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ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)が1月17日に四半期決算を発表するにあたり、一部の業界ウォッチャーは、デービッド・ソロモン(David Solomon)CEOが組織をスリム化し、本来の投資銀行業務に立ち戻るべくリセットボタンを押すことを期待していた。
ところが予想に反して、決算発表の場でソロモンは数々の質問——昨年末のコスト上昇、第4四半期の収益が低迷する要因となった予想外の支出、M&Aなどの取引手数料の回復に頼らず運用利益目標を達成できるのか、など——を巧みにさばいていった。
ソロモンの回答には、依然として先行き不透明な金融業界の現状がにじみ出ており、決算当日にゴールドマン・サックスの株価は6.5%近く下落した。同社は先ごろ全従業員の6%に当たる約3000人を解雇したばかりだが、人員削減は本当にそれで終わりなのかという疑問の声も上がっている。
米コンサルティング企業オピマス(Opimas)のオクタビオ・マレンツィ(Octavio Marenzi)CEOは、メールで次のように記している。
「真の問題は、収益が下落しているのに事業コストが11%も急上昇しているという事実です。これは、さらなるコストカットと人員削減があることを明示しています」
ゴールドマンの広報担当者は言う。
「当社はコストの引き締めを続けており、出費については社内の隅々まで目を光らせています。しかしそれが数字として表れるには、まだしばらくかかると思われます」
1月17日に発表された同社の第4四半期決算では、純営業収入は1060億ドル(約13兆7800億円、1ドル=130円換算)と前年同期比で16%下落し、一方事業コストは前年比で11%も跳ね上がっている。
17日の金融関係者向けの決算説明会で、ソロモンは次のように語った。
「率直に申し上げてこの四半期の業績には失望しており、当社の事業形態は特に厳しい状況にあることが判明しました。このような結果を株主の皆さんにお伝えしなければならないのは不本意です」
ソロモンによれば、コストカットをはじめとする「事業規模適正化」への取り組みは今後も続けていく可能性があるという。
「当社はこれまでもこれからも、金融リソースの運用に最大限注力するつもりです。特に、予想以上に悪かった第4四半期の社会状況に照らせば、そうなるでしょう」
以降では、ゴールドマン・サックスが2023年にコスト削減に取り組む上で影響を与えそうな4つのポイントを、第4四半期決算の内容から考える。
第1四半期も高水準の支出が続く
第4四半期の事業コストが上昇していることから、最近行われた一時解雇に関連する費用は今回の決算に含まれているだろうと予想していた業界アナリストもいた。しかし実際には、これらの費用は2023年第1四半期に計上される予定であることが判明した。つまり、支出レベルはすぐには下がらないということだ。
「支出がどれだけ急増したかを考えれば、リストラや解雇関連費用が第4四半期に計上されなかったことは、正直言って驚きでした」と、USB投資銀行のブレナン・ホーケン(Brennan Hawken)は語る。
「補償についてはもう十分というわけでしょうか? それは分かります。2022年の業績を考慮しながらゴールドマンの株を買う者はいなくなりましたから。とはいえこの業績は、2023年の初っ端から高いハードルを作ってしまったように思えます」(ホーケン)
ゴールドマン・サックスの最高財務責任者(CFO)、デニス・コールマン(Denis Coleman)は、人員削減のタイミングを理由に、解雇関連費用は2023年第1四半期に繰り越される予定だと明言している。
コールマンは決算説明会で、2023年には人員削減の結果として2億ドル(約260億円)、その他全体の取り組みの結果として4億7500万ドル(約617億円)を削減できる見込みとした。
また、2022年通期の同社の給与支出は前年比15%低下したものの、第4四半期に限っていえば従業員関連支出は前年比で上昇し、38億ドル(約4900億円)にのぼっている。
