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グーグル(Google)の親会社であるアルファベット(Alphabet)は、時間をかけた末にようやく決断を下した。混迷する経済状況に備えるシリコンバレーの大手テック企業と同じく、大規模なレイオフを実施するという。
1月20日、アルファベットおよびグーグルのCEOであるサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)はグーグルの従業員に対し、同社が約1万2000人分の雇用を減らすという「難しい決断」を下したことをメールで伝えた。人員削減の対象となるアメリカ国内の従業員たちは、すでにこれに関連するメールを受け取っている模様だ。
ピチャイは後に同社のブログにも掲載されたこのメールの中で、この決断は「我々が苦労して採用し、共に働けることを嬉しく思ってきた、とびきり優秀な人たちに別れを告げる」ことを意味すると記している。
「心より申し訳なく思っています。この変更がグーグルの従業員の生活に影響を与えるという事実が、私に重くのしかかっています。ここに至るまでの意思決定の全責任は私にあります」(ピチャイのメールより)
ここ数カ月で、アマゾン(Amazon)、マイクロソフト(Microsoft)、セールスフォース(Salesforce)などのテック大手は数千人規模の人員削減に踏み切っており、今回のアルファベットの動きも業界ウォッチャーの間では広く予想されていた。
マイクロソフトがさらなる人員削減を計画しているとInsiderが報じた後、バーンスタイン(Bernstein)のアナリストは1月18日にこう記している。「なぁグーグル、おたくの島からどんどん人が減ってるぞ!」
今回のアルファベットの決定はさして驚きではない。ピチャイはこれまでもレイオフを否定してはおらず、同社が逆風に対処する必要があることを認めていた。以前は事業の効率を20%向上させる計画も発表していた。
それに同社の収益性の問題を踏まえれば、この決定はいわば必然とも言えるだろう。バーンスタインの推定では、人員削減を行わなければ同社の利益率は前年度同期比で7.4%ポイント低下する。これに対し、1万人の人員削減を計画しているマイクロソフトの利益率は前年同期比でわずか1.8%ポイントの減少(バーンスタイン推計)だ。
アメリカの金融界ではアルファベットも大量解雇は不可避との見方が強かったが、ついにそれが現実のものとなった。賢く的確な人員削減と統合によって、グーグルがこの難局を乗り切る可能性はあるだろう。
バーンスタインのシニアアナリスト、マーク・シュムリク(Mark Shmulik)はInsiderの取材に対し、次のように話す。
「非常に現実的かつ迅速なコスト削減策の発表がなければ、投資家が積極的に我慢してくれるようなストーリーを組み立てることはますます難しくなるでしょう」
ピチャイはブログの中で、「製品分野や職務を問わない厳密な見直し」が行われたと述べ、削減される役職は「アルファベット、製品分野、職務、レベル、地域を横断する」ものになるとした。具体的にどの分野が影響を受けるのかは言及しなかった。
以降では、経済状況への不安が高まるなか、アルファベットが全社にわたってどのようにコストを削減しそうなのかを見ていく。
ハードウェア
グーグルのPixel 7、Pixel Watch、Pixel Buds。
バーンスタインのシュムリクいわく、グーグルのデバイス部門は、今すぐにそれなりのコストを削減したい場合に目を向けるべき「かろうじて損益分岐点にある事業」だ。グーグルは最近、同社のゲーミングプラットフォーム「スタディア(Stadia)」のサービスを終了している。
グーグルのスピーカー「Nest」をはじめ、同社のスマートホームデバイス製品も削減対象になるおそれがある、とシュムリクは言う。アマゾンのスマートデバイス事業は数十億ドルの損失を出していることから、グーグルがこの分野での取り組みを縮小したいと考えてもおかしくない。
「ホームスピーカーを巡る競争は尻すぼみに終わった格好です」(シュムリク)
同社はウェアラブル分野も合併整理をするかもしれない。Insiderの既報のとおり、グーグルは自社製のPixel Watchに注力するためFitbitブランドのデバイスを縮小している。
グーグルのスマートフォンPixelは、今も同社にとって貴重な資産であることに変わりはない。アップル(Apple)やサムスン(Samsung)に比べれば売上規模は見劣りするものの、Androidと検索機能をより広く普及させる手段として価値を保っている。グーグルはiPhoneをはじめとするデバイスでもデフォルトの検索エンジンとなるために、年間120億ドル(約1兆5000億円、1ドル=130円換算)もの金額をアップルに支払っている。
