消費者物価指数(CPI)とは何か? —インフレを測定する重要な経済指標

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投資家は消費者物価指数(CPI)の予測を、FRBの動向を測る指標として注意深く監視している。

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  • 消費者物価指数(CPI)は、消費財やサービスで構成されたバスケットの価格変化を時間の経過とともに比較することで、インフレを測定する。
  • CPIは政府による経済政策の有効性を説明するだけでなく、経済全体にわたり金融意思決定に影響を与える。
  • CPIは幅広い人口をカバーするが、地方の消費者や一部地域は含まれず、都市部の消費者を代表する傾向が強い。

最近ニュースで良く耳にする言葉が「インフレーション(インフレ)」だ。この言葉を聞くと人々は不安になる。食料品、衣料、ガソリンのような財の価格が上昇しているとき、消費者は貨幣の購買力低下を懸念する。

インフレは経済成長の避けられない側面ではあるが、健全な経済を維持するためにインフレを測定し管理することは可能だ。だからこそ、消費者物価指数(Consumer Price Index: CPI)とは何か、そしてそれがインフレとどう関係しているのかを理解することが重要なのだ。本記事では、ニュースで毎回トピックにあがる、アメリカのCPIについて、解説していこう。

消費者物価指数(CPI)とは何か?

消費者物価指数(CPI)とは、都市部に住む消費者が一定期間に商品とサービスで構成される「市場バスケット」に支払った価格の平均変動率を測定したものである。この市場バスケットには、シリアル、牛乳、コーヒーのような食料品、住宅コスト、ガソリン、衣料品、医療、通信サービス、パーソナルケア・サービス、輸送費等が含まれる。

企業は、支出の予想や予算の立案にCPIを広く利用し、投資家はこの情報を使って要求リターンを決定し、投資判断の改善に努める。CPIはまた、政府の経済運営に役立つバロメーターにもなる。CPIの変動は、ほぼすべての人に何らかの形で影響しているのだ。

アメリカにおけるCPIに関する市場データは、四半期に1度発送される個人消費支出実態調査(CE)プログラムで収集された支出情報に基づいて策定される。これは、同国の労働省労働統計局(BLS)に代わって国勢調査局が1980年から実施している国勢調査であり、CPIの計算に必要なデータを収集する。

注:個人支出消費実態調査(CE)は2つの別々の調査で構成されている。四半期ごとに実施される面談調査と記録(diary)調査だ。四半期ごとの面談では、家計回答者に高額購入(自動車、住居)や定期支出(賃料、光熱費)の価格について質問する。記録調査では、食料品、外食費、ガソリンなどの少額購入を把握するために、回答者に日々の支出を2週間にわたって記録してもらう。

CPIの仕組みを理解する

CPIは、経済内の価格動向を示す商品とサービスで構成された一定のバスケットの平均価格変動を利用する。指数価格の上昇はインフレの定量的な測定、すなわち時間の経過に伴う貨幣の購買力の低下を表す。インフレは、消費者の購買力を損なうだけでなく、将来の貯蓄の価値を目減りさせる極めて厄介な現象だ。

CPI指数が低下するときは、時間の経過とともに消費者物価が下落し、貨幣の購買力が高まっている。これはデフレーション(デフレ)として知られる現象である。価格下落と聞くと良いことのように見えるが、デフレは近い将来景気後退に陥ることを示唆している可能性がある。

アメリカの労働省労働統計局(BLS)は毎月同国のCPIを発表しており、さらに地域別にCPIを開示している。CPIは北東部、中東部、南部、西部だけでなく、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス都市部地域について計算される。

「CPIは、平均価格水準の上昇と、賃金上昇とを比較可能にするため、世間一般の人にとって重要だ」と、シカゴにあるデポール大学(DePaul University)でファイナンスの非常勤教授を務め、新興国での投信やヘッジファンド業務のコンサルティングを行うストラトノミクス(Stratonomics)の創業者であるピーター・ウェスティン博士は語る。消費者物価の伸びが平均賃金の伸びを上回れば、実質賃金が低下していることにほかならない。消費者は稼いだお金の購買力に、インフレがどう影響しているのかを明確に理解できる。

ヒント:CPIを追跡すれば、消費者はインフレが自分の購買力にどのような影響を与えるかを理解し、それに従って資産に関する判断を下せる。

CPIの利用法

CPIはさまざまな分野で利用されているため、ほぼすべてのアメリカ人が影響を受ける。以下はその一例である。

  • 経済指標:最も広く使用されているインフレ指標として、CPIは政府による経済政策の効果を示す。CPIは企業、労働者、個人だけでなく、政府が経済的な判断を下す際の指針となる。CPIはコモディティや債券といったインフレの影響を受けやすい資産の価格変動にも影響する。アメリカでは、大統領、議会、連邦準備理事会(FRB)も、CPIの動向を踏まえて財政および金融政策を決定しているのは見逃せない。
  • 金額調整の基礎: CPIの変動に基づいて各種支払額が調整されている。例えば、CPIは社会保険料、政府支援プログラムを通じた給付金、公的年金に影響する。連邦税体系にもCPIが組み込まれている。例えば、所得税率は所得金額に応じて段階的に区分されているが、その基準となる所得金額がインフレに併せて変動する仕組みになっている。また、学校の給食費の調整にもCPIが使われている。重要なことは、賃金水準がインフレとともに上昇するように、生活費調整(COLA)を通じてCPIが賃金や給与に影響していることだ(物価スライド制)。
  • 他の経済指標のデフレーター:CPIは小売売上高、時間給および週給等他の経済指標の調整に使われている。またこうした指数をインフレ調整後、すなわち実質ベースで算出する際にも利用される。

