アマゾンの新しい縦型動画機能「Inspire」。
Amazon
アマゾンは今、短い縦型動画を投稿するインフルエンサーを続々と採用している。TikTokに対抗して消費者を引きつけるためだ。Eコマースの巨人であるアマゾンが2022年12月に発表した新機能は「Inspire」と呼ばれている。
インフルエンサーマーケティングを手がけるマーベリック(Mavrck)のアソシエイトディレクターであるリンジー・ギャンブル(Lindsey Gamble)は、次のように語る。
「このアマゾンの動きは非常に重要で、短編動画の業界全体を象徴しています。誰も彼もがTikTokのような体験を生み出そうとしており、もはやソーシャルメディアの枠を超えていると思います」
ショート動画1本ごとに250ドル
アマゾンはこの機能の一般公開に先立ち、インフルエンサーの力を借りて盛り上げ、コンテンツを充実させていった。
匿名を条件にInsiderの取材に応じたインフルエンサー3人とタレントマネージャー1人によれば、アマゾンは短尺の縦型動画を投稿するクリエイターに報酬を支払ったという。
Insiderは、アマゾンが実施していたあるインセンティブのオファー内容のスクリーンショットを確認した。それによると、30秒未満の縦型動画をアップロードするごとに250ドル(最大10本まで)が支払われるというものだった。このオファーでは、動画のカテゴリーはペット、フィットネス、ホームなどが想定されていた。
別のオファーでは、インフルエンサーに「Amazonストアフロント」への動画投稿と商品へのタグ付けを求めている。コンテンツは新規作成したものでなくてもよく、アマゾンの中で新しいものであればよいと指定されていた。支払いは現金もしくはアマゾンギフトカードだ。
アマゾンのインフルエンサープログラムでは、こうした期間限定のインセンティブを新規プロジェクトまわりで実施することがあるという。このようにひっそりと行われる支払いインセンティブは、Instagramのリール再生ボーナスプログラムやYouTubeショートの報酬制度にも似ている。
2020年末から2022年初頭にかけて、アマゾンはYouTubeやTikTokから複数のインフルエンサーを採用した。クリエイターがアプリ上で直接ライブ配信し、ファンに商品を販売するライブショッピング機能「Amazon Live」用のコンテンツ制作のためだ。
Insiderが閲覧した電子メールによると、アマゾンは月額2000〜9000ドルの報酬を提示していた。
こうした期間限定のインセンティブに加え、インフルエンサーがInspireから収入を得る主な方法は、Amazonストアフロント経由で購入が発生した場合と同じく、自身の動画がきっかけで購入が発生した場合に売上の一部が得られるというものである。アマゾンのアフィリエイトプログラムが提示している固定報酬は1〜20%だ。
クリエイターはInspireに期待
あるインフルエンサーは、InspireのアルゴリズムがTikTokの「For You」ページと比べてどうなのか興味があると語る。
Inspire機能を初めてクリックすると、20のカテゴリーから配信される動画の種類を選択する。するとTikTokのようなフィードで動画や写真を閲覧することができる。また、動画の下には注目の商品が表示され、これを選択すると購入したり詳細情報を閲覧したりといったことができる。
アマゾンはInsiderに対し、「(Inspireは)顧客の興味や関心を通じて、顧客の嗜好をさらに学び、ショッピング可能なコンテンツのフィードを引き続き調整していく」と語り、今後もショッピングに役立つ機能やアプリ内機能、コンテンツを追加していく予定だという。
クリエイターがアマゾンのインフルエンサープログラムに参加すると、そのクリエイターの「ストアフロント」に投稿されたコンテンツはInspireへの掲載対象となる。
クリエイターの動画内で紹介された商品を買い物客が購入すると、クリエイターには売上の一部が入る仕組みだ(ただし、具体的なレートについては未確認)。このモデルは、LTKやMagicLinksといったプラットフォームが採用しているアフィリエイトに近い。
クリエイターは、Instagramのリール、TikTok、YouTubeショートなど他のプラットフォームで制作したコンテンツを再利用することもできる。アマゾンで売られている商品を特集してタグ付けすれば、アマゾンでショッピング可能な動画に仕立てられるというわけだ。
Inspireは、2022年12月にアメリカ在住の一部の顧客向けに展開を開始し、今後数カ月で全米の顧客に提供される予定だという。
TikTokに似たInspireの登場により、アマゾンでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)動画が急速に増えていく可能性がある。TikTokは最近、UGC広告を急ピッチで広げている。これは、企業がクリエイターにお金を支払って商品やサービスをおすすめしてもらうタイプの広告だ。
通常のスポンサー付きコンテンツとは異なり、UGCはインフルエンサーが直接行うのではなく、ブランド自身のチャンネルで公開される。アマゾンのInspireに掲載されるコンテンツはインフルエンサーのアカウントに掲載されるため、従来のUGCと全く同じというわけではない。
しかし、Inspireのメインフィードはクリエイターのフォロワー数に依存しないため、UGCと同様にフォロワー数の少ないクリエイターにも収益を上げるチャンスがある。
UGCを制作する2人のインフルエンサーはInsiderの取材に対し、Inspireは小規模なクリエイターがブランドと関係を築き、売上を伸ばすチャンスになると思う、と話す。
このインフルエンサーたちはまだInspireへのアクセス権がないが、販売者(セラー)の中には商品を提供してレビューしてもらう者もおり、Inspireはブランドが小規模なコンテンツクリエイターと協力する新しい方法になるかもしれない、と期待を見せる。