なおインフォメーション(The Information)は2022年10月、Androidを搭載したサムスンのスマートフォンからシェアを奪ったAppleの脅威を食い止めようと、グーグルは自社ブランドのハードウェアにより注力する狙いだと報じている。
X
アルファベットのムーンショット部門「X」を統括するアストロ・テラー(Astro Teller)。
Jamie McCarthy/Getty Images
アルファベットのムーンショット部門であるXは、長期的なビジネスと革新的な技術を探求している組織だ。しかし同部門は最近、より短期で収益化しやすい、より商業的なアイデアに重点を移している。
例えば、同部門は2022年、AIとロボット工学の力を活用してイチゴ農家の品質向上を支援するドリスコルズ(Driscoll's)と提携した。これなどは、より現実的な目標への軌道修正を示す一例だ。
とりわけ、Xはこれまで事業面において大きな勝ち星を生み出せていないため、内部関係者の間では、アルファベットが近い将来、Xのプロジェクトの中でもより未来志向なものを中止したり、人員削減に踏み切ったりするのではないかと懸念する声も上がっている。
Xからスピンアウトした自動運転技術開発のウェイモ(Waymo)は収益を上げ始めているが、黒字化までの道のりは相当長そうだ。
Chrome
Google Chromeは最もユーザー数の多いウェブブラウザだ。
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ウェブ解析サービスのStatcounterのデータによると、Chromeは世界のブラウザ市場シェアの3分の2近くを占めている。これはつまり、グーグルには検索機能だけで30億人以上のアクティブユーザーがいるということであり、Chromeはグーグルにとって最も価値ある資産の一つといえる。
にもかかわらずChromeチームも縮小される可能性があると、バーンスタインのアナリストは最近の文書で述べている。同社によれば、Chromeにはおよそ500人が携わっているという。この部門なら、市場シェアへの影響を最小限に抑えつつコスト削減ができるかもしれない。
バーンスタインのシュムリクは、「私が知る限り、ブラウザ競争が起きている状況でもありません」と指摘する。
その他の投資
アルファベットの自動運転技術開発事業、ウェイモ。
REUTERS/Peter DaSilva
アルファベットの収入と利益のほぼすべては、巨大な検索事業からもたらされてきた。多くのアナリストは、同社の検索事業はこれまでに作られた事業の中でも最高傑作の類かもしれないと言う。検索事業が利益をもたらしてくれたことで、同社はこれまでGmailからChromeまでさまざまなアイデアに資金を投じることができたのだし、こうした投資のいくつかが実を結んできたことで投資家たちも見て見ぬふりをしてきた。
だが検索事業の成長が鈍化するにつれ、その傾向も変化した。2015年以来、アルファベットの最高財務責任者(CFO)であるルース・ポラット(Ruth Porat)は、社員が考えつくあらゆるアイデアに資金を投じるのではなく、より戦略的に支出するよう訴えてきた。
そして今、アルファベットは損益分岐点が見えないまま数十億ドルを使い果たしてきた投資(バーンスタインはこれを「ブラックホール」と呼んでいる)について詳しく検討し直している。
1月11日、アルファベットのヘルスケア事業であるVerilyは、従業員のおよそ15%をレイオフすると発表した。Verilyは糖尿病の追跡から蚊が媒介する病気の減少まで、ヘルスケア関連の幅広いプロジェクトに注力しているが、こうした手当たり次第のアプローチが批判を浴びてきた。
もう一つの“金食い虫”は、先述した自動運転技術開発のウェイモだ。ウェイモは創業から14年経つが、いまださしたる収益を上げられていない。
Google FiとFiber
George Frey/Reuters
MVNOサービス「Google Fi」、および光ファイバーインターネットサービス「Google Fiber」は、同社の「その他の投資」の中に埋もれている。これらの投資が生み出す有意義な収益はほぼゼロに近いだろうと、バーンスタインのアナリストは推定している。