ヒント:CPIは最も注目されている経済指標の1つであり、賃金・給与から社会保険料・政府による給付金に至るまですべてに影響する。さらに経済政策の変動の前触れにもなっている。

CPIの限界

CPIは最も重要で広く利用されている経済指標の1つだが、一定の限界もある。

計測における限界:標本誤差。CPIがインフレを過大または過小評価しているのではないか、というのは長年議論されているところである。CPIの計算はサンプル品目に基づいて行われるため、指数の母集団全体が行ったすべての支出で計算すれば、別の結果になる可能性がある。この標本誤差により精度が劣るのだ。また、この手法では、個人の支出習慣、新商品、代替品、製品の品質といったインフレとは無関係に物価水準に影響を与えうる要因を考慮できない。

計測における限界:非標本誤差。非標本誤差は、なんら誤りが起こらなくても発生しうる。このタイプの誤差が起こるのは、標本が必ずしも元の母集団全体と一致していないときだ。CPIに関しては、価格データの収集時における問題(誤回答や未回答)や実際の支出と調査実施との時差、質問内容の解釈が回答者によって分かれるといったことから生じることがある。こうした誤差は、調査結果に慢性的なバイアスを引き起こすため、アメリカの労働省労働統計局(BLS)は誤差の特定と指数の精度の改善に相当な努力を費やしている。

適用の限界。CPIはまた、都市部の消費者のみをカバーしているため、幅広い人口が考慮されておらず、計算では多くの地域や消費者を代表していない。例えば田舎の消費者は都市部の消費者とは異なる支出習慣があるだろうし、支出品目も異なる。さらにCPIは消費財のみに基づいて算出されているため、アメリカの生産や消費全体を代表しているわけではない。

CPIの計算方法

CPIでは、まず計算したい年の商品バスケット価格を計算する。この計算で出た値を、特定の基準年の同じバスケット価格で割る。この基準年とは、計算期間がスタートした年だ。

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CPIを計算するには、計算したい年の商品バスケット価格と、基準年のバスケット価格が必要だ。

Rachel Mendelson/Insider

例えば、基準年のバスケット価格が1500ドルで、基準年の指数が100だったとする。ここでは便宜上2020年を基準年だとしよう。

2021年に商品バスケット価格が1550ドルに上昇すると、

$1550/1500 = 1.0333 x 100

1.0333 X 100 = 103.3 これが2021年のCPIである。

インフレ率を計算するには、この値から1を引けば良い。

すると (1.0333 - 1)=0.0333となるため、これに100をかけるとインフレ率が年率3.33%であることがわかる。

ヒント:CPIについて詳しく知りたいなら、労働統計局が発行するマンスリー・レイバー・レビュー(Monthly Labor Review)ビヨンド・ザ・ナンバーズ(Beyond the Numbers)といった出版物を読むと良い。

2種類のCPI

インフレについてより包括的なレベルでデータを提供するために、2種類のCPIが算出されている。

CPI-W(勤労者消費者物価指数)は、都市部の賃金労働者のみを対象に算出されたものだ。これは、世帯収入の50%以上を給与所得から得ている世帯に基づく。アメリカの労働省労働統計局(BLS)では人口の30%程度をカバーしていると推測している。

CPI-U(都市部消費者物価指数)は、都市部のすべての消費者を対象としたもので、人口の70%をカバーする。CPI-Uの方が人口全体の見方を代表しているため、結果として広く利用されている。

いずれも国政調査地域や都市の規模に基づいて、さらに細分化されたデータが開示されている。

ヒント:CPIは2種類あるが、都市部の消費者を対象としたCPI–Uは人口の7割以上をカバーしており、こちらの方が包括的である。だが、地方や一部地域の消費者を十分に代表しているとは言えない。

CPIと投資

インフレ率は金融市場全体に影響を与えうるため、CPIは数多くの理由から投資家にとって重要だ。インフレ率が上昇すると債券価格が悪影響を受け、年金受給者に大きな打撃となる。インフレ上昇は株式市場にも影響する。インフレ率がFRBの目標とする2%を超えると、利上げなどの対策を講じる可能性があり景気が減速しかねない。また金利上昇下での企業経営は、コスト増や利益減、株価の下落といった痛手を伴う。だが、株式のパフォーマンスはセクターによってまちまちだ。

ウェスティン教授によると、投資家は足元のインフレ水準よりも期待インフレ率を心配する。例えば、インフレ見通しが悪化すれば、投資家はインフレが保有資産にプラスになるようポートフォリオを入れ替えるだろう。

過去を振り返ってみると、インフレが上昇する時にはエネルギー、不動産、生活必需品が好調に推移する傾向がある一方、ハイテク株や素材セクターは低迷しがちだ。だが、最も重要なことは、FRBの政策を示唆する指標として、投資家がCPIの予測に注目しているということだ。

インフレ見通しはまた、投資家が要求利回りを決めるうえでの重要な検討事項である。インフレは時間とともに貨幣の購買力を奪っていくため、要求投資利回りにインフレ率を加味しなければならない。投資期間が長いほど、インフレ見通しは重要になる。

投資やポートフォリオのリターンは名目リターンであり、インフレ調整前の数値だ。インフレ調整後の実質リターンを計算するには、名目リターンからCPI(インフレ率)を引けばよい。投資家の要求利回りはいつでも、投資価値に対するインフレの影響を加味した後の実質リターンでなければならない。

結論

CPIは、人生において、お金に関するさまざまな側面に重要な影響を与える。新しく職を探す、あるいは賃上げ交渉をする場合には、インフレ率を把握しておくことが大事だ。CPIに基づく賃金の物価スライド制を要求すれば、購買力の低下を避けられるだろう。

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