撮影:Business Insider Japan
CES2023で世界初公開したソニー・ホンダモビリティの新型EVプロトタイプ「アフィーラ」。ソニーブース内に設置された車両は基本的に外観撮影のみの展示だったが、その実車に乗り込んで「試乗」の形で内部を取材できた。
アフィーラが目指すUIのコンセプトや、現時点での「動き」はどんなものだったのかレポートする。
スマホで操作する「自動ドア」を開けて乗り込むと……
アフィーラのドアは前後とも自動開閉機能が付いている。
撮影:Business Insider Japan
「ドア自動で開きますから、そのままドライビングシートに乗り込んでください」
説明を担当してくれたソニー・ホンダモビリティの社員が、手に取ったスマホを操作するとドアがスーッと音もなく開いた。
ドアの自動オープン/クローズの仕組みはテスラも一部車種で搭載しているが、いまだに目新しいハイテクさを感じる機能だ。
ソニーブース内に展示されているアフィーラに乗り込んでいるので、周りは取り囲むような人だかり。隣と話すにもやや声を張らないと聞こえないほどの喧噪がある。
けれども、アフィーラの車内に乗り込んでドアが自動で閉じると、一気に騒音のない静かな空間になった。
プロトタイプではスマホで操作していたが、それ以外にもこのBピラー(中央部分)に内蔵したカメラで利用者を認識して、自動オープンするようにもなるという。
撮影:Business Insider Japan
アフィーラのハンドル
撮影:Business Insider Japan
ドライバーズシートから見る車内は、左右一面に広がる超横長な「パノラミックディスプレイ」と、ドアの根元付近に埋め込まれたデジタル・サイドミラーが目に付く。ハンドルは、飛行機の操縦桿のような、いわゆる「ヨークハンドル」を採用している。
説明員によると、横長画面という基本的なコンセプトは2020年に発表したVISION-Sから踏襲している。
一方、VISION-Sではフロントディスプレイが3つに分かれていたものが、継ぎ目のないシームレスなディスプレイになるなど、2026年の市販化に向けた仕様で設計し、クオリティーを上げている最中だという。
アフィーラのインストゥルメントパネル。VISION-Sと似ている印象があるが、以前の試乗記事の写真と比べてみると……。
撮影:Business Insider Japan
「VISION-S 01」の車内とインストゥルメントパネル部分。確かにアフィーラとデザインは似ているが、画面そのものは分割式になっており、UIの見た目も違う。またVISION−Sではハンドル形状は普通の乗用車と同じものだ。
撮影:西田宗千佳
パノラミックディスプレイには3つのモードが用意されている。
1つ目はドライバーが運転に集中したいときには、壁紙のようなものを表示させる「シンプルモード」。
2つ目はナビが必要な場合は、ドライバー側にナビ、パッセンジャー(助手席)側にはエンタメを表示する「ナビゲーションモード」、そして3つめはコンテンツを画面一杯にタイル表示するモードだ。
シンプルモード。情報量を減らして、運転に集中できるようにする。
撮影:Business Insider Japan
ナビゲーションモード。右端の方ではパッセンジャーがエンターテイメントを楽しめる。
撮影:Business Insider Japan
最も情報量が多く派手なのがこの3つめのモード。タイル状に機能やエンタメが並んでいる。
撮影:Business Insider Japan
このほか、VISION-Sからの変化したポイントとして、プレイステーションのゲームに接続して、駐車時などにプレイできるようにもなっていた。プレイ時は次のような画面で遊べる。
プレイステーション(おそらくPS5)にリモート接続してゲームをプレイしているところ。よく見ると、画面上にはバーチャルコントローラーも表示されている。
撮影:Business Insider Japan
仕組みとしては、自宅などに設置したプレイステーションにインターネット経由で接続して、車内のコントローラーでプレイするという。「PSリモートプレイ」をアフィーラにも搭載した形だ。
自動車としては異例の「大量のカメラ」搭載の理由
赤線部分は編集部が加工。
出典:ソニー・ホンダモビリティの発表資料より。
1月4日(現地時間)のソニーのプレスカンファレンスレポートで指摘したように、アフィーラは、画像解析をするイメージセンサー、立体的に対象物を捉えられるTOFセンサーを含めて、数多くの「カメラ」を搭載している。その数は20以上だ。
ドライバー向けに居眠りしていないかなどの状況を認識するセンサーは他車種でもすでに搭載しているが、助手席や、後席にまで、同様のセンサーを広げている例は珍しい。
後席にまでTOFセンサーを搭載している理由を改めて聞くと、車内空間をさまざまな方法でセンシングすることで、新しい乗車体験を目指したいということだった。
