アマゾン創業者で前最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏。左は現在の恋人とされるニュースキャスターで女優のローレン・サンチェス氏。
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大規模なレイオフ(一時解雇)と株価下落が続くなか、アマゾンでは創業者で前最高経営責任者(CEO)ジェフ・ベゾス氏の経営トップ復帰を期待する声が高まっているようだ。
アンディ・ジャシーCEOが1万8000人の人員整理を発表した翌日の1月5日、アマゾンの従業員たちは社内向けスラック(Slack)チャンネルで不満をぶちまけた。
Insiderが確認したスクリーンショットによれば、レイオフをめぐる議論の場となっているチャンネル(参加メンバー数約2万6000人)では、山積する問題の解決に向けてベゾス氏の復帰を要望する声が多数上がっている。
「どうやらアンディの立場も安泰ではなさそうだ」
ある従業員の投稿に登場するこの「アンディ」はもちろん、2021年7月にベゾス氏からバトンを受けて経営トップに就任したジャシーCEOを指す。
同投稿には、米CNBCのインタビュー記事(1月4日付)へのリンクが付されている。米投資顧問会社リソルツ・ウェルス・マネジメント(Ritholtz Wealth Management)のマイケル・バトニック氏はそこで、ベゾス氏が年内にCEOに復帰するとの予測を語っている。
「彼は復帰すべきです……彼が一番だと思います」
別の従業員が書き込んだ上の投稿も、ベゾス氏の復帰の必要性に言及したものだ。
この投稿にコメントする形で、ある従業員は映画『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』のスクリーンショットを投稿。さらに別の従業員は、ベゾス氏の笑顔画像に「もう寂しくなったのかい」とのキャプションを付けて反応した。
また、別の従業員は「(ベゾス氏が)戻ってくるというウワサがあっても全然おかしくない。彼ならたぶん、おいおいジャシー、一体何をやってるんだ?と文句を言ってると思う」
ジャシーCEOは「感覚がズレている」との批判も
ジャシーCEOのレイオフをめぐるコミュニケーションのあり方に何より強い憤(いきどお)りを感じている従業員もいるようだ。
本件の内情に詳しい関係者3人(きわめてセンシティブな問題のため個人を特定できないよう匿名とした)の証言によると、ディレクター級はもちろん、一部のバイスプレジデントにも人員整理計画の詳細は知らされていなかった。
ある従業員によれば、ジャシーCEOが全社向けに発信した最近のメールの中には、「感覚がズレている」印象のものがいくつかあったという。
例えば、感謝祭の前後に送られてきた「ゴロゴロ(=七面鳥の鳴き声を表現した擬音語)」というタイトルのメールがそれだ。Insiderはその内容を直接確認した。
11月23日付の上記メールの中でジャシーCEOは、アマゾンが難局に差しかかっている事実を認め、従業員に対する感謝を述べた上で、レジリエンス(しなやかに困難を乗り越える適応力)と楽観的な姿勢の重要性を強調している。
「この3年間、世界全体があまりに大きな混乱と動揺に呑み込まれ(いま私たちも現実にそれを経験していますが)、こうした状況においてはどうしても楽観的思考が怒りに押しつぶされがちです」
人員整理で職を失う従業員たちの怒りの矛先が経営トップに向けられるのは自然な流れとは言え、現実味を帯びる景気後退入りを前に大規模なレイオフに踏み切ったのはアマゾンだけではない。
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)やツイッター(Twitter)のような大手テック企業も数千人単位の人員整理を進めており、そこでもやはり従業員たちへの伝え方が不適切との声が上がっている。
Insiderはアマゾン広報に対し、ベゾス氏の復帰は検討されているのか、ジャシーCEOは取締役会を含め会社全体の支持を得られているのか、コメントを求めたものの拒否された。
「Day1」の精神が「Day2」に
ジャシーCEOは数カ月前から社内の動揺を沈静化するのに手を焼いてきた。
一部の現役従業員からは、旧態依然のエンジニア文化、マネジメント層のだぶつき、増え続けるお役所的な手続きなどの問題について、昨年秋ごろから不満の声が高まっていた。
彼らは現在の状況を、アマゾンにもついに「Day2」カルチャーが浸透してきたと揶揄する。
「Day2」は、創業者のベゾス氏がその重要性を説き続けてきた「Day1(創業初日)」の心構えをもじったもの。何年経っても創業当初のスピード感やリスクを恐れない起業家精神を持ち続けなければならない、ベゾス氏はそう語って従業員たちを常に鼓舞した。
ただ、アマゾンの全従業員がジャシーCEOに批判的な見方をしているわけではない。
ある従業員は冒頭で紹介したスラックチャンネルへの投稿で、アマゾンがパンデミックの最中に過剰な拡大主義に走り始めたのは、ジャシー新体制への移行前からだったことを指摘し、「今日に至る経営判断の多くはベゾス体制下で行われたことを忘れてはならない」と書いている。
また、別の従業員は「(ベゾス氏、ジャシー氏のどちらが経営トップにふさわしいか)議論したところで精神的に疲弊して無駄なエネルギーを使うだけだ」と投稿している。
11月30日に行われたニューヨーク・タイムズ主催の『ディールブック(DealBook)』年次サミットで、コラムニストのアンドリュー・ロス・ソーキンはジャシーCEOに冗談交じりでこんな話を振った。
「ジェフは(米ウォルト・ディズニーのCEOに復帰したボブ・)アイガーみたいなことはしないでしょうね。(彼の望む)最高の日々を送っているようなので」
『ディールブック(DealBook)』年次サミットに登壇したジャシーCEO(右)。インタビュアーはアンドリュー・ソーキン。本文に出てくる発言部分は26分03秒あたりから。
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続けてソーキンが「あなたはたぶん恵まれたポジションにいるんだと思いますよ」とジャシーに語りかけると、会場の観客からは笑いが沸き起こった。
なお、ジャシーCEOは居心地の悪そうな笑みを浮かべたままひと言も語らず、この発言を受け流している。