メタは中核事業である広告ビジネスの立て直しを急ぐ。
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メタは、アップルが2021年に個人情報保護規制を強化したことでオンライン広告のターゲティングと計測が困難となり、2022年には100億ドル(約1兆3000億円、1ドル=130円換算)の広告収入を失った。
このことを受けて、メタは広告ビジネスの立て直しを図ってきた。一部の広告主は、この再建が功を奏し始めていると話す。現在では性能の向上が見られており、メタは2023年、より多くの予算をFacebook事業に投じる予定だ。
AIに活路見出す
代理店・会員制組織フォックスウェルデジタル(Foxwell Digital)の共同創業者であるアンドリュー・フォックスウェル(Andrew Foxwell)は、メタの広告主は数年前メタに投入していた広告予算の20〜30%をティックトック(TikTok)に試験的に回したが、メタの広告商品の業績改善もあり、現在はその予算をメタに戻したと見ている。
メタはこのところAIに投資している。自社のプラットフォームで広告を見たユーザーが、広告主の商品を購入したりウェブサイトを訪問したりといった行動を起こしたことを広告主に証明するためだ。
その成果がメタの広告提供に、ようやく目に見える形で現れ始めたのだ。例えばメタは2022年11月、プライバシーへの懸念の高まりを理由に、2020年にいったん廃止された「28日間に設定されたアトリビューションウィンドウ」という重要な指標を復活させた。今回の再導入は、メタがモデリングと機械学習ツールを改良したことにより実現した。
この指標は、広告を見てから28日以内に何人が行動を起こしたかを広告主に示すものだ。広告の効率性を判断できることから、メディア戦略の専門家であるエリック・スーファート(Eric Seufert)はこの機能を「Eコマース広告主にとってのゴールドスタンダード」と呼んでいる。
もう一つの例は、最近リリースされた「アドバンテージ+(Advantage+)」という機能で、メタのAIを利用して広告に関連するオーディエンスを見つけるというものである。
Eコマース広告代理店ネスト(Nest)の調べによれば、2022年のブラックフライデーの期間、メタのクライアントのコンバージョン率(広告キャンペーンの成果を示す指標)は、前年同期比で47%上昇したという。ネストの最高収益責任者であるルーク・ジョナス(Luke Jonas)は、このコンバージョン率の上昇の一因は、メタが2022年に行った広告プラットフォームの改善にあると話す。
メタは広告機能を向上させるため、今後もAIに資金を注ぎ続けるだろう。匿名を条件にInsiderの取材に応じたあるメタの広告営業担当幹部は、メタバースがニュースの見出しを飾る一方で、2023年に見込まれる300億ドル(約3兆9000億円)超の設備投資の大部分はAIに向けられていると明かす。
TikTokでは限界がある
TikTokはこれまで、広告料がより安価であること、ユーザーが若年層であることを売りにして広告主を惹きつけてきた。だが、一部の広告主はTikTokに広告費用を振り向けたものの、その後はメタに戻ってきている。D2CやEコマースの広告バイヤーは、コアなFacebookやInstagramのほうが顧客を獲得しやすいと回答している。
「新規顧客の獲得に関して、メタほどの規模を持つチャネルはまだ他に存在しません」(フォックスウェル)
広告予算が徐々にメタに戻ってきているもう一つの理由は、TikTokユーザーに響く動画広告を制作するのは至難の業だと、広告主が気づきつつあるからだ。
「TikTokのほうがクリエイティブの賞味期限が切れるのが早いように感じる」と話すのは、紳士服のD2Cブランドであるトゥルー・クラシック(True Classic)のベン・ヤハロム(Ben Yahalom)社長だ。
トゥルー・クラシックは広告予算の50〜80%をメタに振り向けているが、TikTokの広告にも投じている。ヤハロムは「TikTokのほうが必要とされるコンテンツも多いし、回転も早い」と言う。
2023年に入ってメタに対する期待は上向いているものの、同社はまだ危機を脱してはいない。2023年もメタには厳しい年になると予測する専門家もいる。メタの中核アプリであるFacebookにとっては特にそうだ。
市場調査会社のアリートリサーチ(Arete Research)のアナリストは、2023年のFacebook事業の年間広告収入は6%減の724億ドル(約9兆4000億円)、Instagramの広告収入は2%増の360億ドル(約4兆7000億円)になると予想している。メタは、2022年第3四半期のデイリーアクティブユーザー(DAU)数が平均19.8億人(前年同期比3%増)となったと発表した。
競争環境も激化している。メタは現在、TikTokだけでなく、アップルや新たなリテールメディア(小売店が運営するオンライン上の広告媒体)、ストリーミング配信事業者などともガチンコ対決をしている。また、2023年上期のマクロ経済環境は引き続き厳しいものとなると多くの業界関係者が予想している。メタの広告部門は責任者が交代してまだ日が浅いうえ、メタは全社的に大規模なレイオフのさなかだ。
なお、本稿の内容についてメタの広報担当者にコメントを求めたが回答は得られなかった。