東京工業大学発のディープテックベンチャーから、社会実装に向けた新たな動きが出てきた。
従来の方法に比べて低温・低圧環境で化学肥料などの原料になる「アンモニア」を製造する小規模プラントの実用化を目指すつばめBHBが、1月10日、初の商用機の受注を発表した。
石油開発大手のINPEXが新潟県柏崎市で実施する「ブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験」の設備の一部として、プラント建設を取りまとめる第一実業へと導入することになる。
導入する設備におけるアンモニアの生産規模は年間で500トン。2022年度下期から詳細設計、設備機器の調達を開始し、2025年の8月には商業運転を始める計画だ。なお、今回の契約における受注金額は公表していない。
アンモニアの「地産地消」を目指す1歩
INPEXのプログラムの中でのアンモニア製造プラントの立ち位置。つばめBHBとしては、最終的に再エネなどを利用して製造する「グリーン水素」からアンモニアを生産したい考えだ。
画像:つばめBHB
つばめBHBは、2017年に東京工業大学の細野秀雄栄誉教授らが発見した「触媒」を起点に誕生した。
アンモニアは、化学肥料はもちろん化学繊維や半導体の材料など、現代社会を支えるさまざまな化学製品の原料として使用されている。一方で、その製造手法は、今なお約100年前に編み出された「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる、空気中から得られる窒素と、水素ガスを超高温・高圧環境で反応させる手法に頼っている。
ハーバー・ボッシュ法は効率良くアンモニアを製造することができる一方で、非常に多くのエネルギーを消費してしまうことや、大規模なプラントが必要になることから、実際にアンモニアを利用する場所までの輸送にコストがかかるという悩みを抱えていた。
そこでつばめBHBでは、細野教授らが発見した低温・低圧環境でもアンモニアを作り出せる触媒をベースに研究開発を進め、必要な場所で必要な分だけ製造する「小規模オンサイト型のアンモニア製造プラント」の開発を目指してきたわけだ。
つばめBHBは、2019年から味の素の川崎事業所内にある分室でアンモニアを年間20トン生産できるパイロットプラントを作り、実証試験を進めていた。12月にBusiness Insider Japanが取材した際には、つばめBHBの横山壽治CTOも「この12月でパイロットプラントが稼働してから3年になりますが、基本的には触媒は大丈夫だろうという話になっています」と、安定した成果が得られていると語っている。こうした実績も、INPEXのプロジェクトへの導入が決定した背景にあるといえる。
つばめBHBの中村公治執行役員。
画像:会見をキャプチャ
パイロットプラントが安定して稼働していたとはいえ、これまでの年間20トンという生産規模から、500トンへと25倍のスケールアップをする上で課題はないのか。
同社執行役員の中村公治氏は、
「つばめBHBの設立時に数万トン規模のプラントを想定していました。それに対してパイロットプラントの規模を20トンと決めていました。これは、そこから1000倍のスケールアップはできるだろうという想定で建設されたものです。その想定よりも小さい年間500トンという規模なら問題ない」
と自信を見せる。
当然、つばめBHBとしては大規模なプラントを設計するのは初めての試み。スケールアップの際に、パイロットプラントとは勝手が異なる点も出てくることは想定しているという。
ただ、同社ではエンジニアリング企業出身者やシニア人材などの確保も進んでおり、まったくの初心者がプラントを設計するわけではない。
「今までに経験したメンバーが進めていくことになるので、ベンチャーとしてもやっていけると思っています」(中村氏)
パートナー企業とも連携しながら、初のプロジェクトとして力を注いで進めていきたいとしている。
なお、同社では今回受注が決まった年間500トン規模のプラント以外にも、年間数千トン規模の大きなモデルを展開している。今回の実績を踏まえて、今後、海外展開を加速していきたい考えだ。
つばめBHBマーケティング部門の須田裕美氏は、
「特に再生可能エネルギーの競争力の高い国にフォーカスして営業を進めています。直近は、農業用肥料の地産地消の展開を目指し、2030年頃から燃料・水素キャリアにも進出したいと考えています」
と今後の展望を語った。