DALL-E 2を使って制作されたニュースレター「Out West Chronicles」用の画像。
Tejas Hullur
AIを搭載したチャットボット「ChatGPT」が一般公開されて以来、ネット上では「Googleに取って代わるかもしれない」「学術論文の盗用問題が起きるのでは」など、その可能性をめぐる議論と興奮で盛り上がっている。
ChatGPTは、プロンプトや質問に対して、テキストによる詳細な回答を生成することができるジェネレーティブAIだ。ジェネレーティブAIとは、既存のコンテンツから成るデータセットを再利用し、独自に新しく、かつ創造的なものを考え出すことのできるAIの一種だとされている。
クリエイターは、ジェネレーティブAIツールの恩恵を受けることができる職業のひとつであり、多くのクリエイターが自身のコンテンツ制作にChatGPTを使おうとしている。
MKBHDというチャンネルを持つテック系ユーチューバーのマルケス・ブラウンリー(Marques Brownlee)は、『The Truth About AI Getting 'Creative'(AIがクリエイティブになることの真実)』と題する動画の脚本の一部をChatGPTで生成したが、それは彼自身が書いたものにかなり近いものだった。
また、ChatGPTやそれに類するAIテキストツールにプロンプトを使うといかにコンテンツライティングの作業効率を高められるか、クリエイターたちがソーシャルプラットフォーム上で議論している。
ChatGPTの他にも多くのAIスタートアップが登場しているが、その中にはクリエイターの働き方に具体的なインパクトを与えるものも存在する。
UCLAエクステンション(UCLA Extension)の非常勤マーケティング教授であるリア・ハバーマン(Lia Haberman)は、「常に新しいコンテンツを考えなければならないことは、クリエイターにとって大変なことであり、非常に深刻な燃え尽き症候群の原因になり得ます」と言い、AIがクリエイターたちの助けになり得ると語る。
VCファンドのアントラー(Antler)でグローバル・コミュニティ・マネジャーを務めるオーリー・フォーサイス(Ollie Forsyth)のチームでは、ジェネレーティブAIスタートアップの状況をまとめた。
「最初にリストアップしたプラットフォームは160くらいだったと思いますが、今はおよそ200社あります。我々が当初想定していたよりもはるかに大きい規模になっています」(フォーサイス)
アントラーがまとめたジェネレーティブAI関連の企業。
Antler
これらのスタートアップの中には、クリエイターが日々直面する課題の解決に役立つものもあると、フォーサイスは言う。
例えば、テキストベースのAIは、動画の脚本や、ソーシャルメディアのキャプション、ウェブサイトの投稿などのコピーライティングでクリエイターをサポートしてくれる。映像系AIは、長いコンテンツから短編の映像を切り出したり、既存の映像をさまざまな言語に吹き替えたりするなど、映像編集のさまざまな悩みを解決することができるだろう。ゲーム系AIは、クリエイターが自分でゲームを作ったり、ロールプレイング体験をしたりする際に役立つだろう。
Insiderは、クリエイター、経営者、投資家などクリエイターエコノミーの専門家16人に、この領域に最大のインパクトを与えると思われるスタートアップについて尋ねた。
彼らの多くは、クリエイターの創作プロセスを合理化・効率化するうえでAIツールが役立つと考えており、中にはAIはクリエイターの未来を象徴しているとまで言う専門家もいた。
ネクストビュー・ベンチャーズ(NextView Ventures)の共同創業者でパートナーのデビッド・ベイセル(David Beisel)はこう述べる。
「クリエイターにとっての課題は、これらのツールを使うべきかどうかではなく、特にここ1年で登場した多くの選択肢の中からどれを選択するのかということです。つまりジェネレーティブAIは、クリエイターにとって魅惑的なコンテンツを作るための魔法の杖というわけです」
本稿では、クリエイターエコノミーの専門家が推奨するAIスタートアップ10社をアルファベット順に紹介する。
1. プロンプトから動画を制作する「Aug X Labs」
Aug X Labs
ツールの特徴:Aug X Labsは、AIベースの「プロンプト・トゥ・ビデオ」ツールを開発している。テキストからスライドショータイプの動画を制作することで、動画作成を加速することを目指している。
例えばストーリーテリングに関する動画を作りたい場合に、本や火を囲んで話をする人々など、そのテーマに沿った写真を使ってスライドショーを生成する。
同社がニュースメディア「プロトコル(Protocol)」に語った内容によれば、画像はテキストを画像に変換するStable Diffusion、ライセンスドコンテンツ、またはクリエイターがアップロードした画像を使って生成される。
推薦者:ジム・ラウダーバック(デジタルメディアの専門家、ビドコン(VidCon)元CEO)
推奨理由:ラウダーバックは、Aug X Labsはポッドキャストや歌など、クリエイターがあらゆる種類の動画を迅速かつシームレスに制作するのに役立つと話す。
2. キャッチコピーを生成し、ライティング作業をサポートする「Canva Magic Write」
Canva
