CESのメイン会場の1つ、ウェストホール。
撮影:Business Insider Japan
アメリカで開催されるCESの位置付け「世界最大の家電ショー」から「テクノロジーショー」へと変わって久しい。
近年は自動車関連の展示も数多く、自動車ショーとは違い車両の「テクノロジー」部分を訴求するショーとして使われている印象がある。
例えば独自動車メーカー大手BMWは、「ボディーの色が変わる自動車」のコンセプトを展示するなど、テクノロジーの未来を見せた。
CES2023でも、さまざまなモビリティ展示が複数の会場に散らばって広がっていた。気になるプロダクトをまとめてみよう。
EVピックアップ「ラム 1500 レボリューション BEVコンセプト」
「ラム 1500 レボリューション BEVコンセプト」の車両。ステランティスブースで展示されていた1台。
撮影:Business Insider Japan
欧州、アメリカブランドが集まる多国籍自動車グループのステランティスは、CESでEVピックアップトラック「ラム 1500 レボリューション BEVコンセプト」を発表、ブース内で展示した。
EV版ピックアップトラックは既にフォード「F-150ライトニング」やシボレーの「シルバラードEV」など老舗ブランドも発売、もしくは発表している。アメリカの新興企業リビアンの「R1T」などもあり、選択肢が増え始めた段階だ。それでも、伝統的なメーカーが参入することは非常にインパクトがある。
建前上はあくまで「コンセプト」としての展示だが、見る限り細部まで作り込まれている。このまま自動車ディーラーのショールームに並んでいてもおかしくないような雰囲気すらあった。
車両を見るために行列に並ぶと、すぐそばで内部に乗り込んだり、説明員から話を聞ける。ひっきりなしに人が写真をとっていた。
撮影:Business Insider Japan
特に驚くのは、そのEV専用のシャシー設計のコンパクトさだ。日本人からすれば巨大なフルサイズのピックアップトラックであるにもかかわらず、根幹となるEVモーター、バッテリーを搭載する部分は実にコンパクトに仕上がっていることがわかる。
何より驚かされるのは、車両は巨大でもその心臓部が極めてコンパクトなことだ。モーター、バッテリー、ボディーを支えるベース部分(シャシー)、サスペンションといった足回りまで含めて、人の膝下程度の低さで収まっている。EVの集約性の高さ、部品点数の少なさがわかる。
撮影:Business Insider Japan
エンジン車で考えれば、これだけ大きなピックアップトラックにはそれなりに巨大なエンジンが欠かせない。例えば3万ドルで買える同社のエントリーモデル「RAM 1500 CLASSIC」でも、エンジンは3.6LのV6エンジンだ。
それがEVになるとコンパクトな動力部(モーター)で済み、しかもエンジン車と比べものにならないほどメカがシンプルになる。
確かに、これだけ構造が簡単なら、新興メーカーがEV車に挑もうという気持ちになることもよくわかる。
撮影:Business Insider Japan
EVならではのボディー設計の自由度の高さも存分にアピールしている。
上の写真のように乗車スペースの部分はドアを観音開きで設計していて、運転席と後席を区切るBピラーもない。これは、バッテリーと一体になったシャシー構造が強固だからこそ、ピックアップトラックのような過酷使用を想定した車両でも実現できる。
非常にボリュームのある造形のリアタイヤアーチ周辺。
撮影:Business Insider Japan
木材などの長いもの(5.4m)を、リアの荷台からフロントのトランクまで貫通して載せられる。EVならではの仕組みになっている。
出典:Stellantis公式YouTube「CEO Carlos Tavares | 5 January 2023 Keynote at CES2023」より
また、大きなボンネットの内部はフロントトランク(フランク)になっている。この部分はエンジン車と違って大きな構造物がないため、荷台部分から鼻先まで貫通した穴を設けることで、18フィート(約5.4m)もの長い荷物を載せることもできるという。
ラムでは、2024年の販売を計画している。
商用EVメーカーCENNTRO
商用EVの分野ではCENNTROのラインナップの広さが目立っていた。
小型の配送EV、街中で見かけるような配送車のEVから、水素で走るトラックヘッド、自転車タイプの超小型配送車まである。
CENNTRO LS300「LOGISTAR 300」
12月に発表されたばかりの「LOGISTAR 300」を早速展示していた。
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2022年12月に発表されたばかりの新型商用EV。118kWhのリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーを搭載、最高時速は62マイル(約100km/h)で、1充電の航続距離は273マイル(約440km)。公式サイトによると、総重量は4700kg、最大積載重量は1500kg。