なお、大企業が社員を解雇する場合は前もって本人に通知しなければならないという州法の定めにより、解雇通知を受けたゴールドマン・サックスの社員も、実際に解雇されるまでには数カ月の猶予がある。
収益多様化への大きな賭け
ゴールドマン・サックスが2022年秋に組織再編を発表して以来、同社の消費者向け分野への意欲は議論の的だった。今月発表した人員削減を進めてはいるものの、新規部門である「プラットフォーム・ソリューションズ」(Platform Solutions)は2022年中に赤字を脱することができなかった。
プラットフォーム・ソリューションズは再編前の「カスタマー&ウェルス・マネジメント」の業務の一部を引き継いでおり、Appleカードとの提携や消費者向けローン、グリーンスカイ(Greensky)のPOS融資サービス事業などを担っている。
今回の2022年第4四半期決算によって、同部門が2020~2022年の間に40億ドル(約5200億円)もの損失を出していたことが明らかになった(損失の大半は貸倒引当金の大幅な積み増しにあり、額にして7億8000万ドル〔約1000億円〕を超えている)。
プラットフォーム・ソリューションズの第4四半期(10~12月)の収益は5億1300万ドル(約666億円)にまで伸びたものの、事業コストも膨らんでおり、第4四半期は第3四半期よりは減少したものの前年比66%増だった。
「我々にとって重要なのは、この部門の収益性向上に向けてひたすら尽力することです。とはいえ、最終的に黒字となるまでしばらくの間は赤字が続くでしょう」と、CFOのコールマンは四半期決算説明会で述べている。
ゴールドマン・サックスはソロモンの指揮下で過去数年にわたり、消費者向け金融分野に進出することで収益を多様化しようとしてきた。これは、同日に決算発表を行ったモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)とは対照的だ。
モルガンはウェルスマネジメント分野への進出が成功したとして株主たちから好意的に受け止められた。同社の収益はディールメイキングの低迷から前年比40%も減少したが、同社の業績、特にウェルスマネジメント分野での業績は、予想以上に好調だった。
CEOたちが恐れるマクロ経済状況
ソロモンは第4四半期決算発表会の場で、M&A助言業務と企業の社債や株式を扱う業務というゴールドマン・サックスの二大事業が、不透明な経済状況の打撃を受けたことも認めた。投資銀行としての手数料収入は第4四半期に前年比48%落ち込み、株式売り出し業務に至っては前年比で82%も急落した。
米金融業界ではどの投資銀行も、2022年の不安定な経済環境に苦戦を強いられた。連邦準備制度理事会(FRB)が積極的に利上げを行ったことことで大型のディールメイキングの動きが鈍ったためだ。ソロモンは言う。
「我々の顧客はこの複雑な状況をどう乗り切ろうかと頭を悩ませています。CEOや役員の方々は、特にここ最近は慎重になっていると口々におっしゃいます。目下ビジネスチャンスを見直しており、長期的な計画にコミットする前に、状況が安定化してほしい、と」
決算発表の場ではソロモンに対し、同社の目標達成のためには、2023年中のディールメイキング回復が必要なのか、それとも支出削減でどうにかなりそうなのかとの質問が飛んだ。ソロモンは、「私たちが言う目標とはあくまで正常化した環境下での話」だが、資本市場環境が回復すれば「確かに役立つ」と答えた。
人員削減による支出削減
人員削減をすれば2023年の支出は減らせるだろうが、ゴールドマン・サックスがさらなる人員削減に踏み切る必要はないのかもしれない。
人員削減をすれば確かに目に見える変化があるはずだ。特に、今年のボーナスシーズンを転職の好機として利用するやり手の社員たちにとってはそうだろう。
1月は米金融業界全体でボーナス額が下がっている。一方ゴールドマン・サックスでは、ボーナス額に最も大きな影響を及ぼしているのはソロモンによる組織再編と市場の鈍化だ。同社の一部の役員の報酬は10年前の水準にまで下がっている。
ゴールドマン・サックスは社員、とりわけシニアレベルの役員たちを、やんわりと退職に追いやる可能性もある。ある社内関係者によれば、先ごろのレイオフの際に、他の就職先を探さないと解雇通知が届きかねないと、それとなく知らされた者が経営陣の中にもいるという。