ツールの特徴:Canva Magic Writeは、グラフィックデザインプラットフォームであるキャンバ(Canva)が提供するAIテキストジェネレーター&ライターである。Canva Magic Writeにプロンプトを書くと、ウェブサイト投稿、マーケティング広告、ソーシャルメディアのキャプションといったキャッチコピーを数秒で生成できる。
このツールは、あくまでコンテンツ作成のサポート的なものであり、取って代わるものではない。また、まだテスト段階であり、生成されたコンテンツの正確性は公開前に確認する必要があるとユーザーに警告している。
推薦者:リア・ハバーマン(UCLAエクステンションの非常勤マーケティング教授)
推奨の理由:CanvaのMagic Writeは、コンテンツのアイデアを生み出すのに役立ち、クリエイターがクリエイティブなソーシャルキャプションやブログ投稿を思いつくのをサポートしてくれる。
「多くのクリエイターがすでにCanvaのプラットフォームを利用し、プロダクト開発に使っています。ですからCanvaがクリエイターたちのコンテンツ作成プロセスの支援となっているのは自然な流れだと思います」(ハバーマン)
3. ジェネレーティブAIを使い、質問やコマンドに対してオリジナルの回答を作成する「ChatGPT」
AIチャットボット「ChatGPT」は最近、バイラルとなった。
NurPhoto/Getty Images
ツールの特徴:ChatGPTは、ジェネレーティブAIを使用して、質問やコマンドに対するオリジナルの回答を作成するAIチャットボットである。
推薦者:マット・コヴァル(マイティ・ネットワークスのクリエイター担当SVP)、カタリナ・タランティエワ(マイクロインフルエンサー、ブランド戦略家)、シェリー・ルオ(クリエイター、投資家、元プロダクトマネジャー)、リア・ハバーマン(UCLAエクステンションのマーケティング非常勤教授)。
推奨理由:ChatGPTは、スクリプトを書いたり、コンテンツに対するライターの知識的な垣根を越えたりすることで、ライターの知識を超えるようなコンテンツを返したりしてスクリプトライターの仕事を補完してくれる。
「ChatGPTを使う理由は、クリエイターのアシスタントとして、動画のアイデアやキャッチーなタイトル、オープニングのフック、さらには脚本の初稿などを提供してくれるからです」とコヴァルはInsiderに語る。「作成されたものはやや定型的なものですが、アイデアを考えるきっかけとしてはこれでも十分なことが多いのです」
4. さまざまな目的のためのコピーライティングをサポートしてくれる「Copy.ai」
Copy.
ツールの特徴:Copy.aiは、ブログ、デジタル広告、eコマース、販売、ソーシャルメディア、Webサイトのキャッチコピーを12カ国語で作成できる。同社のウェブサイトによると、マイクロソフト、eBay、ネスレといった企業で採用されており、400万人のプロフェッショナルがこのサービスを利用しているという。
推薦者:リア・ハバーマン(UCLAエクステンションのマーケティング非常勤教授)、シェリー・ルオ(クリエイター兼投資家兼元プロダクトマネジャー)、デビッド・ベイセル(ネクストビュー・ベンチャーズ共同創業者兼パートナー)
推奨理由:Copy.aiは「ツイート、インスタグラムのキャプション、ティックトック(TikTok)のスクリプト、リンクトイン(LinkedIn)の投稿、YouTubeの動画概要を書く際にうってつけです」とベイセルは語る。
ハバーマンは、Copy.aiはChatGPTのように「コマンドで意味のあるコンテンツを生み出す手助けが必要な」クリエイターにとって素晴らしい選択肢になり得る、と話す。
5. テキストプロンプトに基づき画像を作成する「DALL-E 2」
テジャス・フルワーはDALL-E 2を使ってニュースレター「Out West Chronicles」用の画像を制作した。
Tejas Hullur
ツールの特徴:DALL-E 2は、自然言語による記述からAIが画像を生成する。公式ウェブサイトによると、DALL-E 2はあらゆる種類の画像を作成しながら、そのスタイル、コンセプト、属性を再現することができるという。
推薦者:ジョーダン・シュワルツェンベルガー(クリエイター集団Sidemenのマネージャー)、テジャス・フルワー(Catch'n Ice Creamのクリエイター兼共同創業者)。
推奨理由:DALL-E 2に関連して、シュワルツェンベルガーは自身のポッドキャスト「Unboxed」の中で、こんな話を紹介していた。
シュワルツェンベルガーの友人のザック・アルソップは、ユーチューブ登録者数100万人のクリエイターだ。アルソップは自身のユーチューブ動画のサムネイル画像を作る際にDALL-E 2を使ってみたところ、クオリティがグッと上がったというのだ。
こうして制作した動画の1つが『I Tested 5 Star 'Pet Friendly' Hotels With Farm Animals(ペット可の5つ星ホテルで、家畜と一緒に過ごしてみた)』というものだ。アルソップはDALL-E 2に「ゴールドのチェックインデスクがある5つ星ホテルに、豚と一緒にチェックインする男性」の画像を作成するよう依頼した。DALL-E 2が生成した画像から、最終的なサムネイルに至るインスピレーションが得られたという。
また、フルワーは、自身のニュースレターであるOut West Chroniclesの画像作成にDALL-E 2を使っているという。
