南極で「血の滝」が発生するメカニズムを科学者が解明

南極大陸のテイラー氷河の末端からボニー湖にしみ出す「血の滝」。2006年11月26日撮影。

南極大陸のテイラー氷河の末端からボニー湖にしみ出す「血の滝」。2006年11月26日撮影。

National Science Foundation/Peter Rejcek

  • 「血の滝」とは、南極大陸のテイラー氷河からにじみ出る鮮やかな赤色の水の滝のことをいう。
  • その独特の色は、氷からしみ出た鉄塩が酸素に触れて赤くなることによる。
  • この滝には、光も酸素もない極限状態を生き抜く微生物が生息している。

南極の大きな氷河では、氷からにじみ出るように真っ赤な川ができ、「血の滝」と名付けられている。南極大陸のテイラー氷河からボニー湖へ、なぜ赤みがかった水が流れ出るのか、科学者たちは何十年も頭を悩ませてきた

「血の滝」とは、その珍しい色から名づけられた。

「血の滝」とは、その珍しい色から名づけられた。

Mark Ralston/AP


この現象は、1911年に地質学者グリフィス・テイラー(Griffith Taylor)によって初めて発見された。当時は、水中に生息する紅藻類がこの鮮やかな赤い色の原因だと考えられていた

近くから見ると、氷河から海水が流れ出ているのが分かる。

近くから見ると、氷河から海水が流れ出ているのが分かる。

Peter West / NSF

Sources: National Science Foundation, University of Alaska Fairbanks


それから100年以上が経ち、科学者たちは血の滝の原因を突き止めた。氷からしみ出した鉄塩が空気に触れると赤くなるのだ

南極マクマード基地付近の「血の滝」とテイラー氷河。2016年11月11日撮影。

南極マクマード基地付近の「血の滝」とテイラー氷河。2016年11月11日撮影。

Mark Ralston/AP


2017年の研究で、テイラー氷河がおよそ200万年前に形成され、その下に塩水の湖が閉じ込められたことが明らかになった。その後、古代の湖は氷河の端に達し、塩水をしみ出させるようになったのだ

テイラー氷河がボニー湖に接する場所に、「血の滝」の鮮やかなオレンジ色が見える。

テイラー氷河がボニー湖に接する場所に、「血の滝」の鮮やかなオレンジ色が見える。

Hassan Basagic/Getty Images

Source: Cambridge University Press


2015年の研究では、氷透過型レーダーを用い、氷河の割れ目から流れる川のネットワークが発見された。つまり、極寒の氷河の内部に液体の水が存在しうるということだ

アメリカ航空宇宙局(NASA)の衛星テラが撮影した「血の滝」とその周辺の様子。

アメリカ航空宇宙局(NASA)の衛星テラが撮影した「血の滝」とその周辺の様子。

Jesse Allen/NASA/GSFC/METI/ERSDAC/JAROS/U.S./Japan ASTER Science Team

Source: Nature Communications


「意外かもしれないが、水は凍る時に熱を放出し、その熱は周囲の冷たい氷を温める」と、アラスカ大学フェアバンクス校の氷河学者で、2017年の研究の共同執筆者であるエリン・ペティット(Erin Pettit)はプレスリリースで述べている。「この熱と、塩分を含んだ水の凝固点が低いことにより、液体のまま流れ出ることが可能になる。テイラー氷河は、現在知られている持続的な水の流れのある氷河の中で、最も冷たい氷河だ」

「血の滝」でテイラー氷河に関するレーダーデータを収集する研究者。

「血の滝」でテイラー氷河に関するレーダーデータを収集する研究者。

Erin Pettit

Source: University of Alaska Fairbanks


2009年の研究では、この氷底湖には、光も酸素もない極限状態を生き抜くことができるユニークな微生物群が生息していることが判明した。光も酸素もない極限状態を生き抜くために、鉄と硫酸塩を利用しているのだ

微生物群が生存する仕組みを説明した「血の滝」の断面図。

微生物群が生存する仕組みを説明した「血の滝」の断面図。

Zina Deretsky / NSF

Source: Science


約200万年前に氷河の下に閉じ込められた湖は、微生物で満ちていたと研究者は考えている

「血の滝」とは、その燃えるような赤い色合いから名づけられた。

「血の滝」とは、その燃えるような赤い色合いから名づけられた。

Erin Pettit


微生物学者で、2009年の研究の筆頭筆者であるジル・ミクッキ(Jill Mikucki)は、「ここでの大きな疑問は『氷河の下で生態系はどのように機能しているのか』『いかにして数百メートルもの厚さの氷の下の、常に冷たく暗い環境で、長年にわたって(血の滝の場合は200万年以上)生きていけるのだろうか?』ということだ」とプレスリリースで述べている

ボニー湖と「血の滝」。

ボニー湖と「血の滝」。

Peter West / NSF

Source: National Science Foundation


科学者たちは、これらの微生物の研究が宇宙生物学も発展させると考えている。同じような凍った水のある別の世界、例えば地球の隣人ともいえる火星などで、生命がどのように生存できるかということに光を当てることができるだろう

火星は両極が「極冠」で覆われている。写真は北極の極冠。

火星は両極が「極冠」で覆われている。写真は北極の極冠。

NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems

Sources: Cambridge University Press, Nature Communications

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