HARUMI FLAGの建築家が明かす「建築デザイン×暮らし」のよりよい関係

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提供:HARUMI FLAG

東京・湾岸エリアの象徴となる新しい街「HARUMI FLAG」(東京都中央区晴海)。2024年4月以降に街開きが行われ、住居棟だけでなく図書館やこども園、BRT(バス・ラピッド・トランジット)なども本格始動していく予定だ。

25名の多彩なデザイナーが集結しデザインガイドラインを踏襲しながらも、一棟一棟に個性を発揮して、全体的に調和のとれた街を目指した。

中でも人が集まる「街の中心部」は、どのようなコミュニケーションやにぎわいを生むことを考えてデザインされたのか。

中央通りに面した街区のデザインを担当した光井純&アソシエーツの佐藤秀人氏に、コンセプトやデザインの創意工夫、そして街への期待を聞いた。

多様性と調和。相反する概念をどう融合させるか

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光井純&アソシエーツの佐藤秀人(さとう・しゅうと)氏。1979年千葉県生まれ、秋田県出身。2005年多摩美術大学美術学部環境デザイン学科卒業。同年に光井純&アソシエーツ建築設計事務所入社。集合住宅、オフィス、公共施設など多数の実績を持つ。

これまで数々の大規模プロジェクトに関わってきた佐藤氏だが、「約13ヘクタールの敷地内に分譲・賃貸住宅、商業施設を含めた24棟もの建物が一気に建ち上がるプロジェクトは聞いたことがなく、選手村ゆえの特別な体験だった」と語る。

「中心軸をしっかりとつくり、その周りでさまざまなデザイナーが個性を発揮していくことが、街としての多様性につながる」というのが、HARUMI FLAGのマスターアーキテクトを務めた光井純氏の考え方だ。

「周囲の建物へとバトンをつないでいくようなデザインリレー」と「個性のバランス」は最大のテーマで、25名の建築家が集まる打ち合わせでは、毎回白熱した議論が展開されたと言う。

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プロジェクトの立ち上げ当初から関わってきた佐藤氏は、中心軸にあたるエリアの6棟をデザイン。レインボーブリッジ側に顔を向けた5街区・6街区のA棟に加えて、街区の間を通る中央通りを挟んで正対する、5街区のE・F棟と6街区のB・C棟を担当した。

提供:HARUMI FLAG

「A棟は、レインボーブリッジ側から見た遠景への顔づくりを意識しました。

一方でその他の棟は、HARUMI FLAGの中心軸である中央通りを挟んで唯一正対しています。なおかつ低層には商業施設が入っていて、これはほかの街区にはない特徴です。そういう意味でも、特に“中心軸の賑わい”を意識しました」(佐藤氏)

HARUMI FLAGの中で6棟を一人のデザイナーが担当するケースは他になく、佐藤氏は特に街区全体で多様性を保ちつつも調和を図るという、難しい課題を解かなければならなかった。

「6棟をすべて異なるデザインにしすぎると調和が取れない。逆に、すべてのデザインが似通いすぎていても多様性にはほど遠い。

そこをどうコントロールしながら表現していくのか、ガイドラインにもあるデザインリレーをいわば一人で行いながら、隣棟デザイナーにどうつないでいくかを特に気にかけてデザインしていきました」(佐藤氏)

海側から内陸にかけて展開される、真・行・草

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提供:HARUMI FLAG

そこで佐藤氏が設定したコンセプトは「海風の繋がりがつくる街の中心軸」。この言葉には、どのような思いが込められているのか。

「街の外観として、レインボーブリッジ側からの遠景は圧倒的なポテンシャルを持っています。

そこでやはり、海側を大切にした上で、海辺から吹いてきた風がゆるやかに内陸まで抜けていくように6棟のデザインをつなげていってはどうだろうと思い、コンセプトを設定しました」(佐藤氏)

まずは、海側から陸側に向かって変化する海風の移ろいを、L字型のファサードで表現。横基調のデザインフィンのついた手すりを配置し、埠頭の先端から受けた海風を隣棟へ受け流すイメージをつくった。

「加えて、日本らしい『和』の雰囲気をどう取り入れるかという課題も、各デザイナーに与えられていました。

そこで隠れテーマとして取り入れたいと思ったのが、書道を始め、華道、茶道など日本文化に多岐にわたって用いられる概念『真(しん)』『行(ぎょう)』『草(そう)』の考え方です」(佐藤氏)

真=フォーマルな様式、行=日常(中間)の様式、草=自然のままの自由でカジュアルな様式として、建築にも浸透している概念だ。

海側から見て正面に位置する左右のA棟をフォーマルな横基調のデザインに(真)。そこから内陸に進むにつれてファサードは徐々にカジュアルに変化し(行)、最終的に海辺から一番離れた街区の中庭を人々が囲んで賑やかにリラックスしているイメージ(草)を作り上げた。

「遠景は他の棟との調和を考え、近景はファサードの作り込みや陰影にこだわって設計を行いました」(佐藤氏)

自然な「街の賑わい」を生み出す仕掛け

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提供:HARUMI FLAG

前述の通り、佐藤氏が手がけた棟の低層階には商業施設が入る。そこに街の賑わいが生まれるための工夫として、店舗のファサードには木調やメタルの素材感を取り入れた。

「人が集まり賑わう商業施設には、木調ルーバーによるランダムな格子デザインや暖簾をモチーフとしたメタルファサードなど、住宅ファサードとは異なるデザインアプローチを取り入れる試みをしました」(佐藤氏)

住む・暮らすことだけでなく、集まることで自然と賑わいが生まれるデザインを目指した佐藤氏。今後、この大規模な街を人々にどのように楽しんでもらいたいと考えているのだろうか。

「五輪選手たちが選手村を思い思いに楽しんだように、企画・設計側が想定した使い方や暮らし方だけをするのではなくて、何か一つのきっかけやアイデアで我々が予想もしなかった楽しみ方をしてもらえたら嬉しいですね。

そうしてどんどん素敵な場所へと発展していったら面白いなと思います。

これだけ広く、豊かな外部空間もあるので、居住者同士や遊びに来た人とのコミュニケーションも活発に生まれるでしょうね」(佐藤氏)

もちろん、住まいが「心からリラックスできて帰りたくなるような場所」であることは大前提だ。海風や緑を感じ「心地がいいな」「暮らしやすいな」と肩肘張らず過ごせる街が理想だと語る。

訪れる人や住む人にデザインの意図を汲み取ってもらうことは、つくり手が必ずしも重要視していることではない。さりげなく施したデザインや工夫が、自然とそこに住まう人の暮らしを豊かにすることが、何よりの喜びなのだ。

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HARUMI FLAGについて、詳しくはこちら。

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