2023年の株式市場は「ロケットスタート」とも言える好調な滑り出しだが……。
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苦難に満ちた2022年が過ぎ去り、新たな年が明けた期待感から、2023年1月の株式市場は景気良く幕を開けた。
1月19日に大幅急落を経験したものの、翌日には再び回復に転じ、直近(1月23日)の終値は年初来5.1%の上昇となっている。
しかし、スイス金融大手UBSの富裕層向け資産運用部門グローバル・ウェルス・マネジメント(Global Wealth Management)のマーク・ヘイフェリ最高投資責任者(CIO)は、短期的な市場変動の影響を除いて考えると、相場回復に期待する投資家たちの先走りが行きすぎている可能性が高いと指摘する。
「米小型株やユーロ圏、新興国市場、中国株など、景気サイクルが回復局面に転じた場合に恩恵を受けるアセット(資産)を物色する動きが見られますが、足元の相場上昇はいわゆる『ヘッドフェイク』(当初の動きは見せかけで、すぐにその逆方向に相場が動くこと)にすぎず、期待は裏切られる結果になるかもしれません」
下半期に向かって状況は変化する
インフレは数カ月ぶりの低水準(12月の米消費者物価指数は前年同月比6.5%上昇)まで下がったものの、変動の大きい食品・エネルギーを除くコア指数はエコノミストによる適正目標インフレ率をはるかに上回ったままだ。
この数字をさらに一定の意味を持つ水準まで引き下げようと思えば、相当苦しい戦いを求められることになるとヘイフェリ氏は予測する。
「インフレの脅威が完全に去ったと考えるのはまだ早すぎます。コア指数は予想以上に高止まりを続ける可能性があり、それは依然として市場にとってのリスク要因の一つです」
インフレ率が下がりきらない背景には、堅調な賃金の伸びなど労働市場が力強さを維持している現状があると思われる。ヘイフェリ氏は特に、2022年12月の失業率が3.5%と50年ぶりの低水準を記録したことに着目する。
「こうした力強さは、米連邦準備制度理事会(FRB)がこだわるインフレ目標(2%)の達成とは相容れないと私たちは考えています。とは言え、労働市場のある程度のレジリエンス(強靭さ)は、景気低迷が深刻化して景気後退にまで至るのを防ぐのに欠かせません」
インフレの沈静化局面における粘着性に対するヘイフェリ氏の懸念は、TDセキュリティーズのプリヤ・ミスラ氏ほか多くの投資家たちも指摘してきたことだ。
例えば、センター・アセット・マネジメントのジェームズ・アバーテ氏は最近、Insiderの取材に対し、「軽度のスタグフレーション(景気停滞時の物価上昇)」環境とマクロ経済の低成長が相まって、S&P500種株価指数が今後数カ月で9%下落するとの予測を語っている。
また、FRBの金融引き締めが間もなくペースダウンもしくは終了し、2023年半ばには経済成長に転じるという現在の市場コンセンサス(一致した見方)について、ヘイフェリ氏は金利上昇がもたらす帰結をあまりに楽観的に考えすぎていると指摘する。
「私たちはもう一つ、実現性の高いシナリオを想定しています。
FRBによる一連の利上げサイクルが景気への深刻な打撃として反映されるのは、この高金利環境のもとで家計や中小企業が(住宅ローンや運転資金の)リファイナンスを行う2023年後半になると思われます。
したがって、年明けのロケットスタートはもちろん歓迎すべきことですが、一方で当社の顧客に対しては、リスク許容度の高い投資家が(景気後退に向かって調整局面に入る)ターニングポイントに注意を傾け始める頃合いでもあり、先行きへの期待にとらわれて自己満足に陥らないよう助言しています」
債券市場とエネルギー市場に注目
これらのシナリオ想定の結論として、ヘイフェリ氏は引き続き、ハイグレード(高格付け)債券や投資適格債券とともにディフェンシブセクターの株式銘柄を選好する。
アメリカが目下直面しているような企業利益の減退局面においては、生活必需品やヘルスケア、公益事業セクターの優良・高配当銘柄が、力強いレジリエンスと安定したキャッシュフローを武器にアウトパフォームする傾向がある。
アメリカは2023年に「市場にとって考えられる限り最悪のマクロ要因の組み合わせ」に直面すると想定されており、米投資顧問会社リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズ(Richard Bernstein Advisors)のダン・スズキ副最高投資責任者(Duputy CIO)も、短期枠で上記3セクターへのエクスポージャーを取っていると、Insiderに明かしている。
また、見落としてはならないのは、債券利回りがここ数年で最高水準にあることだ。
米BNYメロン・ウェルス・マネジメント(BNY Mellon Wealth Management)のレオ・グロホウスキレオ・グロホウスキ最高投資責任者(CIO)らウォール街のベテランたちは、投資家に債券の買い時を見逃さないよう訴えている。
「投資適格社債は現時点ですでに、国債に対して魅力的なスプレッド(上乗せ利回り)で取引されていますが、これから景気への懸念がさらに高まれば、スプレッドはもう少し拡大するかもしれません」
さらに、ヘイフェリ氏はエネルギーセクターにまだリターンを求める余地があると指摘する。2022年に驚異的な上昇を記録した後にも関わらず、だ。
「石油市場ではタイトな需給が続いているため、当社の価格見通しはポジティブのままで変わりありません」
グローバルエネルギー株を引き続き選好する具体的な理由として、ヘイフェリ氏はロシアからの石油・天然ガス供給減と、中国のゼロコロナ政策終了および経済活動の再開による需要増とのアンバランスを挙げる。