地球の地殻から内核までの層を表したイラスト。
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- 地球の内核は、回転を一時停止し、逆回転を始めた可能性があることが、新たな研究で示された。
- 地震や核実験によって生じる地震波は、謎の多い内核を突き抜けて伝わっていく。
- これらの地震波は、1970年代に内核が回転する向きが変わったことを示唆しており、現在もまた逆回転を始めた可能性がある。
地球の表面に暮らす人間には、この惑星の0.5%しか見えていないが、地殻、高温のマントル、液化した外核の下には、地球最大の謎の1つである鉄の塊が存在している。
この鉄の塊が地球の内核だ。2009年頃から回転が止まり、その後、理由は分からないが回転の向きが変わった可能性があることが新たな研究によって示唆された。
地球が壊滅するかのように感じられるかもしれないが、その心配はない。地表での暮らしに多少の混乱を与える以外には大きな変化はないと科学者は考えている。
南カリフォルニア大学の地球物理学者であるジョン・ビデール(John Vidale)は、「害はないだろうが、地球の奥深くで起きていることは理解しておきたい」とワシントン・ポストに語っている。
2023年1月23日付で査読付き学術誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に掲載されたこの研究論文は、内核が約70年ごとに回転の向きを変化させている可能性を示唆している。
2009年前後における地震と核爆発による地震波の伝わり方が示すこと
1956年5月30日、マーシャル諸島北部のエネウェタック環礁で核実験が行われた。
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内核を直接見ることはできないが、強い地震や冷戦時代の核実験の際に、地震波が地球の内部をどのように伝わっていったのかを観測することで、その活動についてヒントを得ることができる。
この観測により、内核の大部分が純粋な鉄とニッケルでできていること、内核の回転速度が地球の他の部分より少し速いことが明らかになった。
もし内核が動くことなく、外側の層と同じように回転していれば、同じような地震波が同じような経路で通過するはずだ。しかし、地震波の動きは時間の経過とともに変化しており、内核そのものが変化していることを示している。このような地震波の不一致を説明する有力な説の1つが回転だ。
今回発表された研究は、内核の回転についての議論に一石を投じるものだ。研究者らは1960年代から現在までの地震波を詳細に調べたところ、奇妙な現象を発見した。2009年以降の10年間、地震波の経路が変化していないのだ。このことは、内核が2009年頃に回転を止めた可能性を示唆している。
また、2回の核実験から得られたデータによると、1971年頃にも同様の現象が起こり、その後内核が東向きに逆回転するようになったことが示唆された。このことにより研究者は、内核が約70年ごとに回転を一時停止し、その後逆回転するようになると考えるようになった。
これは、地球の磁場が内核を引っ張って回転させる一方、マントルの重力場がそれに対抗する力を生み出し、内核の回転を引き止めているという説だ。約70年に1度、一方の力が他方に勝ち、内核の回転の向きが変わると研究者らは考えている。
内核は大きな謎。永遠に解明できない可能性も
地殻、マントル、外核、内核の層から成る地球の構成を示した概念図。
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内核についての情報はあまりにも少なく、このような地震波の奇妙な現象を説明するのは困難であり、憶測も伴う。
別の説としては、内核全体が回転しているのではなく、その表面が時間とともに変化しているというのがある。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の地震学者である温联星(Lianxing Wen)は、2006年の論文でこの説を取り上げ、現在もその立場を貫いている。彼はこの説の方が1971年と2009年に内核の回転が止まったことをうまく説明できるとワシントン・ポストに語っている。
一方で、今回発表された研究については「内核表面でたまたま発生した変化によって引き起こされた地震波のシグナルを誤って解釈している」と否定的だ。
今回発表された研究は、内核の謎めいた性質や、地球の他の層とどのように相互作用しているかについて、さらなる光を当てることになるだろう。しかしその全貌の解明には、まだまだ時間がかかりそうだ。もしそれが可能であればの話だが。
「解明されない可能性もある」とビデールはニューヨーク・タイムズに述べている。
地球の内核を描いたイラスト。
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「そうだとしても、私は楽観主義者だ。いつかピースがうまくはまると思う」
それまでビデールや彼の研究仲間は、地球の片側から反対側へ、彼ら自身が決して行くことのできない鉄の内核を通過していく地震波に耳を傾け続ける。