採用担当者たちによると、連邦取引委員会が提案する競業避止義務の禁止規則が施行されれば数十万人の労働者がすぐに転職する可能性があるという。
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- アメリカ連邦取引委員会(FTC)は「競業避止義務」を全面的に禁止する規則を提案した。
- 競業禁止の制限がなくなれば、多くの労働者が仕事を辞める可能性がある。
- FTCによるとアメリカでは約3000万人の労働者が競業避止義務の対象となっているという。
大退職の波がまたやって来るかもしれない。
さまざまな業界の採用担当者によると、アメリカ連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)が営業秘密の漏洩などを防ぐため従業員の競合企業への転職を禁ずる「競業避止義務」の禁止を実現すれば、何十万人ものアメリカ人がより良いチャンスを求めて退職を検討するだろうとしている。
FTCは約3000万人の労働者が競業避止義務の対象になっていると推定している。
理論的には、競業避止義務契約は、内部情報を持つ最高幹部が競合他社に転職したり、ライバル会社を設立することなどを防ぐために結ばれている。しかし実際には、雇用主が訴訟を起こすことを恐れ、低賃金労働者を含む多くの正規労働者が、現在の職場に留まらざるを得ないことが多いと情報筋はInsiderに語っている。
FTCの規制案は約60日後に最終決定される予定だが、これにより労働者は現在の雇用主を離れて競合他社に移る自由を得ることとなる。また、労働者が自分でビジネスを始めるきっかけを与えることにもなるだろう。企業の採用担当者やリナ・カーン(Lina Khan)FTC委員長によると、その結果、賃金の上昇、福利厚生の向上、さらに多くの労働者に新たな雇用のチャンスがもたらされることになるという。
景気後退の懸念から、少なくともしばらくの間は現在の仕事を続けることを選ぶ労働者もいるだろうが、採用担当者はこの義務の禁止が施行されれば、新しい職を探す人が増えるだろうと予想している。
採用とリーダーシップを専門とするコーン・フェリー(Korn Ferry)のシニアクライアントパートナーであるダン・カプラン(Dan Kaplan)は、提案されている規則の変更は何十万人もの労働者にとって状況を一変させる可能性があると指摘している。
「前例のない動きが見られるだろう」とカプランはInsiderに語っている。
すぐに数千人の労働者が転職する可能性が
低賃金労働者の多くが競業避止義務の対象になっており、FTCは賃金アップやイノベーションを阻害していると指摘している。
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強制力があるかどうかにかかわらず、競業避止協定は多くの労働者を怖がらせて現在の職にとどまらせていると採用担当者は話している。
この決まりがなくなれば、大退職に似た転職の波が起こる可能性がある。2021年初頭から、労働者は記録的なレベルで仕事を辞めて転職している。また、景気の先行きに対する懸念や、一部の業種で解雇が増加傾向にあることから、退職者数は減少しているものの、労働市場は依然としてひっ迫している状況だ。
競業避止義務に違反することを恐れずに仕事を辞められる従業員が増えれば、その状況はさらに厳しくなる可能性がある。フォーチュン100企業の元採用担当者で、現在は人事コンサルタントのアンジェラ・ワッツ(Angela Watts)はInsiderにメールで次のように語っている。
「この変更が実施されれば、彼らは6カ月以内に今の仕事を辞める可能性が高い」
また、新たなビジネスのブームが起こる可能性もある。FTCは、競業避止義務はイノベーションを抑圧すると述べており、人事コンサルタントでフェアリー・ディキンソン大学(Fairleigh Dickinson University)の組織行動学の非常勤教授であるスーザン・ルッソ(Susan Russo)は、この義務の禁止が通れば、起業やギグワークに引き寄せられる人が出てくると予想している。
「突然、顧客や元同僚とこれまでできなかった会話ができるようになる。それは自分でビジネスを始める意欲のある人たちにとって、モチベーションになるかもしれない」
一部の採用担当者は、アメリカ経済の不確実性が、新たな自由を手に入れたとしても、少なくとも短期的には労働者は仕事を辞めることができない可能性があると警告している。労働者たちは、他の企業で見られるレイオフや雇用削減を心配しているかもしれない。
「人々は経済ニュースのせいで人々は今身動きが取れなくなっている」とエグゼクティブ人材紹介会社のコウエン・パートナーズ(Cowen Partners)の社長ショーン・コール(Shawn Cole)は語っている。
しかし、人材紹介業界の他の人たちはこの禁止に反対している。ヘッドハンティングを支援するDGリクルート(DG Recruit)の共同設立者グレース・マーリン(Grace Marlin)は、競業避止義務の契約は「多くの人に退職をためらわせている」とInsiderに語った。
もしこの禁止令が採用されれば、「退職者の波が来る可能性はかなり高い」と彼女は言う。
より多くの労働者が交渉力を活用するようになるにつれ、多くの企業がFTCの禁止措置に対抗するようになるだろうとコーン・フェリーのカプランは予想している。営業、事業開発、投資銀行などの収益を生み出す職務に就く人々は、特に腹をくくって出ていくだろうと彼は話す。
「厳しい経済情勢に入れば、収益源は本当に重要になる。近々活動が急増するようになるだろう」