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年明け、3年ぶりの海外出張で愕然。日本のインバウンド回復「このままでは無理」と感じた3つの理由

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外貨獲得能力の劣化が懸念される日本にとって、インバウンド需要の取り込みは経済の先行きを左右する大きな課題だ(画像は2022年秋、台東区・浅草寺境内)。

REUTERS/Issei Kato

年明け早々、パンデミック発生以来初めての海外出張(韓国)に出た。実に3年ぶりとなる今回の出張で筆者が感じたのは、日本の水際対策の異様さだった。

日本政府は2022年10月、厳格な入国制限から「鎖国政策」などと揶揄されてきた水際対策を大幅緩和したものの、規制はまだ残っている。

現状、日本に入国するためには「ワクチン3回接種」か「72時間以内の陰性証明書」が必要だ。

したがって、例えばワクチンを2回しか接種していない日本人が出張に出かけ、72時間以内の短期で帰国する場合、出国時に再入国(帰国)のためのPCR検査をするという奇妙な手続きが必要になる。

72時間を超える出張なら当然、現地でPCR検査を受けなくてはならない。陽性判定の場合はもちろん帰国できない。

こうした入国規制のあり方は、世界的にもマイノリティになりつつある。

最近ではタイ政府が中国からの入国者を念頭に(しかし全世界に対して)、ワクチン接種条件など入国規制の復活を示唆したが、現地で猛反発を受けて撤回を強いられている。

今回筆者が訪れた韓国でも、検疫情報を事前にオンライン入力する必要はあるものの、至って簡素なもので、ワクチン接種状況の入力や陰性証明書は不要だった。検疫情報も入力後はQRコードでタッチするだけで良く、日本のように人海戦術で目視を受ける手続きは必要ない。

なお、日本旅行業協会(JATA)の高橋広行会長は1月10日に開いた年頭の会見で、今も残る水際対策について「グローバルスタンダードに合わせるべきだ」「(訪日客数の)回復の足かせ」と指摘し、撤廃を求めていく考えを示している。

「中国抜き」ならなおのこと…

日本のインバウンド需要回復に向けて頭痛のタネとなっていた中国のゼロコロナ政策は2022年12月に大幅緩和され事実上終了した。しかし、直後に同国で感染爆発が始まったことを背景に、日本はひときわ厳しい入国規制(中国への渡航歴がある者や直行便での入国者に対する入国時検査など)を再導入した。

中国に対するこうした措置は日本固有のものではなく、国際的な潮流に沿ったものだ。

ただ、日本にとってこの「中国抜き」の判断は、期待されるインバウンド需要の3割を欠く状態が今後も続くことを意味する。外貨獲得能力の劣化が懸念される日本にとっては重い足かせとなる。

そのような厳しい状況でも、インバウンド需要を最大限喚起しようと思えば、前節で触れたようなグローバルスタンダードに沿わない入国規制は撤廃するしかない。

日本政府が水際対策を緩和してから、期待も含めてインバウンドの回復ぶりを報じる記事や番組がいくつも出ているが、本当にその勢いが試されるのは、需要がピークを迎える春夏(4~7月)期だ【図表1】。

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【図表1】訪日外国人数の月次推移(2017〜19年)。

出所:政府観光局資料より筆者作成

1~2月に見込まれていた中国の春節(旧正月)需要の取り込みが、先述のような昨今の感染爆発により難しくなった以上、4~7月期の数字は日本の旅行収支、ひいては経常収支に大きく響くことになる。(旅行に伴う外貨の支払いや交換など)需給を通じた円相場への影響については言うまでもない。

コロナ前の最盛期、年間3200万人のインバウンドが訪れていた2019年の旅行収支はネット(収支)ベースで約2.7兆円、グロス(受取)で5.0兆円の黒字だった。

毎年15〜20兆円を稼いでいた経常黒字が、直近は10数兆円(2022年1~11月は11.4兆円)まで圧縮されたことを踏まえると、旅行収支はもはや日本経済にとって無視できない存在だ。

インバウンド復活を阻む「三つの壁」

しかし、現状分かっている情報を総合すると、インバウンドが最盛期の水準に近づくのは相当難しいように思われる。

その理由は、以下の三つのポイントにまとめられる。

  1. インバウンドの受け皿となる産業が圧倒的に人手不足
  2. 世界的な景気後退の懸念を背景に、旅行需要も縮小が見込まれる
  3. インバウンド需要の3割を占める中国に対して入国規制を敷いている

