2023年の市場の先行きに不安を覚える投資家は多い。
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米金融大手ゴールドマン・サックスによれば、2022年に経験した株式と債券の同時下落は、伝統的な「株式60/債券40」戦略の無効性を示すものではなく、いずれにしても、いまは戦略を見直すタイミングではないという。
株式と債券が同時に下落するのはレアな現象であり、それだけに、多くの投資家が株式と債券に分散投資することの意義と有効性に疑念を抱いている。
しかし、ゴールドマン・サックス投資戦略グループ(ISG)のシャーミン・モサバル・ラフマニ最高投資責任者(CIO)は、株式と債券が同じ方向に動くのはさほど珍しいことではないと反論する。
モサバル・ラフマニ氏は1月第3週のプレゼンでこう語った。
「株式と債券が正の相関関係にあった期間は相当に長いのです。当社は顧客に対し、株式と債券を組み合わせた分散型ポートフォリオの予想リターンがマイナスになるような、普段とは異なる展開も想定しておくよう助言しています」
市場は2023年に反発する
現時点での戦略変更、例えば資産配分を大幅に見直したり、債券から資金を引き上げてオルタナティブ資産に投資したりする行為は、伝統的な「株式60/債券40」ポートフォリオのパフォーマンスが振るわないシナリオに賭けることになる。
だが、モサバル・ラフマニ氏に言わせれば、そのような判断は過去の市場データを無視するのに等しい。
「下落局面の後にやって来る回復局面は(投資タイミングとして)極めて魅力的ではありますが、普通は長続きしません。1945年以降、直前12カ月のリターンがマイナスだった場合、その翌年の平均リターンは10.6%となっています」
このデータは、ゴールドマンISGによる2023年の市場予測と合致する。同グループ所属のアナリストチームは、アメリカおよびユーロ圏における予想リターンを9〜10%としている。
ゴールドマンISGのタクティカル・アセット・アロケーション(戦術的資産配分)部門を統括するブレット・ネルソン氏は、前出のモサバル・ラフマニ氏と同じプレゼンで、直前12カ月間の下落率が20%に達した場合、その翌年の株価上昇率の中央値は23%、翌2年間については32%とのデータを紹介した。
同グループは今後2年以内に景気後退入りする可能性を65〜70%とする一方で、それによる株価低迷が長期化することはないと予測する。
間もなく景気後退入りして年内に抜け出すシナリオをたどった場合、つまり景気後退が2023年を直撃した場合でも、株価はまずまずの水準で推移するとネルソン氏は予測しており、S&P500種指数の年末目標を4200〜4300に設定している。
ゴールドマンISGは2022年、欧州の銀行やマスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP、石油・天然ガスパイプライン運営などエネルギー中流事業への共同投資・資金調達を目的とした事業体)などバリュー(割安)株をオーバーウェイトとし、実際に力強いパフォーマンスを記録したが、すでに配分比率を引き下げた。
一方、10年物米国債利回りについては、(2022年11月をピークに)3.4%までゆっくり低下し、投資リターン(価格上昇益)は8%を見込む。5年物米国債および米国ハイイールド債の利回りは6%を想定する。
「2023年は若干の金利低下が見込まれる上、債券は2022年の利回り上昇の流れを受け、前年初より相当高い水準で年明けを迎えており、魅力的なリターンが期待されます。
したがって、債券投資についてはクレジット(信用)リスクよりデュレーション(金利変動に対する債券の価格変動の大きさ)リスクを取るべきと考えています」
ネルソン氏によれば、ゴールドマン・サックスはいくつかのセクターについて、投資判断をポジティブとしているものの、相場の好調時はそれと密接に連動して主要セクターが軒並み高いパフォーマンスを発揮するため、ハイテクよりエネルギー、公益事業より生活必需品といったセクター選好にあまり意味はないという。
強気派も弱気派もオプション投資に注目
ネルソン氏は、強気相場で利益を得つつ弱気相場で資産を防衛できるオプション取引の活用を推奨する。
「当社は現在、オプション取引を通じてさまざまな展開に対応することで、S&P500種からリターンを得るチャンスを探っています」
1月第3週の顧客向けレポートで、ゴールドマン・サックス・リサーチのデリバティブ(金融派生商品)リサーチ責任者のジョン・マーシャル氏らは、短期および長期のオプション取引へのアプローチ手法を解説している。
「決算発表および発表前の業績予想修正期間、ホリデー商戦、産業別のカンファレンスなど相場変動の材料の増える時期に突入し、当社はオプションの売りに関する投資判断を(中立から)慎重姿勢に変更しています」
同レポートによれば、コールオプション(個別銘柄が権利行使価格以上に上昇すると予想)は割安、プットオプション(同下落を予想)には割高感があるという。
今後1カ月間は、投資家が株価の大きな変動を予想する大型株のうち、業績発表前の銘柄、あるいは近い将来の大幅な業績修正が想定されていない銘柄に注目すべきとの見方を、ゴールドマンは提示する。
これは「オーバーライティング」戦術と呼ばれ、上記のような銘柄のオプションの多くは取引相手が権利行使期限までに権利を行使しないため、オプションの売りを通じて追加収益を得られる。
いずれにしても、今後6カ月間について、ゴールドマンは財務状況などファンダメンタルズをより重視した投資スタイルを採用すべきと強調する。
「ある銘柄が短期的なボラティリティに揺さぶられ、長期的な適正価値から遠ざかることは確かにありますが、十分な長期の視点に立てば、その銘柄もいずれは適正価値に近づくはずです」
今後3〜6カ月で最も期待できる銘柄として、画像・動画共有サービスのピンタレスト(Pinterest)、手羽先専門チェーンのウィングストップ(Wingstop)、ハンバーガーレストランのシェイクシャック(Shake Shack)、アルミニウム生産大手アルコア(Alcoa)をゴールドマンは推奨する。