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リモートワーク時代のオフィスビルをめぐる議論は、中心街の再生、従業員にオフィス復帰を強いる上司、住宅などのより有用な用途への転換などを中心に展開された。
1月18日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、不動産企業の経営幹部たちは金融業界や世界のリーダーたちに向かって、厳しい現実に直面するときが来たと語った。
不動産サービスJLLのクリスチャン・ウルブリッヒ(Christian Ulbrich)CEOや、同じく不動産事業を手がけるアイバンホー・ケンブリッジ(Ivanhoe Cambridge)のナタリー・パラディチェフ(Nathalie Palladitcheff)CEOらは、多くのビルはただ「廃れ」、解体を待つのみの状態だとの見方を示した。
フレキシブルな働き方が進んだ結果、オフィステナントが縮小し、世界中の都市で比較的古いオフィスビルの価値が下落している。オフィススペースを借りる企業は最新のテクノロジーと低炭素化に惹かれ、最新のビルに殺到しているのだ。
世界最先端の近代都市であるドバイでさえ、古いビルは苦境に立たされている。ほとんどが、ブルックフィールド(Brookfield)が最近開発した約100万平方フィート(約9万2000平方メートル)のICDブルックフィールド・プレイス・ドバイ(ICD Brookfield Place Dubai)開発地の、1平方フィートあたり75ドル(約9750円、1ドル=130円換算)の賃料の70%を確保することすら苦戦している。
ドバイに本社を置くデベロッパー、DAMACインターナショナル(DAMAC International)のフセイン・サジワニ(Hussain Sajwani)会長は、ダボス会議で「不動産業は転換点にある」と述べた。
サジワニ、パラディチェフ、ウルブリッヒ、それにカンター・フィッツジェラルド(Cantor Fitzgerald)のハワード・ラトニック(Howard Lutnick)CEOを加えた4人全員が、多くのオフィスビルは転用または解体する必要があると口を揃えた。
だが、その実現のための道のりは長く険しく、ゾーニング規制や優遇税制措置を管理する地方自治体によっては複雑な手続きになりそうだ。空きオフィスを手頃な価格の住宅に変えることは理にかなっているが、実際にやるとなると極めて難しい。
「改修に適さない、あるいは財政的に実行不可能な、使われなくなった建物ばかりが増えることになりますから、何らかの形で転用する必要があります。放っておけば空きビルになり、いずれ解体されるだけですから」(ウルブリッヒ)
もちろん、どこもかしこも同じ状況というわけではない、とInsiderの取材に応じたウルブリッヒは語る。例えばボストンのような魅力的な中心街は、リモートワーク化が進んでも乗り切れるはずだと言う。オフィスビルの価値が急減するのは、犯罪やホームレスなど問題がいくつもある魅力に乏しい場所だ。
パンデミック前に締結された長期賃貸契約により空室率の急上昇が抑えられていたため、どのくらいの数の建物が実際に使われなくなるかはまだ不透明だ。とはいえ、空室率は非常に高いままである。
逼迫する資金繰りと変化するオフィス環境という2つの要因が重なり、10年以上にわたって「不労所得」を得てきたビルオーナーは今、建物から価値を引き出すために「創造的に働く」必要が出てきた、とウルブリッヒは言う。
創造的な動きとして特に注目を集めているのは、オフィス空間を住居に転換することだ。ラトニックは、1970年代にニューヨーク市が法律を改正し、ロフト住宅への用途変更によって使われなくなった工業用の建造物が集まる区域を一変させたことを思い出すと言う。同様の制度を設計すれば、放置しておくといずれ「使えなくなり、空き家になる」オフィスビルを住宅に転用するプロジェクトが財政的に可能になるとラトニックは話す。
こうした変化は起こりつつあるが、そのプロセスは非常にゆっくりだとパラディチェフは言う。オーナーや不動産業者は、地元の政治家との関係性を活かして事業を進めようとしている。
ラトニックは、オフィス空間の終焉と居住空間の台頭はいずれ不動産業界の益に転じるだろうと前向きな見方だ。とはいえ、パラディチェフと同じくすぐに大きな変化が起こるとは考えていない。ラトニックは言う。
「(オフィスビルは)いずれ目障りになり、修繕が必要になるでしょう。そのひと押しは必ず来る。来年ではないとしても、確実に来ます」