リアはアメリカの商用車らしい観音開きドア。
撮影:Business Insider Japan
サイズ感としては、ハイエーススーパーロングより一回り大きい。急速充電の場合、30%→80%充電を2時間で完了できるとしている。
電動の4輪カーゴ自転車「Antric One」
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荷室を持つ4輪の電動自転車(カーゴ)という、ラスト1マイル輸送を想定した車両。2022年7月にCENNTROが255万ドル(約3億3500万円)の出資を発表したAntric社が設計したもの。リリースによるとCENNTROがドイツの工場で製造し、世界販売を予定している。リリースによると、Antric社はドイツ・ボーフム大学発のスピンオフ企業。
実車は、機構的には電動アシスト付きの4輪自転車だが、布のボディをかぶせたようなユニークな構造が特徴。後部は広い荷台になっている。
撮影:Business Insider Japan
荷台には、フレームで囲われた「カゴ台車」がすっぽり収まる設計になっていて、実用性は高そうだ。
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積載重量は約270kgまで対応、最高速15.5マイル(約25キロ)、航続距離31マイル(約50km)。荷台には、フレームで囲われた「カゴ台車」がすっぽり収まる。
運転席は自転車そのもので、簡易的なシートに座って漕ぎ、ブレーキは自転車のように手で握る。ただ、ブレーキ機構はオートバイのような油圧ブレーキだった。
撮影:Business Insider Japan
日本国内でも、駐車場難などから住宅地では荷台付きの自転車で宅配しているケースがある。今後、いろいろな国で自転車とクルマの中間の「働くクルマ」も増えていくのはないか…と思わせる設計だ。
2023年中発売をうたう、水素燃料電池で走る電動トレーラーヘッド「LM864H」
CENNTRO初の水素燃料電池車で初の電動トレーラーヘッドの「LM864H」。
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運転席の後部が水素タンクになっているのだろうか。
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CENNTRO初の水素燃料電池車で、同社初の大型トラックをうたう。長距離走行でもゼロエミッションを実現できるという。2023年の第3四半期の発売を予定している。
総重量1万2000kg、最高時速52マイル(時速84km)、航続距離は約300km。
太陽光で充電できる小型EV「SQUAD」
オランダの新興企業Squad Mobilityの超小型EV車両「SQUAD Solar City Car」。デザイン的にはかなりよくできていて、発売間近な雰囲気を感じさせる。
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オランダの新興企業Squad Mobilityの超小型EV車両「SQUAD Solar City Car」。オランダ企業が集まるブースの一角で展示していた。
天井にあるソーラーパネルで充電して走行する(電力供給による充電も可能)。同社では太陽光充電での走行距離は「ソーラーレンジ」と呼んでおり、オランダでは1日最大22km走行分を充電できる。公式サイトでは、22kmの走行距離はオランダで検証済みと説明している。
誇らしげに「ソーラーパワード」と書かれたリアの窓部分。
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ちなみにソーラーレンジは地域の日射量や日射の強さによって変わる。そのため、現地の説明パネルにはラスベガスで使う場合は1日で31km分の充電が可能だと書いていた。
Squad Mobilityが提唱するソーラーカーが興味深いのは、「満充電で何キロ走るか」ではなく、「典型的なユーザーが1日に必要な走行距離に対して、ソーラーでどれ程まかなえるか」で考えるというコンセプト。太陽光は毎日供給されるし、遠出をするはずもないのだから、既存の自動車の尺度で考える必要はない、ということか。
Squad Mobilityによると、マイクロカーユーザーの平均移動距離は1日12kmあまりのため、設計上は十分賄えるとする。
オプションのエアコンの吹き出し口と思われるダクトが室内左右にある。
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ボディーはアルミフレームで構成されており、フロントとリアには乗員を守るクラッシュ構造も採用している。
車両重量は350kg、全長2m、全幅1.2m、全高1.6mと実際にも非常にコンパクトだ。エアコンもオプションで搭載できる。なお、「ドア」もオプション扱いだそうだ。
2023年中の生産開始を予定、価格はスタンダード版で6250ユーロ(約88万4000円)。