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グーグルは過去20年以上にわたり、テック業界の才能ある人材に対して高い賃金、手厚い手当、雇用保障を提供してきた。しかし1万2000人もの社員にとって、その幕切れはあまりにも唐突だった。安定や繁栄といった社内の雰囲気も消え失せてしまった。
緊迫の全社集会
1月23日に開かれた全社集会では、不安に駆られたグーグル社員たちから経営陣に対して、解雇に関する質問が矢継ぎ早に飛んだ。低迷期の上場企業で働く苦難に突如として晒される格好となった社員の間にはショックが広がっていた。
ある社員は、質疑のためにこんな質問を投稿した。
「解雇はただの思いつきに見えます。私はグーグルが好きですが、今はショックを受けています。分かるように説明してください」
この社員や同僚たちにとってショックだったのは、解雇対象者の中には高い成果を上げていた社員や、勤続年数の長い社員も含まれていたことだ。質問には「これからも真面目に働くべきでしょうか? そうすることに意味があるのでしょうか?」とも付け加えられている。
別の社員は、高い勤務評定を受けたり、成果を上げたりしていても将来解雇される可能性があるということに社員たちは不安を感じるだろうと話す。
「こんな解雇騒動の後で、どうやって心理的安全性を取り戻せと言うんでしょう?」
グーグルはこれまで「心理的安全性こそ第一」と強調してきたと、イギリス在住の別の社員は語る。
にもかかわらず、グーグルは早朝のたった1通のメールで解雇を通知し、解雇対象者については管理職への相談もなく、「社員のことを知りもしないバイスプレジデントたちによって選ばれた」という。この人物も、高い成果を上げる社員や移民ビザで働く人々も解雇されたと明かす。
こうした失望の声は、グーグルにとって特に危険だ。同社は長年、働きやすい職場を売りにしてきたからこそ、業界最高クラスのエンジニアや技術スペシャリストを大勢集めてこられたのだし、成長もできたのだ。だが今回の解雇騒動でその評判に傷がつけば、今後は才能ある人材を採用するのに苦労するかもしれない。
「『心理的安全性』とは不確実性を取り除くことではない」
全体集会で心理的安全性に話が及ぶと、グーグルの最高業務責任者(CBO)であるフィリップ・シンドラー(Philipp Schindler)も発言した。
シンドラーによれば、心理的安全性とは「みんなが安心して声を上げ、進んでリスクをとり、フィードバックを歓迎し、ミスを犯し、現状に疑問を投げかけることができるような環境」を指すのだという。
グーグルの最高業務責任者、フィリップ・シンドラー。
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「あらゆる不確実性を取り除くことが『心理的安全性』だと解釈するなら、それは無理な相談です。私たちにできるのは、事業の中で最優先すべきものを明確にし、それに集中し、混乱を最小限に抑えることです。現実の世界では、時に外部環境に合わせて優先順位を調整する必要もあるでしょう。それが今ここで起きていることです」(シンドラー)
シンドラーやサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOをはじめとする経営陣は、今回のレイオフは思いつきなどではないと強調する。長い目で見て会社の健全性にとって何が最善なのか、さまざまな計画と分析を重ねた末に決定した結果だという。残った社員たちに対して、今後もしっかり働くよう呼びかける重役たちもいた。
ピチャイの説明では、好業績の社員や勤続年数が長い社員ほど解雇の影響を受けにくいという。
グーグルの人材開発チームを率いるブライアン・グレイサー(Brian Glaser)は、心理的安全性とはいかに「本音の」会話ができるかだというシンドラーの言葉を繰り返した。
「つまり、非常に難しい決断を下し、耳の痛いニュースでも伝えられるという意味です。私たちの誰一人として、キャリアが変わる可能性からは逃れられないのです」(グレイサー)
なお、グーグルはこれまでのところコメントの要求に応じていない。