墓から発見されたワニのミイラ。
Patri Mora Riudavets, member of the Qubbat al-Hawā team, CC-BY 4.0
- 古代エジプトの墓から、ワニのミイラ10体が発見された。
- これらは、ワニの頭を持つ神ソベクへの生け贄にされたようだ。
- ワニのミイラは珍しいものではないが、一度に10体も見つかるのは「驚くべきこと」だと、ある研究者は述べている。
古代エジプトの墓からワニのミイラ10体が発見されたことが査読付き学術誌「PLoS ONE」に2023年1月18日付けで掲載された論文で明らかになった。
2019年、エジプト南部、アスワン近郊のクベト・エル・ハワ遺跡で見つかった墓には、保存状態の良いワニのミイラ5体と、5つの頭が収められていた。
ナイル川と豊穣を司るワニの頭を持つ神、ソベク(あるいはセベク)への捧げ物としてワニが生け贄にされたとする説が有力だ。
ワニのミイラから埃を払う考古学者。
Patricia Mora
これらのワニはかなり大きく、最大のもので体長約3.7メートルだった。ワニが殺された形跡は見られないが、一緒に見つかったロープから、ワニが死ぬまで縛られていたと考えられている。
スペインのハエン大学のエジプト学者で、この論文の共著者であるアレハンドロ・ヒメネス-セラーノ(Alejandro Jiménez-Serrano)は「ワニがおそらく脱水症状で死ぬまで縛られていた証拠を発見した」とInsiderに語っている。
発掘された中で最も保存状態の良いワニのミイラ。
De Cupere et al., 2023, PLOS ONE, CC-BY 4.0
ワニには麻布で巻かれた形跡があり、埋められる前にミイラ化され、神への生け贄として捧げられたことが示唆されている。
しかし、このミイラ化の手法はかなり原始的だ。樹脂で固めたわけでもなく、内臓を取り出したわけでもない。ただ丸ごと熱い砂の中に埋めて、自然にミイラ化するのを待っただけなのだ。
ワニが水中でバランスを取るために腸の中に入れる石、ガストロリスまで体内から見つかっており、内臓が取り除かれなかったことが裏付けられた。このような手法から、ワニのミイラは紀元前5世紀頃のかなり古いものであると考えられている。
ワニの頭を持つ豊穣の神、ソベク
エジプト南部、コム・オンボ神殿に象形文字で描かれたワニの頭を持つ豊穣の神、ソベク(右)。
markgoddard/iStock/Getty Images
「我々にとって、これは大きな驚きだった」とヒメネス-セラーノは言う。
「というのも、ワニの神ソベクへの信仰があまりない地域だったからだ」
ヒメネス-セラーノによると、エジプトにおける動物の神や女神に対する信仰は、紀元前1000年代に深まっていったという。猫、コブラ、チョウゲンボウといった動物のミイラをきれいに包み、神々に捧げて願い事をするのが一般的だった。
「神に何かをお願いしたいとき、神と人間をつなぐのが動物のミイラだった」とヒメネス-セラーノは言う。
ワニのミイラは以前にも発見されたことがあるが、このようなミイラ化の手法が取られたものはなく、クベト・エル・ハワで発見されたこともなかった。
ベルギー王立自然科学研究所の古生物学者で、論文の筆頭著者であるベア・ドゥ・クペール(Bea De Cupere)は「これまでエジプトでは、20カ所以上の墓からワニのミイラが見つかっているが、荒らされていない1つの墓から保存状態の良いワニのミイラが10体も見つかったというのは驚くべきことだ」とプレスリリースで述べている。
発掘現場に最も近いソベク信仰の中心地は、クベト・エル・ハワから約50キロメートル離れたコム・オンボという町だった。だからといって、その町にソベクの神殿があったというわけではないとヒメネス-セラーノは考えている。むしろ10匹のワニが一度に殺されたという1回限りの出来事だった可能性が高いという。
「ワニを捧げ、ソベク神に願い事をする一回限りの儀式だったのだと思う」と彼は述べている。