ファイナンシャルセラピーを求めるのは、金融リテラシーの高い人が多い。
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- ファイナンシャルセラピーとは、お金の情緒面と心理面に特化したセラピーの一分野だ。
- ファイナンシャルセラピーは、金融リテラシーは高いけれども、良いお金の習慣をなかなか実践できない人に役立つことが多い。
- ファイナンシャルアドバイザーでもファイナンシャルセラピストの認定を受ければ、ある程度のカウンセリングを行える。だが「真の」セラピストと言えるのは認定ファイナンシャルセラピストだけだ。
「お金」の話題は、とてもナイーブなものだ。実際、資産運用会社のキャピタルグループ(Capital Group)が行った2018年の調査によれば、友達と「給与」や「所得」の話をするのはご法度だと、39%の人が回答している。この数字は「結婚」の20%、「政治見解」の17%よりも高い。
その一方、大多数の人がお金に関してストレスを感じているのも事実だ。米国の金融業規制機構(FINRA)の調査では、6割の人が個人資産に不安を感じると回答している。いまだにお金が際どい話題であるときに、こうした不安を口にするのは難しい。そんな不安を感じている人は、ファイナンシャルセラピーを検討すると良いだろう。
フィナンシャルセラピーとは何か?
フィナンシャルセラピーは、お金の実務面ではなく、情緒面や心理面に特化したセラピーの一分野だ。ミシガン州のフィナンシャルセラピストで『お金にまつわる不安の解消法(The Financial Anxiety Solution)』の著者、リンゼイ・ブライアン・ポドビン氏は、「(ファイナンシャルセラピーは)予算の立て方というよりも、予算を立てる妨げとなっていることに焦点を当ててカウンセリングを行う」と説明する。
ファイナンシャルセラピーは、お金との関係は無限の合理性ではなく、情緒と心理に基づいているとの考え方に由来する。1970年代に心理学者のエイモス・トベルスキー氏とダニエル・カーネマン氏が、人は認知バイアスにより非合理な判断を下すことがあることを明らかにした。投資家は収益と損失を別々に捉え、潜在的な利益よりも、損失を回避する方を選好すると説いたプロスペクト理論はその代表だ。彼らが、現在ファイナンシャルセラピーが拠り所とする行動経済学の基礎を築いたと言える。
ファイナンシャルセラピー vs. その他のセラピー
学術分野としての行動経済学が登場してからもう数十年経っているが、ファイナンシャルセラピーは比較的新しい概念だ。ファイナンシャルセラピストを認定する金融社会事業センター(the Center for Financial Social Work :CFSW)が設立されたのはわずか20年前の2003年だ。もう1つの認証団体、ファイナンシャルセラピー協会(the Financial Therapy Association :FTA)も2008年の創設である(日本では、これらに該当する組織はまだ存在しない)。
ファイナンシャルセラピーはセラピーの専門分野だ。つまり、セラピストは認証団体から認定されなければならない。実際には、(ファイナンシャルセラピストではない)その他のセラピストは、細かいことに触れずにお金についての問題にはさらっと関与する場合があることを意味する。
ブライアン・ポドビン氏が臨床ソーシャルワーカーとして研修を受けた時は、お金に関する悩みを相談されたら、外部に照会するよう教えられた。「自分の信用スコアにストレスを感じているとか、家を買ったらどうなるか心配」などと相談されたときは、それは自分の仕事の範疇外なので他に相談するよう指導されたと言う。
前述の通り、ファイナンシャルアドバイザーは主にお金の技術面の専門家である一方、ファイナンシャルセラピストはお金の情緒面を扱う。ファイナンシャルセラピストもまた、他のセラピストと同じくセラピスト資格を取得するために必要な教育を受けなければならず、それには少なくとも学士号や修士号が含まれる。