「色々なユースケースを議論しているところ」だと担当者は断った上で、例えばジェスチャーでUIを操作したり、車内に何か忘れもをしていないか認識したり、あるいは車内に子どもが置き去りになっていないか、といった認識をすることにも使えないか議論をしているという。
運転席側のTOFカメラは天井側に搭載。ジェスチャー操作などの判別ができるという。
撮影:Business Insider Japan
また、席ごとに人が座っているかどうかもカメラで認識できるため、例えば助手席に誰もいなければ画面を写さないなどの用途にも使うようだ。
取材の印象としては、目に見える形で「まったく新しい」という体験提案はまだ一般公開できる状況ではないようだ。今の段階では、「その体験をつくりあげるデータを取得する装備を整えた」というところか。
ただこうした機能の実装にあたってはプライバシーへの配慮は大前提になる。そのため、カメラ映像などの情報は基本的にローカル(車内)で処理し、クラウドなどオンライン上にはアップロードしないという。
車内空間を「個人のエンタメ空間に拡張する」ための方策
ソニー・ホンダでは、車内空間を個人のエンタメ空間にまで拡張する、というコンセプトでUIを開発している。
個人にパーソナライズするために、EVのモーター走行音を複数から選べるようにしたり、イルミネーションをゲームっぽくしたりなど複数の「テーマ」を用意するという。
ゲームに関連するテーマを選んだところ。メータークラスター部分の絵の演出が、冒頭の写真とは変わっていることがわかるだろうか。左端はデジタルサイドミラーの映像だ。
撮影:Business Insider Japan
プロトタイプではスパイダーマンのテーマもあるようだった。
撮影:Business Insider Japan
車内空間のエンタテイメント性という点で気になるのは、Epic Gamesとの協業で、何をやっていくのか、ということだ。
説明員によると、まず、既に現時点のインストゥルメントパネルの映像(例えば、メータークラスター部分に表示されているアフィーラの3Dモデルや、背景に流れる煙などのイメージ)は、Unreal Engineで描かれているという。
今後は車体の各種センサーから得られた情報を、ドライバーが解釈できるかたちで画面上に表現していく、というような、リアルタイム性のある映像表現を取り入れていくという。
「環境センサーにLiDARは必要と判断した」
赤で囲んだ部分にLiDARを内蔵している。
撮影:Business Insider Japan
やや専門的な話になるが、もう1つ、アフィーラの仕様で気になる点がある。安全支援としての自動運転機能の実現のための「車両の周囲の環境認識」をどんなデバイスでやるのかだ。
完全自動運転車両は、その多くが、レーザー光を使って周囲を把握するLiDARというセンサーを搭載している。
ただ、人間の運転をAIがサポートする形の市販車両にはあまり搭載されていないのが実情だ。
例えば、テスラは比較的初期の頃からLiDAR搭載には否定的で、カメラ映像を主体とした自動運転の開発に注力していることはよく知られている。
一方、アフィーラは、ルーフ(天井)部分の前端にLiDARを搭載していることを明言している。
LiDARを搭載した理由について聞くと、
「我々は、自動運転で前方車両の距離感なども含めて取得するためにはLiDARが必要だと考えています。もちろん、自動車メーカーによって考え方が違うことは承知しています。
ただ、今の時点ではLiDARを使ったレベル3の自動運転の実現、ということを考えています」
という回答だった。
※レベル3の自動運転:運転の自動化はレベル1から5まで、自動化レベルを5段階で示すことが業界では一般的になっている。レベル3はシステムがすべての運転操作を一定の条件下で実行する。自動運転の作動が継続困難な場合は、システムの介入要求等に運転者が適切に対応する。
参考:政府広報オンライン
ソニーがつくる「車内体験」はどんなものになるのか
ボディーとディスプレイが一体化して車外に情報を表示する「メディアバー」はフロント側とこのリア側の前後に内蔵している。
撮影:Business Insider Japan
15分ほどの乗車体験にすぎないためあまり細かなことは語れないが、現時点ではやはり、あくまでプロトタイプにすぎないという印象は強く感じる。
取材のなかで、各種センサーを生かした特別な体験は、今のところ何もデモがなかったからだ。
ソニーのDNAが入った電気自動車として作られる以上、車内体験へのユーザーの期待値は、車両の外観と同じか、それ以上の比重で評価されることになる。
出荷は2026年、受注は2025年に開始する。既存の自動車にはないような新しい体験をソフトウェア的に作り込む時間は、それほど余裕があるわけではないだろう。
ソニーとホンダの合作という、両ブランドを背負った期待値を上回れるか。今後の発表も注目していきたい。