野菜素材のみで製造した「ビーガン餃子」。幸楽苑とユーグレナが共同開発した。
撮影:小林優多郎
「ヴィーガン(ビーガン)料理は美味しくないと思っている方も、騙されたと思って召し上がってほしい。“ヴィーガン”という言葉のイメージが変わると思います」(ユーグレナ・出雲充社長)
中華チェーンの幸楽苑は1月18日から、バイオベンチャーのユーグレナと共同開発した「ビーガン餃子」(税込280円)の販売を始めた。動物由来の食材を使用せず、野菜素材のみで製造した餃子だという。
近年の健康志向やヴィーガン需要の高まりを受けて、幸楽苑では肉を使用しない「ベジタブル餃子」を2019年から展開してきた。ただ、味のバランスの観点から食材の一部に動物由来の食材が残り、「ヴィーガン」と名示することはできなかったという。
幸楽苑HDの新井田昇社長。
撮影:小林優多郎
「お客様のヴィーガンへのニーズは日本でも今後拡大すると考えている。何とかベジタブル餃子を“完全なヴィーガン”と呼べるものに進化させたいと考えていた」(幸楽苑ホールディングス・新井田昇社長)
一方、ユーグレナでは2021年6月にミシュラン一つ星レストラン「sio」オーナーシェフの鳥羽周作氏が微細藻類のユーグレナ(和名・ミドリムシ)の美味しさを追求する“コーポレートシェフ”に就任した。
以前から幸楽苑とコラボ商品を展開していたユーグレナは、「鳥羽シェフとヴィーガンの餃子を開発しないか」と幸楽苑に打診。約1年の試行錯誤を経て動物由来の食材ゼロの餃子が誕生した。
ほうれん草の粉末が練り込まれた緑色の皮が特徴。
撮影:小林優多郎
具材には大豆由来のタンパク質をメインに7種の野菜(キャベツ、椎茸、玉ネギ、長ネギ、筍、ニラ、大葉)を用い、ユーグレナを配合。
使用される「石垣島ユーグレナ」は独自のうまみをもち、ビタミンやミネラル、アミノ酸など59種の栄養素を含む。
撮影:小林優多郎
皮はほんのり緑色で、ほうれん草の粉末を練り込んだ。水分量にこだわり、モチモチかつパリパリな食感に仕上げたという。店舗で焼く際、鉄板にひく油はゴマ油を使用している。
実際の店舗で注文した通常の餃子(餃子「極」)とビーガン餃子。比較しても遜色ない食べごたえ。
撮影:吉川慧
「ヴィーガンの方だけでなく、幅広いお客様におすすめできる栄養バランスの良い商品。美味しさにもこだわりました」
「日本ではロカボ、ローファット、ヴィーガンという言葉には“美味しくない”というイメージがある。でも、この餃子はおいしいと伝えたい。おいしいと思ってもらえれば、ヴィーガンの認知も広がっていくと思います」(新井田氏)
発表会では製造や調理ラインの区分け、調味料について説明がなかったため、Business Insider Japanでは幸楽苑に追加取材をした。
まず、工場の製造ラインについて。幸楽苑によると、他の餃子と製造ラインは同じだという。ただ、「同じ日に生産はしておらず、機器の洗浄後、 日にちを変えて生産」しているという。店舗での調理は「同じ調理機器で調理しています」と説明した。
食べる際の調味料は、席に用意されている醤油や酢などを使うことになる。幸楽苑は取材に対し、「(万能調味料の)『幸楽苑の素』以外の醤油、酢、ラー油には動物系由来の原料を使っていないことを確認いたしました」と回答した。
「おいしくなければ、召し上がっていただけない」
ユーグレナの出雲充社長。
撮影:小林優多郎
ユーグレナの出雲充社長は、日本でもヴィーガン食の選択肢を長期的な視野をもって増やしていくことが大切だと指摘する。
「(穀物を飼料として消費する畜産と比べて)地球環境になるべく負荷をかけずに78億人の食糧を届けるというエシカルな観点から、ヴィーガンを選ぶ方が海外で増えている。持続可能な食糧生産はますます大事。CO2削減の観点でも注目されています」
「アフターコロナの時代、もう一度日本が開国して海外から大勢のインバウンドのお客様がいらっしゃる。その時、ヴィーガン食を選べることが日本でも当たり前になるようにしていかなければと思います」(出雲氏)
