撮影:Business Insider Japan
1月8日まで米ラスベガスで開催されたCESのレポートの最後に、現地会場で2023年のブース展示のトレンドを代表するキーワードについて、1つまとめておきたい。
ラスベガス中心部の複数の巨大会場を展示エリアとするCES。その中でも、世界的に知られるグローバル企業の出展が多いのがラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)周辺の「セントラルホール」「ウェストホール」エリアだ。
LVCCのグローバル企業ブースを中心に、各社の明確なブランドの意志を感じたのが、「気候変動」「サステナビリティー」「省エネ」への具体的アクションをブース面積を割いて示すことだった。2000年代前半からCESはほぼ毎年取材してきたが、ここまで前面に打ち出す企業が目立った年は近年記憶にない。
もちろん、これまでもグローバル企業が地球環境への社会的責任を表明する展示はあった。ただ、今年の注力ぶりをみると、地球環境に対してどういった責任ある行動を取るのか、ビジネスと両立していくのかは、もはやグローバルで「選ばれる企業」であるための絶対条件だと認識していることが感じられる。
ここで挙げた企業ほどではないにしても、例えば自動車関係ではEV関連技術やEV車両そのものの展示は多いし、水資源にまつわるスタートアップ展示などもあった。改めて、自社のビジネスと地球環境へのアクションが表裏一体に問われる時代だと意識させられる。
パナソニック:ブースをカーペットレスに、環境配慮型の出展
パナソニックブース。カーペットを排除した出展をしているのは珍しい。
撮影:Business Insider Japan
CESに長年出展し続けているパナソニックは、CES開会に先立った1月4日のプレスカンファレンスで「Panasonic GREEN IMPACT」を前面に押し出したプレゼンテーションを披露した。
45分間ほどの会見のうち、冒頭から約半分はGREEN IMPACTに密接にかかわる取り組みについて語られた。その中にはカンザス州デ・ソトで2025年3月までに新設・生産するリチウムイオン電池工場について、2030年までにCO2排出を実質ゼロに削減することなどを含んでいる。
カンザス州デ・ソトに新設するリチウムイオン電池工場。
撮影:Business Insider Japan
カンファレンスでGREEN IMPACTについて語る様子。右はパナソニックの技術トップ、小川立夫CTO。
撮影:Business Insider Japan
CESなどアメリカの展示会では分厚いカーペットを敷くのが一般的な風景だ。今回、ブース設営エリア内のカーペット施工をなくして、展示自体も竹を使用したバックボードやリサイクル素材を多用することで、カーボンフットプリントを大幅に削減したという。
展示は例年どおりB2B向けのソリューションが多いが、再生可能エネルギーへの意識の高まりの点で興味深かったのはガラス一体型の透過型ソーラーパネル。
写真では判別しづらいが、中央が40%透過、左が20%透過。建材一体型のソーラーパネルになっている。
撮影:Business Insider Japan
簡単に言うと、ガラス表面に太陽光発電ができる回路をインクジェットコーティングで構築している(ペロブスカイト太陽電池を利用)。太陽電池として機能する部分のプリントの密度を調整することで、ブラインドのようにガラスの向こう側が透けて見えるようになる。印刷の荒さを変えることで、透過度を変えることができる。
建物に設置するソーラーパネルは屋根の上に取り付けるイメージが強いものの、「高層ビルというのは、(窓の面積の多さに比べて)屋根がほとんどありません」(展示担当者)。この技術では、都市部の高層オフィスビルなどの窓に採用することを狙って、実用化を目指しているという。
企業やビル会社も「再生可能エネルギーにどれだけ代替できるか」で選ばれる時代が始まりつつある。その点でニーズの高さを感じる参考出展だ。
サムスン:「SmartThings」で脱炭素なコネクテッドホームを訴求
サムスンブースの顔になる大画面のウォール。SmartThingsを前面に押し出した表示になっている。
撮影:Business Insider Japan
サムスンのブースは、2014年に買収したIoTプラットフォーム「SmartThings」の展示に大部分が割かれていた。
従来、IoT家電によって実現されるコネクテッドホームは、「ネット経由で統合制御できて利便性が高まる」あるいは「Amazon AlexaやGoogle Home対応」という、利便性の文脈で扱われることが多かった。
