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- 2022年は暗号資産市場にとって非常に厳しい1年となり、FTX、セルシウス、スリー・アローズ・キャピタルといった有名企業の経営破綻が相次いだ。
- ある幹部は「中央集権型で、レンディングによって利息を得るタイプの金融商品は、ドードー(17世紀に絶滅した鳥)と同じ道をたどるだろう」との見方を示している。
- 2023年の暗号資産市場の行方、待ち受けている最悪のシナリオについて、複数の専門家に話を聞いた。
暗号資産(仮想通貨)市場は2022年に大幅に下落し、業界の大手企業が破綻するケースが相次いだ。具体的には、取引所FTXの経営破綻。アルゴリズム型のステーブルコイン(価値の安定性維持を志向するタイプの暗号資産のうち、法定通貨などの資産を発行事業体が保有することによってその価値が担保されている「担保型」ではなく、法定通貨と価値が連動するようにアルゴリズム設計された暗号資産)である「テラUSD(TerraUSD:UST)」の暴落。さらには、暗号資産ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital:3AC)が、債務不履行から破産を申請したことなどだ。
仮想通貨分析企業メッサリ(Messari)のデータによると、暗号資産の時価総額は、2021年のピーク時と比較して65%以上も下落した。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)の価格も、2022年初来で60%以上のマイナスとなっている。
そんな中、多くの関係者は「これ以上悪くなる可能性はあるのだろうか?」と自問している。
ちなみに暗号資産セクターは、2018年から2019年にかけて、1年6カ月にわたる下げ相場、いわゆる「暗号資産の冬」を経験している。
デジタル資産取引プラットフォーム、エンクレイブ・マーケッツ(Enclave Markets)の戦略責任者、フィル・ワージェス(Phil Wirtjes)はInsiderに、「危機的状況は、その悪影響が完全に出尽くすまでに長い時間がかかるものだ。2023年にも、さらなる連鎖が起きるとみている」と語る。
「とはいえ、(暗号資産)業界に、より質が高く信頼に足るソリューションを構築しようという機運はすでに再燃しており、これが2023年の中核をなすテーマとなるだろう」
2023年、暗号資産市場に訪れる、次の悪いニュースは?
現在、業界全体がその動向を注視しているのがデジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group:DCG)だ。DCGは、暗号資産運用会社グレイスケール(Grayscale)や、仮想通貨取引会社ジェネシス(Genesis)などを傘下に擁する金融コングロマリットだ。
2022年11月には、ジェネシスのレンディング部門が出金を停止し、批判の矢面に立たされた。同社は、サム・バンクマン=フリード(Sam Bankman-Fried)が創業した暗号資産取引所FTXの取引口座に総額1億7500万ドル(約224億円)の「ロックされた資金」があることを明かしている。ジェネシスの説明によれば、FTXの破産申請をきっかけに、顧客たちが預けていた資金の引き出しに殺到し、これが深刻な流動性危機につながったという。
デジタル資産マーケットメーカーのDWFラブズ(DWF Labs)でマネージングパートナーを務めるアンドレイ・グラチェフ(Andrei Grachev)は「ジェネシスの破綻は時間の問題とみられるが、これは以前から懸念事項として浮上していた。同社の資産の大半は、アメリカのヘッジファンドが所有しており、市場はすでにこの問題を織り込み済みだ」と語る。
グラチェフはさらに「(ジェネシスの)破綻が、この業界全体に与える影響はそれほど大きくないかもしれないが、それでも一時代の終わりを告げる出来事となるはずだ。『ドミノ倒しの最後の1コマ』として恐れられてきたDCGが、ついに倒れることになるからだ」と付け加えた。
ジェネシスは1月5日、従業員の30%を解雇したと同社の広報担当者がInsiderに対して述べた。なかでも、営業と事業開発に関わるチームが最も大きな影響を受けたという。