幸楽苑のメニューパネル。
撮影:吉川慧
出雲社長もまた、幸楽苑の新井田社長と同じく「美味しさ」の重要性を語る。2019年に鳥羽氏をコーポレートシェフに起用したことも「ユーグレナ食をおいしいものにしたい」という思いからだったと、Business Insider Japanに取材に対して話した。
「食べるものは“おいしい”ということが大事です。私たちもこれまでずっと失敗し続けてきましたが、栄養素のチャートや生産過程のCO2削減などを発信すれば皆さんに選んでもらえると思っていましたが、そうじゃないんですね。栄養価が高いとか機能性があるとか言っても、おいしくなければ2回、3回と召し上がっていただけない」
「ヴィーガンが普及している海外には、おいしいヴィーガン料理がある。ユーグレナもおいしくなければご家庭に広がらない。鳥羽シェフの就任から2年あまり、それが最大の気付きでした」
「ビーガン餃子」発表会には幸楽苑HDの新井田社長、sioの鳥羽シェフ、ユーグレナの出雲社長が登壇した。
撮影:小林優多郎
今回の「ビーガン餃子」は、ヴィーガン食やユーグレナの美味しさを伝える大きなチャンスになると出雲社長はみる。
「ユーグレナは植物プランクトンの藻類(微細藻類)で、学術的には藻。動く藻ですが植物です。今回の餃子もベジタリアンやヴィーガンの方にお召し上がりいただけます」
「ヴィーガン料理は美味しくないと思っている方も、騙されたと思って召し上がってほしい。“ヴィーガン”という言葉のイメージが変わると思います」
幸楽苑HDは下半期の営業黒字化が目標「ディナー商品のラインナップが課題」
撮影:小林優多郎
ここで、「ビーガン餃子」に関わる2社の業績についておさらにしておこう。
ユーグレナ
ユーグレナの2022年12月期第二四半期決算は、グループ全体の売上高は215億8400万円と前年同期間(2021年1月〜6月)と比較して約2.6倍だった。
一方、四半期ベースの売上高は2021年12月期第4四半期をピークに微減傾向。通期の売上予想は480億円から440億円へと下方修正している。
永田暁彦CEOは「従来のヘルスケア事業が、2021年第4四半期から減少傾向が続いています。投資できるブランド、効率的な広告パフォーマンスを確保できなかったことが実態でした」と分析している。
幸楽苑ホールディングス
23年3月期第二四半期の連結決算は売上高は126億7400万円、純損益10億7100万円の赤字。新型コロナ禍に突入し、その影響を受けた2021年3月期第二四半期(純損益9億4300万円)よりも赤字が拡大した。
2023年3月期の業績予想も下方修正。最終利益は従来予想の2億6000万円の黒字から、8億5000万円の赤字に転落する見通しだ。
原材料費などコストの高騰、新型コロナ変異株の感染拡大などを要因としている。なお、2022年3月期は3億7400万円の黒字だった。
出典:幸楽苑HD2023年3月期第2四半期決算説明資料
厳しい経営環境ではあるが、幸楽苑HDは下半期は営業黒字化を目標に掲げる。
運営する「幸楽苑」は低価格路線でチェーン展開をしているが、円安を踏まえてグランドメニューの価格改定に踏み切った。2022年10月には1年9カ月ぶりに単月での営業利益を黒字化。11月と12月の客単価も増えているとしている。
幸楽苑のメニュー画面。麺類はロカボ麺の選択が可能。
撮影:吉川慧
下半期に向けた課題には、ディナー時間帯の商品ラインナップが競合他社と比べて弱いことを課題の一つに挙げている。
具体的な戦略は、既存商品の改善と見直しと新商品の投入だ。すでに野菜たんめんの野菜増量、チャーハンの玉子・チャーシュー増量、餃子「極」の肉増量などを実施している。
新井田社長によると、健康志向のメニューはリピート率が高いという。新発売の「ビーガン餃子」も、新たな客層とリピーター需要を狙えるかに注目だ。