「自分たちだけではできないような、速いだけでなく統一感のあるブランディングスタイルの画像を作れます」(フルワー)
6. テキストをもとに声優風の音声を合成する「Eleven Labs」
Eleven Labs
ツールの特徴:Eleven Labsは、長文の音声を合成するプラットフォームである。テキストの内容を理解するように訓練されたモデルを使い、音声を調整したり声優風の音声を生成したりする。ユーザーは既存の音声を選ぶこともできるし、提供されたサンプルからモデルを作ることもできる。現在、サービスはベータ版として提供されている。
推薦者:オーリー・フォーサイス(アントラーのグローバル・コミュニティ・マネジャー)
推奨理由:フォーサイスは、吹き替えはコンテンツのグローバル化の次のフロンティアであり、それによりクリエイターが最初からグローバルに活躍できるようになると考えている。
クリエイター向けの吹き替えサービスはいくつかあるが、Eleven Labsは中でもよくできたサービスだとフォーサイスは考えている。
「クリエイターの声を言語上正しく理解して反映させるのはこれまで非常に難しいとされてきました。そう考えると、彼らは非常に興味深いことに取り組んでいますよね」(フォーサイス)
7. SEOに適したコピーなどを支援する「Jasper.ai」
Jasper
ツールの特徴:Jasper.aiはAIコピーライティングツールだ。ブログ、ソーシャルメディアのキャプション、ウェブサイト、メールなど、26の言語でSEOに適したコピーを作成し、グーグルで上位表示されることを目指す。また、Facebook広告のキャッチコピーを作成したり、ストーリーやブログ記事に合わせたAIアートを生成したりすることも可能だ。
推薦者:シェリー・ルオ(クリエイター兼投資家兼元プロダクトマネジャー)、デビッド・ベイセル(ネクストビュー・ベンチャーズの共同創業者兼パートナー)、ティナーシェ・チャポンダ(インフルエンサーマーケティング会社ソサニ(SOSANI)CEO)
推奨理由:推薦者たちは異口同音に、Jasper.aiはコピーライティングのエンド・トゥ・エンドソリューションとしてはレベルが高いと話す。複数のAIツールの機能をオールインワンに統合した、クリエイティブの作業を効率化するのに役立つサービスだ。
8. 背景を生成し、AIで写真編集を行う「PhotoRoom」
PhotoRoom
ツールの特徴:PhotoRoomは、テキストから画像へ変換してくれる「Stable Diffusion」のライセンスを利用し、テキストプロンプトに基づいてAIで画像の背景を生成するモバイルアプリだ。背景を変更したり、余計なオブジェクトを削除するなど簡単に画像をレタッチすることもできる。
推薦者:デビッド・ベイセル(ネクストビュー・ベンチャーズ共同創業者兼パートナー)
推奨理由:「PhotoRoomを使うと、スマートフォンで背景を変えたり、不要なオブジェクトを消したり、画像をレタッチしたりといったことができます」とベイセルは語る。
9. 機械学習の経験がなくても機械学習モデルの実行を可能にする「Replicate」
アラスデア・マンがReplicateを使って生成したジョーカーに扮した画像。
Alasdair Mann
ツールの特徴:Replicateは、機械学習を理解したりインフラを管理したりすることなく、クラウド上で機械学習モデルを実行できる。Replicateのウェブサイトによると、ユーザーは、他の人が公開したオープンソースのモデルを実行したり、独自のモデルをパッケージ化して公開することができる。
推薦者:アラスデア・マン(28万5000人の購読者を持つYouTubeクリエイター)
推奨理由:マンはReplicateを使って独自の生成モデルを訓練し、自分の写真からさまざまな画像を作成したという。他のジェネレーティブAIを使って作った画像より気に入った、とマンは語る。
また、コミュニティモデルは最新のAIの進歩に対応するのにも役立っているという。
「古い画像を復元する、画像の解像度を高める、特定のスタイルで画像を生成する。こういった用途で、Replicateのサイト上でコミュニティが作ったモデルを使っています。DALL-EやStable Diffusionといった広く使われているモデルではこういうことはできませんから」(マン)
10.短編ビデオの作成プロセスを高速化する「Supercreator.ai」
Supercreator.ai
ツールの特徴:Supercreator.aiは、AIを使って短編動画を短時間で制作できるモバイルアプリだ。動画にしたい内容を記述すると、それに合わせてAIがスクリプトやビジュアルを自動生成してくれる。
また、記事やブログのリンクを貼り付けるだけで、それを元にしたスクリプトを生成することも可能だ。さらに、AIが生成した動画に自分の姿を重ねて録画すると、不要な隙間を削除したり、キャプションを追加するなどの編集が自動的に行われる。
推薦者:アヴィ・ガンディー(パートナー・ウィズ・クリエイターズ(Partner with Creators)創業者)、ニコラ・スコロフ(インフルエンサーマーケティングの代理店インフルエンサーズ・クラブ(Influencers.Club)共同創設者兼CEO)
推奨理由:ガンディーとスコロフは、Supercreator.aiのサービスが時間と共に向上していくにつれてクリエイターは時間と労力を節約できるようになるだろうと話す。