3は、日本側が導入した入国規制に対し、中国側から報復措置が発表されるに至っており、早期に需要回復に至る可能性は高くない。

2も、多くの説明は必要ないだろう。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は1月1日、米CBSテレビのニュース番組に出演して、「世界の多くにとって、今年はこれまでよりも厳しい年になりそうだ」と見通しを語るなど、2023年の世界経済が旅行需要を押し上げるほどの消費・投資意欲に満ちているかどうかは相当に怪しい。

もっとも、2と3は景気循環や当事国の施策次第で、時間が経てば解決する可能性はある。

しかし、1だけは日本が抱える構造的な問題だ。下の【図表2】を見てほしい。

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【図表2】雇用人員判断DI(Diffusion Index)の推移。

出所:日本銀行資料より筆者作成

インバウンド需要を首尾よく取り込むためには、充実した宿泊・飲食サービス業という「受け皿」が必要になる。

ところが、日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)における宿泊・飲食サービス業の雇用人員判断DI(雇用人員の過不足を数値化したもの)を見ると、12月時点でマイナス53と、全産業のそれ(マイナス31)を大きく下回っている。

また、同じ雇用人員判断DIの3カ月後見通しについては、全産業のマイナス33に対し、宿泊・飲食サービス業はマイナス68と大幅悪化が予想されている。

メディア報道からは具体的な実情も読み取れる。

例えば、日本経済新聞は「人手不足のニセコ『満室は諦めた』 稼働率抑えて冬営業」と題して(2022年12月5日付)、スノーリゾートとして世界的にも著名な北海道ニセコ町の深刻な人手不足を報じている。

現地のホテルの中には「良質なもてなしをするには人手が足りない」状況を踏まえ、満室経営を放棄してあえて稼働率を落としているところもあるという。

飲食や宿泊は外国人スタッフの割合が多い産業として知られるが、2022年に進んだ記録的円安の影響で、日本で働くことに魅力を感じなくなった労働者が増えている実情もある。

上の記事でも、地元観光団体から「日本では現地通貨ベースでの実入りが少ないため、思うように外国人労働者を集められていない可能性が高い」との指摘が出ている。

1年間で最大30%もの(対ドル)価値が失われる通貨(円)を得ようと、わざわざ海を越えて出稼ぎする合理性はない。

ドル円相場は年末年始に130円前後まで値を戻したものの、この外国人労働者にとっての実入りの問題は、根本的には解決されていないと考えるべきだろう。

下の【図表3】から一目瞭然のように、貿易量や物価水準を踏まえて算出された「通貨の実力」を示す実質実効為替相場(REER)に注目すると、ほぼ半世紀ぶりの円安水準に変化はいまだ見られない

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【図表3】円の実質実効為替相場の推移と長期平均(20年、黒太線)。

出所:国際決済銀行(BIS)資料より筆者作成

出稼ぎの目的地として日本が最適なのかという問題意識を抱く外国人労働者が多いのは、この数字を見ると至極当然なのだ。

「旅行収支」をもっと大事に

人手不足の根本的な要因は、日本の抱える人口動態という非常に大きな問題であり、それ自体は早期の解消が難しい。しかし、外国人労働者の不足に限って言えば、円安や入国規制の影響が大きい。

円安は相場現象であり、政府と中央銀行が望むようなコントロールは難しい。一方、入国規制は時の政権の意思で迅速な修正が可能だ。

日本旅行業協会の高橋会長の訴えを先に紹介したが、日本の水際対策はグローバルスタンダードから相当な距離があり、他国もやっていないような大胆な規制緩和が必要というわけでもない。したがって、修正もさほど難しくない。

日本にとって能動的に獲得できる外貨収入の経路は極めて貴重であり、そんな数少ない手段としての旅行収支をもっと大事に扱ってほしいと願わずにはいられない。

30年間「世界最大の対外純資産国」としてのステータスを維持してきた日本が、引き続き「成熟した債権国」であり続けるためには、第一次所得収支の黒字に依存して経常黒字を確保し続けるだけでなく、それ以外の経路からも外貨収入(黒字)が必要だ

その筆頭格と言える旅行収支(ひいてはサービス収支)の扱いに、日本はより慎重になるべきではないか。それは、資源高により断続的な経常赤字を経験した2022年から得られる教訓でもある。

日本政府には、まずは目の前の入国規制を更地にすることから始めてほしい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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