ニューヨークのゴールドマン・サックス本社に出勤する社員たち。
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ゴールドマン・サックスは2023年1月10日から、過去10年で最も厳しい人員整理を始めている。SNS上には首を切られた多くの従業員たちが群がり、失業を嘆きながらも新たな職探しをしている。
今回の解雇は、全体の6.5%に相当する3200人もの従業員を失業に追い込んだ。LinkedInや今回の解雇に詳しい人々からの情報によると、今回の人員整理の対象となった事務所はダラスからニューヨーク、ソルトレイクシティやシカゴにまで及ぶ。
影響を受けた事業部門も広範にわたり、投資金融、人事、テクノロジーなどの部門、同社で問題視され今年までステファニー・コーエン(Stephanie Cohen)とタッカー・ヨーク(Tucker York)が共同部門長を務めていたコンシューマー・バンキング部門も含まれる。
今回の人員削減は、株式・債券の引受業務やM&Aの顧問業務といったウォール街の中核を成すビジネスが枯渇し、業界全体で収益が激減している状況が背景としてある。それに加え、1月16日の週に第4四半期決算報告を控えるゴールドマン・サックスにとっては、新たな試みとして始めたコンシューマー・バンキング業務で数十億の損失を出したという問題もある。
期待に見合う成果を上げていなかった同部門は、11日の解雇で特に大きな打撃を受けたと内部関係者たちは明かす。
内部関係者らの話では、消費者融資の部署で数百人が解雇されたという。他のコンシューマー・バンキング業務ではその外にもマーケティングや預金のチームが人員整理されている。消費者融資の部署から解雇されたある従業員は、「私のチームには25人いて10人が解雇されましたが、そのすべては部長クラスより下の人たちでした」と述べている。
「私たちは今日が『最後の審判の日』だと突然告げられ、今朝から解雇の話が耳に入ってき始めたのです。10分おきに誰かが解雇された話が聞こえてきました」(コンシューマー・バンキング部門担当者)
ゴールドマン・サックス広報担当のトニー・フラット(Tony Fratto)は次のように述べる。
「当社を去る人々にとって、これが厳しい時期であることは承知しています。当社は全従業員の貢献には感謝しており、彼らが次の道へ進みやすいよう支援しています。当社が現在注力しているのは、マクロ経済環境の悪化が予想されるなか、目の前のビジネス機会に合わせて企業規模を適切なものにすることです」
ニューヨーク市ウエストストリート200番地にあるゴールドマン・サックス本社ビルから11日の朝に出てきたある女性は、自分も同社の消費者金融業務から解雇されたと語ったが、今回の解雇に巻き込まれたことには驚いていないと言う。ただ彼女が問題視するのは、「非常に忙しい1年」であったにもかかわらず、ボーナスを受け取っていないことだ。
匿名を条件に取材に応じたその女性は、次のように語る。
「あり得ないほどの時間を費やしてきました。激烈に忙しく、要求レベルの高い環境です。これは体のいい厄介払いのようなものなのでしょうね」
「余剰人員」の削減
今回の解雇は、M&A(合併買収)やIPO(新規株式公開)、さらにはリスクの高いSPAC(特別目的買収会社)などのブームに対応しようとコロナの時期に人員を増やし過ぎたゴールドマン・サックスが、ここ数カ月で実施した2度目の人員削減だ。
2022年10月にリストラ計画を発表したゴールドマン・サックスのデビッド・ソロモンCEO。
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最初の削減は、2023年、コロナ禍で一時中断していた年次評価のプロセスが復活し、その評価で業績が低い者のみを対象としたものだった。しかし、今回の人員削減の標的は業績の低い者だけではない。第3四半期にデビッド・ソロモン(David Solomon)CEOが打ち出したリストラ計画に従い、膨れ上がった経費を削減することが狙いだと、同社の計画をよく知る人物は言う。
11日に解雇されたある部門長は、自身が削減人員に含まれていたことに「少しショックを受けた」と言う。「年次審査では非常に良い評価を受けていたので、思いもよらないことでした」
部門長であった彼女は、上司であるマネージング・ディレクターから「話がある」というメールを受け取った後にこれを知らされた。上司はZoomで、「部門統合による人員削減、経費節約、余剰性排除など、原稿にある通りのことを伝えてきました」という。
この女性によれば、会社は解雇した従業員に、最低60日分の解雇手当と勤続年数に応じた追加報酬を提示しているという。解雇された他の従業員たちも、11日に2〜3カ月分の解雇手当を提示されたと言っている。影響を被る従業員に対してゴールドマン・サックスが解雇前に行う事前通告は州や連邦の労働法によって異なり、通常は60〜90日だ。
ゴールドマン・サックスの従業員数は近年急増しており、2022年9月末時点で、ソロモンがCEOに就任した2018年から34%増の4万9100人にまで膨れ上がっていた。フィナンシャルタイムズによると、同社は人員整理だけでなく、プライベートジェット機の見直しなど、金融危機以来で最大規模となるコスト削減を進めているという。
ソロモンは、2023年2月末に予定されている同社2回目の投資家向けイベントを前に、コスト削減のプレッシャーにさらされている。1月中旬に従業員に通知されるボーナスも全社的な減額が予定されており、好業績のチームも例外ではない。これまでに内部関係者が報告しているように、低いボーナスと解雇とが相まって社内には険悪なムードが漂っており、離職を決めている者もいるという。
解雇された前述の部門長は、昨年12月に解雇の噂が流れて以来、「不安が高まり仕事が手につかない空気が漂っていました」という。
「士気が下がっていました。会社はもっと静かに、淡々とやるべきだったんです。ボーナスの1週間前などという時期ではなくね」
前述のコンシューマー・バンキング業務から解雇された担当者も、解雇通告のやり方には不満を漏らしている。ゴールマン・サックスは2022年10月にリストラ計画を発表して以来、悪いニュースを小出しに流し続けてきたが、これがコンシューマー・バンキング部門のやる気を劇的に削いでいったという。
「1カ月あまりも前から何かが起きていることは分かっていましたが、会社からは何の情報も降りてきませんでした。全体的にコミュニケーションが著しく不足しています」と彼女は言う。また、昨年12月末にソロモンCEOが年末恒例の従業員向けメッセージで人員削減について公表するまでこのようなことが現実のものになるとは一度も伝えられておらず、従業員はみんなハラハラし通しだったとも明かす。
「まさにゴールドマン・サックスに対して抱く典型的なイメージそのものです。みんなこれまで他の職で経験してきた以上に働いています。すべてはお金のためにね」