多くの観光客が訪れるローマ、パンテオン。2022年5月12日撮影。この建物に使われている古代ローマのコンクリートはなぜ耐久性が高いのか、その秘密が解明されたようだ。
Raul Moreno/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
- 古代ローマのコンクリートは、現代のコンクリートよりも信じられないほど耐久性が高い。
- 科学者たちは長い間、何がその驚異的な強度を生み出しているのか不思議に思っていた。
- そしてある研究チームが、コンクリートに含まれる、これまで欠陥とみなされていた小さな白い斑点に着目し、その謎を解明したようだ。
ローマ人はどのようにして強いコンクリートを作り、2000年以上も持ちこたえるほど堅牢な建物を建てることができたのだろうか。
この疑問は、長い間科学者たちを困惑させてきた。コンクリートが驚くほどの強度を持つだけでなく、自己修復機能を持つように思われるからだ。つまり、ひび割れができても時間が経つと不思議なことに消えてしまうのだ。
ローマのパンテオンはその典型だ。この建造物は紀元前126年頃に建てられて以来、ずっと使われている。しかし、その複雑な造りのドームは、今も真新しく見える。
では、この素材はなぜ特別なのか。マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の研究チームが、この謎を解明したようだ。彼らの研究成果は2023年1月6日付けで査読付き学術誌『Science Advances』に掲載された。
論文によると、謎を解く鍵はコンクリートの中に見られる白い斑点「ライムクラスト(石灰の塊)」にあるという。
パンテオンのコンクリート・ドームは時の試練に耐えて存在し続けている。
Stephen Knowles Photography/Getty
欠陥に見える「白い斑点」が、コンクリートを完璧なものにしていた
ライムクラストは、ローマ時代の建造物のほとんどに見られるが、これまで建築資材の欠陥だとされてきた。
コンクリートは、モルタルという液状の結合剤と、骨材(一般的には砂利、砂、小さな岩など)から構成される。ローマ時代のモルタルは、石灰石を加熱した化学物質の石灰で作られていた。
一般的には石灰と水を混ぜてから骨材を入れていたとされ、このような斑点は、モルタルがうまく混ざらなかったことを示すものと考えられていた。
しかし論文の共著者で、MITの土木環境工学教授であるアドミール・マシック(Admir Masic)は、その考え方に納得したことはなかったという。
「もしローマ人が、何世紀もかけて最適化されてきた詳細なレシピに従って、優れた建設資材を作ることにあれほど力を注いだのなら、なぜ、最終的な素材を作る際によく混ぜようとしなかったのだろうか」と彼はプレスリリースで述べている。
さらに詳しく調べた結果、この斑点は意図的に作られた可能性が高いと研究チームは結論づけた。この斑点こそがコンクリートの自己修復機能を高めるのに極めて重要であることが分かったのだ。
自己修復のために極めて重要な斑点
コンクリートの塊を分析した画像。赤く着色された部分はカルシウムの塊を示している。
Courtesy of the researchers
白い斑点となって表れるライムクラストはかなりもろいが、それが自己修復にとってよい働きをする。
コンクリートにひび割れが生じると、ライムクラストが砕ける。そこに水が加わると、上の画像で赤く示したカルシウムが水と反応して新たな結晶を作り出す。
この結晶が自動的に亀裂を埋め、コンクリートを修復するのだ。
上空から捉えたパンテオンとロトンダ広場。
Nico De Pasquale Photography/Getty Images
爆発的に反応する生石灰
研究チームは、石灰が加熱され「生石灰(酸化カルシウム)」になった状態でコンクリートに加えられた場合にのみ、このようなことが起こりうると考えている。
窯の中で加熱された直後の石灰は、非常に反応性が高く危険だ。
この時点では、生石灰は強力に脱水された状態にあり、それに接触した水はすぐに化学構造に取り込まれ、より安定した分子が生成される。その化学反応では、大量のエネルギーが高温の熱とともに放出される。
コンクリートを作る際、一般的にはまず生石灰に水を加えて冷まし、「消石灰(水酸化カルシウム)」にしたものに骨材を加える。
しかし、ローマ人は骨材を混ぜた生石灰に水を加え、爆発的な反応をコントロールしながらコンクリートの化学組成を変えるのに十分な熱を発生させ、ライムクラストを発生させたとマシックは言う。
研究チームは、この原理を実際に試してみた。生石灰を使ったローマ式のコンクリートブロックと、生石灰を使わない現代式のコンクリートブロックを作り、それらをわざと壊して、ひび割れを入れた。
すると、ローマ式のものは水をかけると2週間ほどで修復されたが、現代式のものは修復されなかった。