また、暗号資産取引所のジェミニ(Gemini)も、有利子商品の展開のために貸し出した顧客の資金9億ドル(約1150億円)を、窮地にあるジェネシスから取り戻そうと躍起になっている。
最悪のシナリオその1:ジェネシスやその親会社であるDCGのような大手企業が破産を申請することがあれば、業界のあちこちで、多額の損失計上や会社の清算が頻発するおそれもある。
ソフトウェア開発企業エッジ&ノード(Edge & Node)の共同創業者で最高事業責任者(CBO)のティーガン・クライン(Tegan Kline)は、こう指摘する。「訴訟や破産の手続きには、これからも長い年月がかかるだろう。何しろ、2014年に起きたマウント・ゴックス(Mt.Gox)の民事再生法手続きに伴う弁済すら、いまだに完了していない状況だ。現時点で、未解決のまま残されている最大の問題は、DCG、ジェネシス、グレイスケールをめぐる状況だ。ここで何が起きるか、我々は固唾を飲んで見守っている」
最悪のシナリオその2: 2023年に入っても、FTX経営破綻の余波は続き、さらなる破産や訴訟が起きるおそれがある。ブロックチェーン関連のベンチャー企業、369キャピタル(369Capital)のパートナー、フョードル・ムーギー(Fedor Muegge)はInsiderに対し、暗号資産業界では、FTXの経営破綻や、暗号資産「テラ」と「ルナ(LUNA)」の暴落の余波は、まだ完全には収まっていないとの見方を示した。
「FTX、および同社と関連する企業のネットワークに関する真相解明は、まだ始まってもいない段階だ。この件に関するさらなる調査や、テラの件など、最近になって起きた問題についての捜査が進めば、さらなる訴訟が起こされる可能性がある」とムーギーは指摘する。
「それに加えて、長期化する下げ相場の中で、より小規模な企業が流動性の枯渇に直面し、これがさらなる企業の破綻を引き起こすおそれもある」
暗号資産のマイニング企業BTCMでチーフエコノミストを務めるヨーウェイ・ヤン(Youwei Yang)は、「さらなる市場の暴落が、(場合によっては複数回)起きれば、仮想通貨の相場は、Luna/UST/3ACやFTXショックの際よりもさらに下落し、ビットコインで1万2000ドルから1万3000ドル(約154万円から167万円)、イーサリアムで800ドルから900ドル(約10万2500円から11万5000円)まで落ち込むおそれもある」と警告する。さらにこうした事態が起きる要因として、非常に厳しいマクロ経済の状況、厳格化へと舵を切りつつある規制環境、さらにはDCGの経営破綻の可能性を挙げた。
最悪のシナリオその3:中央集権型の金融サービスを提供する企業は、これまで10%以上の利回りをうたってきたが、こうした高い利率は今後引き下げられるはずだ。というのも、2022年の暗号資産市場の動きから学べることが何かあるとすれば、それは、「あまりにおいしすぎて耳を疑いたくなる」と感じる投資案件は、おそらくその直感の通りであり、真に受けないほうがいいからだ。
中央集権型のレンディング・サービスを行っていたセルシウス(Celsius)は、預けられた暗号資産に関して、年利20%近い高利回りを顧客に提示していた。だが2022年7月、流動性の逼迫が明らかになり、その後、破産を申請している。
前述したエッジ&ニードのクラインは「中央集権型でレンディングによって利息を得るタイプの金融商品は、ドードー(17世紀に絶滅した鳥)と同じ道をたどるだろう」と述べる。
「Web3プロトコルと分散型アプリ(Dapp)を用いれば、魅力的な利回りを確保することは可能だ。具体的には、DeFi(分散型金融)サービスが挙げられる」
こうした状況の帰結として、投資家は、脱中央集権型の金融サービスや、アーベ(Aave)やコンパウンド(Compound)といったDeFiプロトコル、あるいはユニスワップ(Uniswap)のような分散型の取引所に目を向ける可能性がある。
「イーサリアムのように、ステーキング(仮想通貨を一定量保有し、ブロック生成プロセスに参加して報酬を受け取る行為)から生じる利回りを提供してネットワークを守ったプロトコルは多い。暗号資産のレンディングにまつわる今回の危機を、見事に乗り越えたDefiプロトコルも存在する」とクラインは付け加えた。