2010年、より高速なインターネットスピードの普及を目指し、グーグルはインターネットサービス「Fiber」を鳴り物入りで世に送り出した。しかしそれ以降、Fiberがグーグルの中核事業となることはなく、2016年には事業の拡大計画が中断された。コムキャスト(Comcast)やAT&Tが競合製品を展開し始めるとFiberは分が悪くなったが、Fiberは2022年、長い休止期間を経て拡大計画を再開すると発表した。
2015年に開始されたグーグルのもう一つのインターネットサービス「Google Fi」は、ベライゾン(Verizon)やT-Mobileなどと競合するワイヤレスサービスだ。
どちらのサービスも成長がほとんど見込めないうえ、ライバルの多い市場で競争している。その結果、グーグルがこれらの分野で事業を縮小するかもしれないのは無理からぬことだ。利益や成長がなければ、ここに投資する理由はあまりないかもしれない。
Google MapsとWaze
グーグルは2013年にWazeを買収した。
Waze
Google MapsとWazeは、グーグルの主力商品である。ユーザーがレストランなどの施設を検索する際に表示される広告ピンや広告表示を通じて、直接的な収益を上げている。
MapsとWazeは、位置情報サービスを提供することで中核事業である検索エンジンにも貢献しており、ユーザーが目的地にたどり着くのにも便利だ。ユーザーが検索機能を使って見つけたレストランやヘアサロンなどに同社の位置情報サービスを使ってたどり着いたことを広告主に示せれば、グーグルの地域広告ビジネスにとっても有益である。
2013年にWazeを10億ドルで買収して以来、グーグルはその機能をMapsに追加してきた。現在では、道路の交通量や前方に事故があるかどうかを表示するなど、Wazeが普及するきっかけとなった機能と同じことがMapsでもできるようになっている。
Wazeが狙うマーケットは限定的で、この先どこに向かっていくのかが不明瞭に見えることもあり、アメリカの金融界は近年、Wazeを敬遠している。しかも、Google Mapsの主要なサービスの利用者数が10億人以上いるのに対し、Wazeのアクティブユーザー数はたったの1.4億人だ。
2022年末、グーグルは組織全体の効率化を図るべく、MapsとWazeのチームを統合すると発表した。WazeのCEOであるネハ・パリク(Neha Parikh)は、移行期間を経て退任する予定だ。これらのことから、500人規模と言われるWazeの人員はさらに削減される可能性がある。
Google Playストア
Google Playストアは利益率が高い事業だ。
グーグルは、Androidユーザーにとってなくてはならない存在であるGoogle Playアプリストアを介して、発生する取引から手数料を徴収している。ここでの利益率は高く、2019年のGoogle Playストアの売上高は112億ドル(約1兆4500億円)、利益は85億ドル(約1兆1000億円)であったことが同年の独占禁止訴訟の際に明らかになっている。
しかし、規制当局に加えて、アプリストアの手数料の高さに不満を持つ開発者も機をうかがっており、反発を招く可能性もある。そのため、売上が伸び続けても利益率は多少下がる可能性があると、バーンスタインは予想している。その損失を補填するため、グーグルが従業員数を削減するという可能性もあるだろう。
Googleポッドキャスト
グーグルは、ポッドキャストの戦略をYouTubeにシフトし、独自の専用アプリから離れつつあると報じられている。これはGoogleポッドキャストというプロダクトの消滅にもつながりかねない。2020年の大幅刷新を含め以前は定期的にアップデートされていたが、ここ1年以上はアップデートされていないと、9to5Googleは報じている。
ポッドキャストの人気は近年急上昇しており(2022年には減速したが)、動画を取り入れる番組が増えたため、YouTubeはポッドキャスト市場への投資を開始した。2021年にはポッドキャスト部門の責任者を採用し、現在はサイト内に専用コーナーを設け、ユーザーが人気の番組を探せるようにしている。
このように、グーグルがエンターテインメントのフォーマットをYouTubeブランドの下に移行させようとする動きは、今回が初めてではない。グーグルは以前、音楽ストリーミングアプリであるGoogle Play Musicを廃止し、YouTube Premiumに付属するストリーミングサービスであるYouTube Musicに移行した。
同社はGoogleポッドキャストの廃止を決定してはいないが、プロダクト提供をなるべく簡素化したがる同社の特性を考えれば、そうなったとしても不思議はない。