グーグルも組織が巨大化し、スピード感が鈍っているという。
Reuters/Beck Diefenbach
グーグル(Google)は、いまや従業員数18万6000人を超える巨大企業へと成長した。だが多くの社員、さらにはCEOまでもが、同社はあまりにも動きが鈍く、官僚的で、生産性が低いと不満の声が上がっている。
こうした症状は成長する企業にはつきものだが、アルファベット(Alphabet)傘下のグーグルがなぜことさら「調整の逆風」に直面しているのかを知るうえで、今も社員の間で出回るあるベテランの元社員が書いた内部文書がヒントになるかもしれない。
「グーグルの組織は“粘菌”のようなもの」
この内部文書を書いたのは、グーグルの元プログラムマネジャーで、ChromeやGoogle Mapsなどのプロダクトに携わったアレックス・コモロスク(Alex Komoroske)だ。コモロスクは次のように記している。
「グーグルは世界規模の問題に取り組むために迅速に動くことを誇りにしている会社だ。しかし近頃ではめっきり動きが遅くなったと感じる。単純そうなことすら完遂させるのに死ぬほど時間がかかる」
Insiderは「なぜグーグルでは何もかもが大変なのか(Why everything is so darn hard at Google)」と題されたこのプレゼンを閲覧する機会を得た。そこには、近年グーグルの動きが劇的に鈍くなったのは企業規模とボトムアップの組織構造が原因だと記されている。コモロスクは、諸悪の根源は彼が「隠れた力(the hidden force)」と呼ぶものにあると考えている。
コモロスクは、グーグルのボトムアップの組織構造を“粘菌”に例えている。粘菌は独立して働くこともできるが、集まって大きなネットワークを形成することもできる単一細胞生物だ。
「グーグルは基本的に粘菌だ」とコモロスクは記しており、企業をトップダウン型からボトムアップ型まで並べてみたときに、グーグルはボトムアップ型の最端に位置しているのが特徴だと述べている。
「これは我々のカルチャーの基本的な部分であり、雇用と昇進のプロセスがそれを強化している。曖昧さの中で成長し、独立性と自発性に報いるのだ」
またコモロスクは、TGIFと呼ばれる週次の全社集会で創業者に質問をしたり、グーグルの社内サイトであるミームジェン(Memegen)でミームを作ったりすることも、このカルチャーの一部を成しているとしている。
粘菌はパーツの総和以上の価値を生み出すことで「驚くべきことができる」ものの、このタイプの組織が大きくなればなるほど多くのパーツが独立して動作するため、プロセスが遅くなり、「予測が困難」で制御が難しい「混乱した」動作につながる可能性がある、とコモロスクは分析している。
「よくあること」と無視してはならない
コモロスクがこのプレゼンテーションを作成した時期は定かではない。LinkedInのページによると、コモロスクは2008年にフルタイム勤務でグーグルに入社し、2021年7月に退職している。内部文書の最終更新は2019年になっている。
企業の規模が大きくなるにつれて動きが鈍くなるのはよくあることだ。コモロスクはその後プレゼン内容を一般化して自身のブログで公開し、この理論は大きく成長する多くの企業に適用できると説明している。
「こういったことは特定の状況に特化したものではなく、深い関心を持つ自律的な個々人が存在する場合には、つねに本質的に現れる類のものだと私は考えている。こうしたダイナミクスを無視せず、思いやりと寛容さをもって認め、受け入れることが重要だと考えている」(コモロスクのブログより)
コモロスクは、この問題に簡単な解決策はないとしながらも、企業が無視してはならない問題だと記している。
グーグルの肥大化と官僚主義に対しては、かねてより社内で懸念されてきた。ニューヨーク・タイムズが以前報じたところによると、2018年にはグーグルの十数人の副社長がサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOにメールを送り、技術的な意思決定をする際の問題など、同社に成長痛の症状が現れていると警告した。
グーグルはメタ(Meta)やアマゾン(Amazon)と同じく、ここ数年は採用活動を積極的に行ってきた。グーグルが提出した書類によれば、2022年1〜9月までに3万人を新規採用しており、総従業員数は18万6779人に達している。
だが、アルファベットは現在、コスト削減モードに入っていると見られる。2022年には採用ペースを落としたほか、コストがかさむプロジェクトを削減できる分野に狙いを定め、子会社に所属する一部スタッフのレイオフにも踏み切っている。