実質GDPとは何か? エコノミストや政府が経済管理に使うツールを理解しよう

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実質GDPを分析することで、最終的にすべての人に影響を与える金融・財政政策が動き出す。

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  • 実質国内総生産(GDP)は、一国で生産されたすべての財とサービスからインフレやデフレを調整し、金額で表した指標だ。
  • エコノミストは他の計算方法よりも実質GDPを好む。実質GDPは物価変動を調整した後の数値のため、生産の伸びをより正確に表すからだ。
  • 実質GDPに対する市場や政府の反応——例えば、金利や税制の変更——は、個人やその投資判断に影響を与えうる。

経済の健全性を評価できれば、政府は財政政策を立案し、中央銀行は金融政策を決定し、企業は将来や雇用についての計画を立て、個人は生活に備えるのに役立つ。

国内総生産(GDP)は、さまざまな分野で使われる主要評価ツールの1つだ。

国内総生産という名が示す通り、GDPは一国の経済産出量すべて、つまり一定期間に生産された財とサービスすべてを測定する。大まかに言えば、ある国全体の金融の健全性を測るもので、経済が成長しているのかそれとも減速しているのかを示唆する。

GDPについて語る際、実質GDPと名目GDPの2つを理解することが重要だ。また、両者の計算方法を理解すれば、政策当局が国の経済状態をどうみているのかがわかる。

実質GDPとは何か?

まずは本記事のメインテーマから解説していこう。エコノミストはGDPを使って一国の経済産出量を計算する。GDPは国全体の民間消費/支出、総投資、政府支出、輸出の合計から、輸入を差し引いた合計であり、ドルまたはその国の通貨で表示される。

エコノミストによると、理想的なGDP成長率は年率2~3%だ。

GDPの数値とその変化率は、一国の経済の成長または縮小を表す。経済が拡大しているときは消費支出が多く、企業は生産や雇用を拡大する。経済が減速しているときは人々が消費を控える結果、企業が生産を縮小し、雇用が減少する。

米国では商務省経済分析局(BEA)がGDPの計算を行っており、2つのGDPを公表している。

  • 名目GDP(インフレ調整前GDP)
  • 実質GDP

どちらも同じ要素に基づき計算されている。名目GDPは現在の金額に基づいた数値のため、価格上昇と産出量の増加がともに数値に反映される。一方、実質GDPはインフレやデフレを考慮し、価格変動の影響を控除した実際の産出量の増加のみを測定している。これが大きな違いだ。

実質GDP vs. 名目GDP

エコノミストは、名目GDPよりも実質GDPの方が経済産出量の正しい尺度だと考える。GDPは金額で表示されるため、名目GDPの方が大きい場合は、経済が拡大しているのか、あるいはコストが上昇しているだけなのか、という2つが考えられる。実質GDPは物価変動を調整した後の数値なので、インフレやデフレが計算式に織り込まれている。

名目GDPはその年の物価で成長率を表すため、ある1年の中で利用する場合には名目GDPで十分だ。だが、ある年と翌年の成長率を比較する場合には、実質GDPの方が正確な指標となる。

名目GDPはインフレ調整前の今の価格で計算されるため、少なくとも経済が拡大し物価が上昇している場合には、実質GDPよりも大きくなる。だが、デフレを含む景気後退期や不況時には逆になる。つまり、経済成長と物価がどちらも低下し、その結果、名目GDPが実質GDPを下回るのだ。

物価が上昇している景気拡大期には、名目GDPを過大数値と考えることができる。反対の場合には、名目GDPは過小評価された数値となる。

以下のグラフは、同じ期間の実質GDPと名目GDPの違いを表している。

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実質GDPの計算方法

実質GDPは、名目GDPをGDPデフレーターで割って求める。

BEAが算出しているGDPデフレーターは、基準年度(現在は2012年)からの変動率としてインフレやデフレを測定している。2020年4–6月期(第2四半期)のGDPデフレーターは112.87、2022年第1四半期は123.61だ。

では、2022年第1四半期の数値を例に実質GDPを計算してみよう。2022年初めの米国の名目GDPは24.38兆ドルで、GDPデフレーターは123.61だった。このとき実質GDPは、以下の計算式で求められる

24.38兆ドル÷1.2361 = 19.7兆ドル

つまり、2022年第1四半期の実質GDPは19.7兆ドルになる。

注:このデータは原文記事執筆時点(2022年7月11日)のものであり、その後改訂されている可能性がある。

なぜ実質GDPは重要なのか?

BEAが四半期ごとに公表する実質GDPは、さまざまな反応を引き起こす。

政府に対する影響

GDP成長率が急速に鈍化または拡大しているとき、政府や米連邦準備理事会(FRB)のような中央銀行は、その流れを変えるために対策を講じる。そうした対策が投資家にも個人にも一様に影響を与える。

GDP成長率が低下しているならば、政府は支出を増やし減税を行う一方、中央銀行は利下げに踏み切るだろう。これらはすべて、個人や企業が支出を増やせるように利用できるマネーサプライ(通貨供給量)を増やすことが目的だ。

支出が増えれば経済が活性化され、需要が伸び、それが生産増につながり、最終的に雇用が増加する。雇用の増加は、可処分所得を持ち、支出に回せる個人が増えることを意味する。

投資家に対する影響

株式市場もまた、四半期ごとの実質GDPの発表に反応する。GDPは経済の健全性を表す指標であり、株式市場の動向は将来の地合いを反映することから、実質GDP成長率がプラスとマイナスどちらになるかによって相場が変動する。

トレーダーや投資家は、実質GDPの発表や期待値に基づいて取引を選択し、タイミングを測ることが多い。同様に実質GDPの変動を受けて、投信運用会社は保有銘柄の売買を決めたり、年金基金の運用会社はポートフォリオの資産構成を変更したりする。

個人に対する影響

GDPの数値が直接個人に影響することはないが、それに対する政策当局の対応は個人に影響を及ぼす。

例えば、FRBが実質GDPの低下に対抗して金利を引き下げれば、借入コストが安くなるため、借金を申し込むのに良いタイミングだ。また、家を買おうと思っているならば、住宅ローン金利が下がっていることに気が付くだろう。すでに住宅を所有している場合は、今の住宅ローンを新たに低金利のものに借り換えるのも戦略的な一手だ。

だが、景気の低迷が続くと、最終的に人員削減や失業の増加につながることが多い。そうすると消費者は支出を抑制し、特に保守的なマネーマーケットアカウント(MMA)や米国債への貯蓄を増やすかもしれない。

結論

GDPは、経済が今、景気サイクルのどの局面にいるかを浮き彫りにする。GDPは、経済全体が拡大しているのか、それとも縮小しているのかを測るマクロ経済指標なのだ。

実質GDPは、経済産出量のインフレ調整後の値であり、名目GDPと実質GDPの違いを理解することが大事である。

実質GDPは政策当局に、景気後退や不況、または急激なインフレが迫っていることを示す厄介な動向や、こうした問題への備えや対処法について洞察を与えてくれる。実質GDPの変動によって、個人は今の経済状態がわかる。それは、この先の景気見通しが良いから支出を増やすべきか、雲行きが怪しいから貯蓄を増やすべきかを判断するのに役立つだろう。

※この記事はもともと 2023 年 1 月に公開されたものです。

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