マイクロソフトのHoloLens。
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- シリコンバレーの企業は、コンピューティングの次の大きなものとして、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)の技術を中心に据えている。
- しかし、「メタバース」の定義はあいまいで、技術的にも複雑であり、さらに、需要があるという証拠はほとんどない。
- そのため、メタバースはコスト削減の主要なターゲットになっている。
シリコンバレーの次のビッグアイデアが、厳しい現実にさらされそうだ。
先週、アップル(Apple)とマイクロソフト(Microsoft)は、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)を含む投機的なプロジェクトを一時停止したと報道された。
ブルームバーグ(Bloomberg)が伝えたところによると、アップルは技術的な課題を理由に、噂になっていたARメガネの開発を延期した。マイクロソフトは、1万人に影響を与える広範囲なレイオフ計画の一環として、HoloLens部門に大鉈を振るうことになった。
そして、メタバースに対するマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOの絶対的な信念に敬意を表して社名を変更したメタ(Meta)でさえ、先に大規模なレイオフの一環として、赤字のReality Labs部門のスタッフを解雇した。
メタバースは緩やかな概念であり、これを裏付ける証拠はほとんどないにもかかわらず、ARとVRがコンピューティングの未来であるという漠然とした理論を総称する言葉だった。
大手ハイテク企業は好況の間、このような定義が曖昧で具体性のないコンセプトに手を出し、ARとVRの技術を構築するために高給のエンジニアを雇用していた。しかし、2022年の株価の低迷、技術的なハードルの高さ、半導体への地政学的影響、大量のレイオフなど、すべてがこの未だ実現しないコンピューティングコンセプトの破滅を告げている。
技術的な悪夢
AR/VRのヘッドセットやウェアラブルデバイスを作ることは、本当にコストがかかり、難易度が高いということだ。
アップルは、主要なハイテク企業の中で最も経験豊富で一貫したハードウェアメーカーだが、ARグラスの製造という挑戦に尻込みしていると伝えられている。
同社はARとVRの両方の要素を含む複合現実型ヘッドセットを2023年中に発表すると伝えられており、まだ完全にその夢をあきらめたわけではない。
一方で、すでに市場に出ているライバル企業の初期段階の製品は、技術的な問題で批判を浴びている。
マイクロソフトは、HoloLensヘッドセットで市場にそれなりに早く参入したが、その最大の顧客の1つであるアメリカ軍との間で問題に遭遇している。マイクロソフトは、2021年に5年間の延長オプション付きで218億8000万ドル(約2兆8400億円)相当の5年契約を結び、兵士向けにHoloLens技術をベースにしたヘッドセットを12万台以上生産することに同意した。
アメリカ軍は、マイクロソフトのHoloLens複合現実ヘッドセットの供給を求めている。
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しかし、訓練用に生成された3D地形ホログラムを使って、「兵士が 煙の中や曲がり角の向こうを見通すのに役立つ」とマイクロソフトが説明しているこのデバイスは、軍が期待する基準を満たすのに苦労している。
Insiderは以前、このデバイスが、兵士が快適に過ごすために必要な条件である、低照度下での視認性の問題に悩まされていると報告した。その他にも、ヘッドセットを装着時の周辺視野の狭さや、デバイスが光って見つかりやすくなるなどの問題が報告されている。
グーグル(Google)とアリババ(Alibaba)が支援し、数億ドルの資金を吸い上げた新興企業であるMagic Leapは、2台目のヘッドセットを開発中だが、レイオフやCEOの交代を経てもなお、主流にはなっていない。
そして、この1年で株価が急落したメタは、2019年からReality Labsに360億ドル(約4兆7000億円)以上を投資しているが、まだメインストリームで成功したと言えるようなものは出てきていない。
需要が低迷している
メタバースとその初期段階の技術に関連するもう一つの大きな課題は、誰かがそれを求めているのかが明確ではないということだ。
目新しさ以上のものを提供しない高価なデバイスを購入する準備ができている消費者は少数だろう。メタのザッカーバーグがメタバースにおける漫画のような人物であるプロトタイプの画像は、不格好なヘッドセットを買うことがお金を払う価値があるという考えを消費者に売り込むのにあまり役立っていない。
簡単に言うと、メタバースは未熟で、支離滅裂な技術的コンセプトであり、誰もがそれを望んでいるという証拠はほとんどなく、作るにはお金がかかる。株主や投資家が、コストを削減し、広告やサブスクリプションのソフトウェアのような、あまりセクシーではないが売れるものに注力するよう求めているときに、メタバースに注力するのは悪いことのように思える。そのため、人員削減を行う企業が、高価な実験装置や部門を削減するのは驚くことではない。
実際には、それを望む人がほとんどいないこともすでにわかっていた。1500ドル(約20万円)のグーグルグラスを覚えているだろうか。
Magic Leapは現在、企業向けアプリケーションに注力しており、ヘッドセットをより小型化して、消費者に受け入れられる方法を見出してから「消費者向けに戻る」ことになると、CEOのペギー・ジョンソン(Peggy Johnson)は先週のダボス会議でInsiderに語った。
PP Foresightのアナリスト、パオロ・ペスカトーレ(Paolo Pescatore)にとって、現時点では「まったく需要がない」ことは明らかだ。特に「生活費の危機」の最中には。
市場分析企業CCS Insightの12月の予測では、2021年から2022年にかけてのARとVRのデバイスの出荷台数は前年比12.7%減の960万台になると示唆されている。2023年の出荷台数の予測は1140万台と非常に小幅な増加となっている。
ペスカトーレは「今が新しいプレミアムデバイスを発売するのに適した時期なのかどうかは疑問だ」と述べている。
「メーカーは、非常に困難な分野であることが分かっている中で、需要を喚起しようとしている」と彼は言い、これらのプラットフォームが継続的にどのようにお金を稼ぐかは明確ではないと付け加えた。
「ブランドや広告主が突然飛びつくようなことはないでしょう」
ARやVRのデバイスが、マニアやゲーマーなど、ある種の消費者の間で普及する可能性はある。しかし、メタバースがすぐにあなたの携帯電話に取って代わるとは思わない方がいい。