゆがみが生まれています。

分かりやすさや効率化だけに押し流されず、リアルな声を大事にして、ちょっと泥臭いけど実際の声を聞きながら人間性の回帰につなげられたら、と思っています。

—— 最後に、今後の活動や展望を教えていただけますか。

 arcaという会社で、表現を通じて世の中に届け、伝えていくというクリエイティブ・アクティビズムを掲げていましたが、社会課題を知るにつれ、“伝える”ことだけでなく“変わっていく”ためのサポートを必要としている企業がたくさんあることに気が付きました。これからは、クリエイティブを中心にしつつも、人材育成やファイナンスなど、さまざまな領域で社会に向き合うサポートをする人たちが集うアクティビズム・カンパニーを目指していきたいですね。

橋本 我々の会社は地域拠点が多く、従業員がその地で働いていると地域の社会課題が見えてきます。地域にお世話になっているからこそ、地域のために技術やサービスを提供したい。大学や自治体など産学連携でDXを実現するなど、ローカライズしていくことで、RITSらしい貢献をしていきたいと考えています。


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