本格的な受験シーズンの到来を前に、東京都交通局が「痴漢撲滅キャンペーン」を実施する。
都営地下鉄の車内や駅での警戒を強化し、痴漢被害を目撃した場合に利用できるアプリや取るべき行動を紹介。第三者介入を促す狙いだ。
警戒を強化「安心して試験に臨んで欲しい」
受験シーズンに向けて都営地下鉄で「痴漢撲滅キャンペーン」が始まる。
出典:東京都交通局HP
都営地下鉄の「痴漢撲滅キャンペーン」は1月11日から3月10日まで。期間中は電車内や駅の警戒を強化するほか、駅改札や車内の液晶モニターで痴漢対策動画を放映したり、新たな痴漢対策ポスターを張り出したりするなど啓発活動にも力を入れる。
背景にあるのは、受験生を狙う痴漢の存在だ。
受験生は痴漢被害にあっても試験に遅れることを恐れて声を上げられないという推測などを元に、大学入試共通テスト(センター試験)の日を狙って痴漢することをほのめかしたり、誘導する投稿がインターネット上では複数見られ、近年、多くの批判を集め社会問題ともなっていた。
2020年の大学入試センター試験初日、電車で見守り活動をしたり駅前で抗議活動をする人たちがいた。
撮影:竹下郁子
過去には市民が電車内の見守り活動をしたり、中高生らが「まじで痴漢やめろ」と書いたプラカードを東京・渋谷駅前で掲げて抗議したりしたことも。
都営地下鉄はJR東日本や東京メトロなど21の関東の鉄道会社や警察などと連携し、2022年6月にも痴漢撲滅キャンペーンを実施したが、受験シーズンに合わせた取り組みは今回が初めてだ。担当者は、
「受験シーズンに特に痴漢が増えているということはありませんが、安心して試験に臨んで欲しいという気持ちから実施することにしました」(東京都交通局)
と話す。4月には新入学生や新入社員に向けた取り組みも予定しているそうだ。
警視庁アプリのダウンロードを
東京都立大学学生らの意見を取り入れて制作された痴漢対策ポスター。
出典:東京都交通局HP
キャンペーン期間中に掲出されるポスターのキャッチコピーは「助ける準備、できていますか?」。
痴漢を目撃した時に取るべき対応として、①車内非常通報器を「押して」助ける、②スマホアプリを「見せて」助ける、③「声かけ」で助ける、という3つの方法を呼びかけている。
②のスマホアプリは警視庁の防犯アプリ「Digi Police(デジポリス)」だ。「ちかんされていませんか?」という画面を見せて助けが必要か確認したり、「痴漢です、助けてください」という画面で助けを求めることもできる。
東京都立大と共に作ったポスター
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ポスターは東京都立大学の学生らの意見を取り入れて制作されたもので、当事者(被害者)に自衛を求めるのではなく、第三者に介入を促しているのが特徴的だ。
学生からは、「あらかじめ具体的な対処方法を知っておく=『助けるための準備をしておく』 ことで、いざというとき、勇気を出して見て見ぬふりをすることなく被害者を助けることができる」「このような意識を持った人が増えることで、痴漢行為を絶対に許さない社会づくりにもつながっていく」などの意見が出たという。
「『電車内の非常通報器を押していいかどうか分からない』という声もありましたが、躊躇なく押してください。
ただ通報器は車内の一定の場所にしかなく、混雑時はそこまで行けない場合もあると思うので、その場合は他の2つの方法を取って欲しいです」(東京都交通局)
非常通報器は押すと乗務員や指令所と通話できるようになっているので、「痴漢がいるようだ」などと報告して欲しいという。
二次被害生まないため、知識のアップデートを
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加えて知っておきたいのは、「ハサミやカッターでスカートを切られる」「カバンやポケットに使用済み避妊具(コンドーム)を入れられる」「体液をかけられる」「AirDropで卑猥な画像を送りつけられる」などの痴漢行為が多様化していることだ。
また「被害者は悪くない」「スカート丈と痴漢被害には関係がない」「男子生徒も被害にあう」ことなどを改めて頭に入れ、二次被害を生まないようくれぐれも注意したい。
痴漢を許さない、見逃さない。そんな1人1人の眼差しが、痴漢という卑劣な行為への抑止力にもなるはずだ。同様の取り組みが、鉄道各社に広がることを願う。