SmartThings対応機器をずらりと並べた。
撮影:Business Insider Japan
SmartThings Energyの仕組みを使い、ネットゼロホームを実現する訴求。
撮影:Business Insider Japan
SmartThingsのCES2023の展示では、そのエコシステム(対応機器)の広さを端的にアピールしつつ、家庭のエネルギーを管理する「SmartThings Energy」の世界観も展示していた。その一面として「Net Zero Home」を提案。家庭内の電力消費を最適化できるテクノロジーであることをアピールしていた。
また、最新のスマートホーム規格「Matter」対応のハブもCESに合わせて発表。スマートホーム領域のさらなる広がりもキャッチアップしている。
スマートホームの標準規格Matterに対応したSmartThingsのハブ「SmartThings Station」も発表。
撮影:Business Insider Japan
ブース内の複数エリアにまたがる形で「Sustainability」の大きな文字看板を掲げていたのも印象的だった。サムスンもまた、CES2023展示の中での持続可能性や気候変動へのアクションはブランドの中核に据えた。
ブース上部に大きくSustainabilityの文字を掲げていた。
撮影:Business Insider Japan
LG:製品開発から回収までの環境アクションを展示
LGブースの正面を彩ったディスプレイウォール。
撮影:Business Insider Japan
LGは、ブース内の一角をサステナビリティエリアに設定。企業としてのサステナビリティへの取り組みについては、1〜6のステップで「何をやっていくのか」を具体的に示している。
LGが掲げた、製品開発サイクル全体でサステナブル配慮を目指す「サステナブルサイクル」。
撮影:Business Insider Japan
- リサイクル:電子ゴミ(e-waste)からの再生プラの使用増 2030年までの累積で60万トン
- R&D(研究開発):開発の初期段階からサステナビリティを考慮する
- サービス:すべてのサービス車両を2030年までにEVか水素燃料に(ただし韓国内のみ)
などといったように、数値目標を提示している。もちろん、こうした目標提示の例は他社でも見られる。ただ、一定の面積を割いて説明したところに、時代の変化が感じられる。
撮影:Business Insider Japan
LGの展示で興味深いのは、サステナビリティアクションに関する、各国の関係者をバイネームで掲示したところだ。実際に手を動かしている従業員や、支持している従業員の顔を見せる、という点では企業のコミットを感じさせる展示スタイルといえる。
SK:大規模なブースでグループ8社が「カーボンフリー」技術を展示
撮影:Business Insider Japan
エネルギー、通信事業などを手がける韓国大手SKグループのブースも印象的だった。「Together in Action」を掲げて、全面的にカーボンフリーにまつわる展示やプレゼンテーションで埋め尽くしていた。
同社の出展説明によると、ブース参加した企業はSKのグループ企業8社と、グローバルパートナー10社。
この大きなウォールは印刷ではなく、巨大なディスプレイを使ったデジタルサイネージ。来場者の目を引いていた。
撮影:Business Insider Japan
最先端のバッテリー技術から、低消費電力化した半導体メモリーチップ、通信系のグループ企業が展示する「人が乗れるドローン」のようなアーバン・エア・モビリティまで幅広い分野の展示だが、すべて脱炭素にかかわる点がポイントだ。
撮影:Business Insider Japan
ほぼすべてがB2B向け展示ながら、足を止めて展示を見る人が多く賑わっていた。この分野への関心の高さを感じさせる。
TERAONの「ナノカーボン加熱フィルム」。
撮影:Business Insider Japan
上の写真はSKグループの半導体関連企業SKシルトロンが買収したナノカーボン材料のスタートアップ、TERAONの「ナノカーボン加熱フィルム」。高い柔軟性と250度以上の高温で連続使用できる特徴があり、EVや建築などに応用して暖房電力の削減などが期待できるという。
屋外のフードトラックでは、同じくSKのグループがつくった代替乳タンパクを使ったスイーツなどの試食もあった。これも、「脱炭素」にかかわる出展になっている。
撮影:Business Insider Japan