反対に、ファイナンシャルアドバイザーの主な役割は、お金の扱い方について具体的な助言を提供することだ。アドバイザーの専門分野は、予算の立案方法、投資ポートフォリオの構築方法、退職のような一定目標に向けた備え方といったものだ。アドバイザーの助言は、サンクコスト(埋没費用)などの個人投資家に影響を与え足かせとなる認知バイアスから目をそらすのに役立つ。サンクコストとは、それまでに費やした資金や時間など、もう取り返しがつかないのに、それを惜しんでその後の投資に影響を与える費用のことだ。以前購入した株式がずるずると下がっているのに、損切りできないのはサンクコストの弊害と言える。CFPボードやCFA協会など、さまざまな団体がファイナンシャルアドバイザーの認定を行っている。
ファイナンシャルアドバイザーも、お金について一定レベルのカウンセリングができるかもしれないし、FTA認定資格を保有していることもある。だが、こうした認定を受けたからと言って、ファイナンシャルアドバイザーが「真の」ファイナンシャルセラピストになれるわけではない。
「現在、ファイナンシャルセラピーを巡る大きな問題は、ファイナンシャルセラピー以外、つまりファイナンシャルプランナーやファイナンシャルアドバイザー、公認会計士といった人たちでもFTAの研修を受ければ認定され、ファイナンシャルセラピーを行えることだ」とブライアン・ポドビン氏は言う。だが、彼らは本当のファイナンシャルセラピストではない。セラピストでなければ、セラピーはできないのだ。
ファイナンシャルセラピストが必要な場合
ファイナンシャルセラピストと言えば、PTSDのような症状として現れる、お金にまつわるストレスによる金融トラウマを連想するかもしれない。金融トラウマを抱える人は、お金について話すと過度な不安や戸惑いを感じたり、お金についての願望を口にする資格が自分にはないと感じたりすることがある。だが、金融トラウマはファイナンシャルセラピストと一緒に乗り越えられる。
とはいえ、トラウマだけがファイナンシャルセラピストに相談する理由ではない。ファイナンシャルセラピーでは、お金との関係は、育った文化や性別、宗教などさまざまな要因に基づくという考えに立脚している。お金の話がよりタブー視される文化で育てば、大人になってもそれがお金に対する考え方に影響しかねない。
一人ひとりで事情は異なるが、セラピーを求める人には金融リテラシーの高い人が多いとブライアン・ポドビン氏は言う。こうした人は、お金の管理方法は理解していても、お金についての良い習慣がつかない何か障害があると感じている。
ブライアン・ボドピン氏によると、(この障害を)「感覚」と表現する人が多い。金銭的に問題はない、パートナーと私はお金に困っていない……そのことを頭ではわかっていても、心でそれを信じられないのだ。つまり、理論と感情がずれているといえる。
ファイナンシャルセラピストの探し方
米国のFTAのウェブサイトには、ファイナンシャルセラピストの名簿が掲載されている。だが、名簿にある全員がファイナンシャルセラピストとは言えない。お金を払えばFTAの名簿に誰でも名前を載せられるからだ。だから慎重に見つけなければならない、とブライアン・ポドビン氏は言う。出発点としてこの名簿を使うのは構わないが、本当にファイナンシャルセラピストなのかどうか、専門分野を慎重に見極めることが重要だ。
ファイナンシャルセラピストの候補を数名選び出したら、結局のところ試行錯誤しながら自分に合ったセラピストを決めることになる。セラピストの履歴書に目を通し、どんな人かを把握したら、一度診察を受けるのが最善の方法だ。とはいえ、ブライアン・ポドビン氏はそうした診察がもどかしいこともわかっている。どのセラピストでも3回診察を受けてから、一番合う人を決めると良いだろう。
資格や肩書を持つセラピストを見つけることは可能だ。だが調査によると、結局のところセラピーを望む人にとって最善の結果が得られるかどうかは「相性」次第だという。つまり、セラピストと上手くやっていけるかどうか、セラピストを信頼できるかどうか、セラピストが思いやりを持って接してくれていると感じられるかどうか——そうしたことが一番重要なのだ。